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創世神は世界を救う勇者を求めているようです~最強ステータスでサクッと救世!転生したら異世界で無双できるってホンマでっか!?~

 どこまでも続く暗闇、その中にひとつ、地球によく似た星が浮かんでいる。

 青く美しい海、豊かな自然に覆われた美しい緑色の陸地。しかし、その地形は地球には存在しないものだ。


 その星を、あるものが眺めていた。

 光に包まれた存在。そのものが放つ光で輪郭はおぼろげだが、人型のようにも見える。


 その者が両腕を前にかざすと、空間の一部に光が集まり始めた。

 光は徐々に人の形を成し、やがて輝きが薄まると、その中から一人の人間が現れた。

 黒い革のジャケット、使い古されたジーンズを身に着け、髪は茶色く染めている。


「あ……?」


 光が完全に消え去ると、その男はゆっくりとあたりを見回した。


「う、うわっ! なんだ!? 地面がねえ!」


 彼は宇宙のような空間にいることに気づき、慌てて足をばたつかせた。

 そのままバランスを崩し、無様に尻もちをついてしまう。


「あ、あれ?」


 尻もちをつくことができた、ということに気が付き、男は立っていたあたりの空間を手でさする。

 地面のような感触はないが、しっかりとした抵抗を感じる。

 転んでしまった今も、体が沈んだり回転したりすることはない。

 そこで彼は無重力の空間に放り出されたわけではないと理解した。


「ンだよここ……VRか?」

「やあやあ、気が付いたみたいだね」


 ふいに誰かから声をかけられ驚く。あたりを見ても、他に人はいない。

 ここにあるのは目の前の不思議な光を放つ物体だけ。

 だが漠然と照明のようなもの、と思っていたそれが人の形をしていることに気が付いた。


「はじめまして、こんにちわー。急にこんなところに呼び出されちゃって、やっぱりびっくりした?」

「は、はあ? なにこれ、あんた何なの?」

「あんただって、失礼しちゃうねー。あ、話し方のせいで幼稚に見えちゃうからかなー? まあいいや、楽だし」


 光は男の方へゆらりと近づいた。


「いろいろ不思議に思ってるだろうから、説明してあげるよ。まず自己紹介、ボクは、神だ」

「か……はぁ?」

「そう、神。地球をつくり、生命をつくり、それに魂を与えた者さ。てことは、キミらが神と呼ぶ存在、そのものだろう?」


 突拍子もない名乗りに男は言葉を失い、眉を顰める。

 その様子をよそに、神と名乗った存在は話を続ける。


「それで、キミがいま置かれた状況だけど、まずキミ、ここに来るまでになにをしてたか覚えてる?」

「……たしか、俺は山道でバイクに乗ってて……カーブで前からトラックが突っ込んできて……ってまさか」

「そ。きみはそのあと死んじゃったの。即死だね」


 男の顔がさっと青ざめた。

 確かに対向車線からはみ出したトラックが目の前に迫っていたことも、けたたましいクラクションが聞こえたことも、その直後に大きな衝撃を感じたことも強く記憶に焼きついている。

 しかし、それで彼がそこで命を失ってしまったことまでは、未だに信じられないといった様子だった。


「し、死んだって、嘘だろ? じゃあここは天国だっていうのか? ふざけんな、なんかのドッキリだろ!」

「んー、ちょっと、違うかなー……人間は死ぬとキミらが想像してるところとは違うところに行くんだ。でも、キミが死んでしまったのは事実だ。じゃあここは何かって言うと、若くして死んでしまったキミに、ある役目を与えようかと思ってね」


