#10ライオネル王子
兄貴と呼ばせて!
『困った事があれば私を頼るがいい』か……。
いくら王子といっても、えらい自信過剰なやつだな。
次男のくせに“兄貴枠”か?
こういうやつ、俺は苦手だ。
自分の器の小ささを見せつけられてるようで嫌な気持ちになる。だって俺は長男だけど、こんなこと言った事もないからな!てか、俺は頼られたところで解決してやれる分野なんか無いに等しい。
ま、だからと言って、ここであからさまに敵対するほどバカじゃないけど。
「──これは、ライオネル様。この度はご入学……」
「ああ、いい、いい、そんな挨拶はいらない。今日からは同級生だ。クラスも同じSクラスだしな。よろしく頼む」
爽やかな笑顔で握手を求めるかのように手を出してきた。
俺はその出された手を見つめた。
──なんか嫌なんだけど。こいつエリックのライバルだよな?乙女ゲーで男同士で仲良くするメリットって、なんかあんの?
そのライオネルが差し出した手をガシッと握った。
「こちらこそよろしくお願いいたします。ライオネル様」
──なーんて事思ってても、ここで拒否る根性は持ち合わせていないぜ!だって相手は権力者だよ?王子だよ?逆らうとか無くない?気分ひとつで殺されちゃうかもよ?
「……君は私と同じ首席だろう。王子としての立場から新入生代表として答辞は私だが……。良き友敵に出会え、これからが楽しみだ。ああ、私の事は“ライオネル”と。この学園内では対等でありたいと思っている」
グッと握り返され、そう言われた。
──“友敵”……ライバルか……王子からそんな事言われるの、悪い気はしないな。まぁ?どうしてもって言うなら、友達になってやらなくもないこともないけど?
「はい。ボクも楽しみです……ライオネル」
にっこり笑って手をふった。
手を離し、周りを見回した。
──おお、既に大注目じゃん!
まぁね、主役級の二人が並んじゃってるんだ。目が惹き付けられて当然だわな!
くくく!
あ、あの娘、既に俺に惚れたな?あの娘も顔が赤い。頬を染めてハートの目でこっちを見てる。
パチッと目があったので、ニコッと笑ってやった。
きゃーーーー!!!っと言いながら隣の女子と手を取り合ってピョンピョン跳ねて喜んでいる。
わ~~~気持ちいいわ~~~~~~!
これ、すごい優越感じゃない?
芸能人ってこんな感覚なのか。
俺、もうここ出なくてもいいかな?
こっちのが幸せな気がするよ。
あ……駄目だ!部屋に見られたらヤバいやつ、置きっぱなしだった!!
それに黒歴史ノートもあったよな……。パソコンも消去しないと……。
うん、あれらを処分するまでは、のほほんとここに居られない!
「やっぱりユリアちゃんがネックなんだよな」
このライオネルを打ち負かし、ユリアちゃんと婚約する!
ちらと、太陽のように輝くライオネルを見た。
微笑みを浮かべ、皆に手を振り返している。
王族の貫禄というやつか、様になっていた。
「そろそろ中に入りましょう、ライオネル様」
お付きの者に促され、ライオネルが体育館の方に向かった。
「エリック、一緒に行こう」
スッとまるでエスコートするかのように手を差し出された。
いやん、何!?この人、あたしに気があるの?
って、誤解してまうわ!
うわー王族ってこんなんなんかー。
スマートだわ~~~。
………………あれ…………なんか…………ちょっと……俺、大丈夫か……?
頭を軽く振った。
──大丈夫、何不安になってんの?俺!これはゲームなんだ。こいつだって設定で動いてるだけだろ。あぶないあぶない、飲み込まれるところだった。
「はい」
一抹の不安を抱えながら、ライオネルと並んで体育館に向かった。
チョロ過ぎだよ……悟ルン……