 すると神はふわりと浮かび、男の背後へ回った。

 その動きを目で追った男は、そこで初めて彼の背後に青い巨大な星があったことに気が付いた。


「……地球? いや、なんか、違う……?」

「そう、海も陸もあって地球みたいだけど、地球じゃないんだよ。もっと言うと、この空間もキミらのいた宇宙とは違う場所なんだ。『異世界』って言えば分かりやすいかな?」


 神はその青い星に向けて指をさした。


「で、キミに与える役目っていうのは、この星を救ってもらいたいんだ」

「へ?」


 突然示されたあまりにも大きな使命に、男は呆けた声を出した。


「救う? 星を? いや……なんで?」

「この星にはね、キミらの世界とは違う生き物がたくさん住んでいるんだ。人間よりすごくでかいヤツもいるし、火を噴いたり、雷を操るヤツもいる。そんなヤツらがこの星を荒らしていて、この星に住んでいる人間――あ、ここにも人間はいてね、その人たちがいますごーく困ってるんだ。だからそいつらをやっつけて、ここの人たちを安心させてほしいんだ」

「火に、雷? そんなやつ、俺がどうやって――」

「心配しないで! 異世界から呼び出されたキミは、特別な能力が与えられるんだ! こんな感じに……『ステータスオープン』」


 神がそう言うと、突然男の目の前に半透明の『窓』が現れた。

 そこには男にも読むことのできる文字で、こう書かれていた。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

 サイトウタケル

 レベル  1/39

 攻撃   B

 耐久   C

 器用   C

 俊敏   B

 魔力   C

 特殊能力 騎乗

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


「ふーん、こんな感じかぁ」

「お、おい、なんだこれ!? 俺の名前……それに、攻撃とか魔力とかって」

「それがキミのステータスさ、この世界でキミがどれだけの強さを持ってるか分かるんだ。ま、説明してあげると……」


 神は男のすぐ横に近づき、表示された文字のひとつひとつを示しながら言う。


「まずレベルね、これは今が1で、上限が39ってことね、これはキミがこの世界でどれだけ成長できるかってコト。次に攻撃力、これはキミが敵を殴ったり斬ったりしたときにどれだけダメージを与えられるかの指標だよ。耐久はその攻撃にどれだけ耐えられるかってコト。器用は生産系の技術とかに影響するね、あと遠距離からの狙撃とか。俊敏は足の速さとか反射神経の良さで……そうそう、この世界には魔法って概念があって、この魔力が高いと、キミも雷を操ったりできるんだよー。特殊能力は騎乗だね、馬とか練習なしで簡単に乗れるね」

「あ、あぁ……?」


 早口の説明に男はあまり理解できていない様子だ。


「おい、このBとかCってのは……」

「これね、そのステータスがどれだけ強いかってコト。ざっくり言うと、Eで才能なし、Dで一般人程度、Cで訓練した人、Bで専門家、Aで達人って感じね。あ、Sランクってのもあって、これだと歴史に名を遺すくらい伝説級の才能持ちってことになるよー」

「……Bは結構強いってことでいいのか? 一応ちょっと体鍛えてたし、それが出てるってことか?」

「うーんあんまり関係ないかな? この辺全部ランダムで決まるしねー。そもそも魔力とかキミの世界にないでしょ?」

「……あっそ」


 つまらなさそうな男に、締めくくるように神が一声かけた。


「それでキミの総合評価だけど――騎士団の小隊長って感じだね!」


 男はポカンとしている。


「何それ……強いの?」

「うん、微妙だね。そのへんの人よりは腕が立つけど、救世主は荷が重いって感じだね!」


 両者とも黙り込んでしまった。

 一息の沈黙の後、たまりかねた男は神に激しい口調で言葉を浴びせる。


「……さっきから何なんだ、勝手に変なところに連れてこられたと思ったら、俺の力を勝手にBだのCだのランク付けしやがって! それに世界を救えとか、やっぱり微妙だとか! 俺をナメんのも大概にしろ!」

「うんうん、キミの言うことはもっともだ。だから、また別の人に期待してみるよ。じゃあね!」

「分かったらさっさと俺を元いたところに゛っ――」


 その瞬間、男の体がまるで雑巾を絞るかのようにねじ曲がり、縦に細く引き伸ばされた。

 際限なく細く、さらに細くなり、やがて視覚では捉えられなくなり、後には何もない空間だけが残った。


「一発目はハズレかー……ま、いきなりうまくいくわけないよね。つぎつぎー」


 ・

 ・

 ・


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

 ヤマモトシゲユキ

 レベル  1/47

 攻撃   A

 耐久   B

 器用   D

 俊敏   D

 魔力   E

 特殊能力 四大属性

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


「魔法使えないくせに属性持ちとかやる気ある? 次!」


 ・

 ・

 ・


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

 フジワラカレン

 レベル  1/3

 攻撃   B

 耐久   D

 器用   A

 俊敏   A

 魔力   C

 特殊能力 成長加速

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


「レベル上限3って……せっかくの能力が死んでるじゃん! 次!!」


 ・

 ・

 ・


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

 トミヤマショウタ

 レベル  1/14

 攻撃   E

 耐久   D

 器用   E

 俊敏   C

 魔力   E

 特殊能力 釣り

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


「ゴミ!! 次!!!」


 ・

 ・

 ・


「はあーっ……たく、そろそろ」


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

 ハスミユウト

 レベル  1/80

 攻撃   D

 耐久   S

 器用   B

 俊敏   C

 魔力   E

 特殊能力 頑丈

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


「おっ、Sランク持ち! やーっと使えそうなヤツがきたねー」


 その後も神は何度も同じことをしていた。

 神の目的に合う人間が見つからないのか、呼び出した傍から画面を確認し、消し、また呼び出す繰り返しをしていた。

 だがようやく目に留まる人間が現れたようだった。


「ふんふん、耐久向きで、それでもって特殊能力とのシナジーも良しと……」


 神は空中に浮かんだ画面を食い入るように見つめている。

 その傍らに、ゆったりとした病衣のような物を纏った少年が立っていた。


「お、おい、お前は何なんだ……というより、人なのか……?」


 奇妙な空間で目が覚めたと思いきや、目の前の不思議な発光体が何かを呟いたと思うと、突然おかしな画面が現れて発行体がそれをじっと見つめだす。

 そんな突拍子もない展開の連続に彼は混乱していた。


「あんたとかおまえとか、失礼なヤツばっかだなあ。後で相手したげるからちょっと待っててよー」


 神は不機嫌そうに返事をするのみで、彼のことを顧みようとしない。だが少年は質問を重ねる。


「……なあ、もしかしてここって、天国? あんたもしかして、神様だったり……?」

「ん? なんだ、気づいちゃってる感じ? うん、そう。キミは死んで、ボクがその魂をここに呼び寄せたんだ。察しがいいと助かるよー、さっきから喚く人ばっかりで面倒くさくってさ」


 相手にする気はなかったのだが、察しのいい質問に神は気を良くしたのか、あっけらかんとした態度で少年が死んだこと、ここが元いた世界とは違うことを簡単に説明した。

 それを聞いた少年は軽く肩を落とした。


「やっぱ、そうか……小さいころからずっと寝たきりだったから、いつかこうなるかなって思ってたけどさ……」

「あー身の上話とかはいいよ。ここに来た人間たちの生い立ちなんか誰のでも把握してるからさ。なんてったって神だからね」


 威厳のかけらも感じられない自称神に胡散臭さを感じるも、少年は神に尋ねる。


「……これからオレ、どうなるんだ? 生まれ変わったりとか……?」

「お、察しがいいねえ。勘のいい子は好きだよボク。よし、キミは物分かり良さそうだから、いくらか説明してあげるよ」


 神は画面から顔を上げ、少年に語り始めた。


「ほら、すぐそこに地球そっくりの星が見えるだろう。でもなんか変でしょ? そう、これはキミのいた地球じゃないんだ。そしてこの星にはね、地球とは違う生き物がたくさん住んでて、人間よりすごくでかいヤツもいるし、火を噴いたり、雷を操るヤツもいる。そんなヤツらがこの星を荒らしていて、この星に住んでいる人たちがすごーく困ってるんだ。だからボクは、そいつらをやっつけて、ここの人たちを安心させてくれる人を探して、キミをここに呼び寄せたってワケ」


 神が話し終え、少しの沈黙の後、少年は大きな声を上げた。


「そ、それって……異世界転生モノじゃないか!」


 彼は興奮した様子でまくしたてる。


「病院でもよく読んでたぜ! これから俺が神様にチート能力をもらって、剣と魔法の世界に転生して世界を救うヒーローになるってことっしょ!? でもまさか……まさかそんなラノベみたいなことが現実になるなんて! 昔からずっとベットの上で学校もいけない最悪な人生だったけど……転生最ッ高!!」


 神はその様子に嬉しそうに返答する。


「いやーやっぱ若い子はこういうのちゃんと分かってて話が早いよねー。まあちょっと違うのは、能力はランダムだからボクから能力をあげるってワケにはいかないんだけどさ」

「あ、そうなの? でもさっき、Sランクがどうとかって言ってたよね!? じゃあオレ、なかなか良い能力持ちってコト!?」

「そそ。ほら、これがキミのステータス」


 神が画面を少年の前に動かす。

 少年はその画面に飛びつくように読み始めた。


「へー、ラノベでもこんなのあったけど、ほんとにゲームみたいだ……この『頑丈』ってのは?」

「それね、ケガしにくくなったり、病気にかかりにくくなったりするんだよ」

「え、病院暮らしだったのに……? まあ、ランダムだからってことか。でも、耐久もSだし、ガチガチのタンクキャラってことかな……いくら殴られても倒れない、仲間たちを前衛で守る主人公……なかなかアツいじゃん! 他は微妙だけど、オレけっこう活躍できそうじゃない!?」

「そ、微妙なんだよねー」


 少年の様子と裏腹に、神は冷めた反応だ。


「い、いや、そりゃないよ神さ――」

「そりゃあ耐久力は抜群なんだけど、攻撃も魔力も無さすぎるし長期戦になるやつじゃん。爽快感のないゲームってボク嫌いなんだよねー」


 神の淡々とした口調に少年はだ徐々に不安を感じ始めた。


「そ、そうなの……? じゃあ、能力の振り直しとかで……」

「あー、そうだね。やっぱやり直しするかー。キミで33人目だけどさ、ここまで来たら神キャラ出るまで粘ってみるよー」


 その言葉に、少年の不安は確信に変わった。

 能力のランダム付与、ランク付け、そして、自分で33人目という言葉。

 まるでゲームのような設定。それも、決まったヒーローが主役となるモノではなく、プレイヤーがヒーローを吟味するような――


「ちょっと待て、まさか、ガチャやってるんじゃ――」

「ってことで、バイバイ!」


 その瞬間、少年の腕が、足が、胴が、体の中心に吸い込まれるように引き寄せられ、捻じれ、細く引き伸ばされはじめた。

 神はそれまで何度も繰り返してきたように、その者の存在を捻り潰そうとした。

 だが――


「うぎっ!?」


 突然、歯車に異物が挟まった時のように、捻じれが急停止した。

 少年の体がいびつに歪み、荒れ地に立つ枯れ木のような姿となっていた。


「な、なに……どうなってんだ、オレ……」


 その姿のまま、少年が口を開いた。

 普通の人間であれば、この状態では生きていることなどありえないだろう。

 だが今の彼は肉体を持たない、魂だけの存在だ。

 痛みは無く、血を流すことも無いが、彼は強烈な違和感を感じていた。


「あれ、耐えた? なんで? あ、もしかして能力のせい? ふっはは、おもしろー! へー固いとボクの力にも耐えるんだー!」

「な、なにをした、んだ」


 奇妙な肉塊と化した彼から声が発せられる。

 その様子に神は腹を抱えて笑い出した。


「うっひゃひゃ! キ、キミ、そんなかっこで喋んないでよ、面白すぎるから! ほら、自分の格好見てみなってー!」


 すると、少年の前に大きな鏡が現れた。

 彼は自分の姿を初めて認識し、いびつな叫び声をあげた。

 その状況に神はまたもや笑い転げている。


「ひー、ひーっ。あーおもしろ」

「はっ、はあっ、はあっ……お、おい、なんだよコレ……もとに戻してくれよ……!」

「いやぁー無理だねえ。こんなグチャグチャになっちゃったら取り返しつかないよぉ。あ、粘土みたいにこね直してみる? 人型にできるか分かんないけど、ぎゃはは!」

「ふざけんなぁ! 遊んでるつもりかぁ!」

「うん、遊びだよ?」


 全く悪びれずに即答する神に少年は絶句した。


「ボクがやってるのはただの遊び、そのために地球で使わなくなった魂を再利用してるだけさ。でか命もなにも、キミはもう死んでんだって。そもそもキミらの世界じゃ一日20万も死んでんだから、そっからちょっとくらい好きに使ってもいいでしょ?」

「な、なん……だよ。こんなとに、いきなり連れてきて……勝手にゲームみたいな数字押し付けて……こんな扱いとか、そんなことが……」

「だからぁ、その数字じゃ測れないのがめんどくさいから、こーやってランク付けしてるわけ。あ、ランダムなのも生きてた時なにしてたとか見るのめんどくさいからねー」


 神は青い星を背に、両手を広げ仰々しく語り始めた。


「我ながら地球はよくできた仕様だと思うよー。隙のない物理法則、緻密な生体システム、自律進化する成長プログラム。でもねー、ガチガチに作りすぎちゃって、後から手を入れにくいんだよねー。ちょっと遊んでみようと思っていじると、ボクもよくわかんないところで影響でちゃったりするしさー。だから、遊び用の世界はうんと単純に作ってみたんだ! 生き物みーんなに分かりやすいステータスを設定して、強さもランク付けして、魔法もなんでもありにして、キミたちがつくった“ゲーム”みたいにね。あれ面白いよねー。参考になったよ!」


 神には顔がなく、首の部分も光に包まれており表情は伺えないが、醜悪な笑みを浮かべているように錯覚した。

 少年は畏れを覚え、すっかり気勢を削がれてしまったようだった。


「わ、わかった……もういい、から……異世界とか、もういいから、地球に、日本に、帰してくれ……」


 少年は媚びるような口調で神に地球への生まれ変わりを懇願した。

 しかし、それを聞いた神は冷淡に答えた。


「は? 帰せるワケないじゃん。だからキミ、死んでんだって。あのさ、地球の人間が一日何人生まれてるか知ってる? 40万だよ? 死んでる数と合わないじゃん。さんすうできる? ヒトが生まれ変わるんだったらさ、なんでこの数合わないの? 言ったでしょ、地球は完璧な作りなの。それを作ったボクがそんな雑なことすると思ってんの?

 あのね、生まれる分ってのは完全に自動生成なの。腐った肉を外に捨てときゃウジ湧くでしょ? それと一緒。魂も同じだよ? 肉体の生成に合わせて、勝手に自己生産するように出来てるの。ほらすごいでしょ? 勝手に増えて動き出すボクの作った世界の生体システムさ。その完璧な方の世界に使い回しの魂なんて送りたくないよ、バッチイから。あ、こっちの遊び世界は別ね? 悪影響が出てもどうでもいいし」


 神にとっては、人も虫も価値は等しいようだ。

 そして、いま見えるこちらの世界そのものの価値はそれよりも低いらしい。

 そのような世界に送られていたら、一体どうなっていただろうか――神の言う役目を果たしたところで、碌な目に合わないだろう。

 異世界転生に少しでも期待を抱いていたことに少年は後悔した。


「じゃ、じゃあ……オレはどうなるんだ」

「んー、普通だったらさっきので潰してまっさら消しちゃうんだけど、キミ消えてないからねー……」


 神は少し考えるような素振りを見せた。

 まさか、ずっとこの醜い姿のまま、置き去りにされるのでは。少年はそう思い寒気を覚えた。

 そしておもむろに神が口を開いた。


「と、思ったけど……ボクの力に一回でも耐えるとか面白いから、特別措置! この世界に降ろしてあげる! 敵キャラのボスとしてね!」

「ボ……ス?」


 神は気が変わったのか、やはりこの世界に転生させるという。しかし敵キャラ、つまり、人類に仇なす側として。


「ボスはやっぱ固いヤツじゃないと張り合いないからねー。いやー敵キャラにパッとしたやつ用意してなかったからちょうどよかったよ!」

「敵……? ……もう、好きにしろよ、でも……お前の思うように、いくわけ――」

「じゃ、好きにさせてもらうね! ついでに精神弄ってあげる。人間を見たら本能的に殺したくなるようにさ」


 神が肉塊に手をかざした。すると、肉塊の表面がグツグツと泡立ち、溶けて形を失いはじめた。


「あ゛、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ……!!!」


 少年は耐え難い苦痛を感じているのか、獣のような叫び声を上げる。

 やがて肉が徐々に固まりだし、新たな姿を形作っていった。

 輪郭は人に似ているが、全身は血が滴るように赤黒く、骨にそのまま肉を貼り付けたような恐ろしい様相。

 頭部には黒くねじれた角が二対、手足の先からは鋭い爪が伸びている。

 顔には元の面影などなく、眼球があった場所にはぽっかりと二つの黒い穴だけ空いていた。

 少年が得た新しい姿は、まさに悪魔そのものだった。


「ヴ、ヴヴーッ、ア、アアアアッ……!!!」


 肉体の変化は収まったが、なお苦痛にされされているのか、彼はうめき声とともに荒い呼吸をする。


「わーお、強そうになったじゃん! ま、見た目だけでステータスは変わんないんだけど」

「ア゛ア゛ッ……!! ゴ、ごろずっ!! ごろじでやッ……!!!」


 神の声に反応し、少年だったものは恐ろしい速さで爪を神に振り下ろした。

 しかし彼の動きがピタリと止まった。その爪は神に届かず、強力な磁石が反発するかのように、ギリギリのところで留められていた。

 神はその様子を気にも留めず、ポンと手を叩いた。すると少年を呼び出した時と同じ光の粒子が少年だったものを包みだした。


「うんうんその調子! そう、殺すんだよ! 下の世界でいっぱい人間殺して、みんなにたっくさん迷惑かけてねー!」


 そう言いながら、神は別れの挨拶をするように手を振った。

 目の前の彼の体が光の粒子と同化し、足元から肉体がほどけ、青い星へと降り注いでいく。

 神に爪を立てたその体制のまま、彼は呪詛とも断末魔ともつかない声を張り上げる。


「ア゛アアッ!! ア゛アアアアアアアアア……」


 その声も首から上が消えていくと同時に聞こえなくなり、また神のみが存在する静かな空間が戻ってきた。

 神は振っていた手を降ろし、何事もなかったかの様に振り返った。


「さて、勇者ガチャの再開といきますかー」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

 タカナシユイ

 レベル  1/99

 攻撃   S

 耐久   S

 器用   S

 俊敏   S

 魔力   S

 特殊能力 剣聖

      千里眼

      神聖属性

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


「きた……」


 神の前に、今度は一人の少女が立っていた。

 神は彼女を呼び出してからすぐに画面を出し、一言も口を利かずそれをじっと見つめていた。

 当然状況を飲み込めない少女はおろおろとするのみだったが、目の前の発光体が何か喋ったような気がしたので、注意深くそれを観察した。

 すると、それは突然大きな声を張り上げた。


「きたああああああああああああああ!! 神キャラ!!! やっときたよおおおお!!!!」


 少女は大声に驚いたが、知っている言葉を話していることに気づき、それに話しかけた。


「ね、ねえ……あなたは誰なの? それに、ここは一体――」


 しかし神は彼女の話を聞かず、矢継ぎ早にまくし立てる。


「さあさあ選ばれし勇者クン! キミはこれから世界を救う旅に出るんだ! 苦しいこと、辛いこともあるかもしれない。けれど、キミなら成し遂げられる!」


 神が手を叩くと、少女の体が光の粒子に包まれはじめた。


「え、なに! ちょっと、これはなんなの!? 説明してよ!」

「やだよめんどくさい。キミでもう6291回目なんだ。ボクはさっさと本編を始めたいの。何したらいいかは降りたら分かるよ、そーゆーふうに作ってあるからさ」


 少女の体が細かな粒子となり、足元からすぐそばの星へと吸い込まれていく。

 彼女は悲鳴を上げるが、その声はもう誰にも届かない。

 光の粒子はもう、青い星へと降り注いだ後だった。


「それじゃあ、楽しんでね! ボクも楽しませてもらうからさ!」

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