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懐刀・蛍狐

作者: ほづみ

よろしくお願いいたします。

この作品は第6回おおくま杯・戦慄杯の投稿作品です。

ロープライス☆ヘルウマの陰に隠した狂気をとくと味わって頂ければ幸いです。

畦道に蛍火が煌めく。

その夜、さとみは祭りに出掛けていた。

段々と明るさが増す方へ行くと、やぐらを囲んで回る盆踊り会場に出た。

踊りの熱気に当てられ、さとみもその輪の中に入った。

しばらく踊っていると、狐のお面をつけた男が踊りながら近づいてきた。

「こんばんは」

太鼓が荒れ狂う祭囃子の中、その声は鮮明に聞こえた。

「……?こんばんは?」

見知らぬ人に戸惑いながら、踊りながらさとみは答えた。

「お嬢ちゃん一人かい?友達は?」

「今は一人だよ。友達はいっぱい!」

「そうか、そりゃ良かった」

お面の男はさとみの横に居座り、踊り続ける。

「学校は楽しいか?」

「うん!楽しいよ!皆、毎日わたしにお花くれるの!」

「そうか、お嬢ちゃんはお花好きなんだな」

「うん!でも毎日同じ花なんだよね……たまには違う花がいいのに」

「皆良い奴なんだな」

「うん!他にも教科書隠したり破いたりしてくれる!」

「おいおい、そりゃ意地悪じゃないか?」

「えー?わたし勉強嫌いだから親切だよ!」

「勉強はしっかりしないと駄目だぞ」

「むー、狐さんなのにお母さんと同じ事言う」

さとみはもう話したくないと言わんばかりにそっぽを向いた。

年頃の女の子は難しい、と言いたげにお面の男は頬をかく。

しかし、さとみも本気でお面の男と話したくない訳ではなかった。

初対面どころか顔もわからない相手であったが、家族のような妙な安心感があった。

それに狐といえば、と思い出したように、さとみはお面の男に向き直り、尋ねた。

「ね、狐さんは恋愛の神様なんだよね?」

「え?違うぞ?」

「えー?皆休み時間に十円玉で狐さんに恋愛相談してるよ?」

「あれはもっとヤバい物だからやめた方が良い。なんだ?好きな男がいるのか?」

「うん、狐さんにだけは教えてあげるね」

踊りの邪魔にならない様に二人は輪の外へ一歩外れる。

お面の男はさとみの身長に合わせて耳打ち出来る様にかがんだ。

「……それなら良い方法があるぞ。これを使えばハートを射止めるどころかイチコロだ」

「ほんと!?教えて教えて!」

さとみが促すとお面の男は耳打ちを返す。

衝撃を受けた。

聞いた事のないおまじないに太鼓の律動と自分の鼓動が一致したかの様だった。

「凄い!狐さんそれ凄い……あれ、狐さん?」

からん、と音がしたかと思うとそこには誰もおらず、狐のお面だけが地面に落ちていた。

ふと気配のした方を見ると、おそらくお面をかぶっていたであろう男が手を振って50mほど先に立っていた。

声を掛ける間もなく、男は暗がりに消えていった。


居間のテレビにニュースが流れていた。

『次のニュースです。ハツ市テバサキ駅周辺で通勤途中の男性が

胸を深く刺され、道路上で横たわっている所を地元住民が発見しました。

現場には短刀が落ちており、男性は意識不明の重体、

警察は周辺を捜査中に血塗れの女子中学生を発見し、事件の関係者である可能性が高いとみて確保しました。

近隣住民によると女子中学生は護送中に「狐さんに教えてもらった」と意味不明な事を叫んでおり、心神喪失の可能性が見られるとのことです。

市の教育委員会は学校でもいじめ等の問題はなかったか、中学校へ調査を進めるとしています』

「あらぁ都会は怖いね。さとみは大丈夫かねぇ、お父さん」

そう問いかけた遺影には、狐のお面を斜めにかぶる男が写っていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


筆者コメント①

頑張って書きました。

以前から盆踊りをテーマに書きたいと思っていました。

盆踊りは死者の魂を供養する、盆の期間は死者の魂が帰ってくると何かとあちら側と結びつけやすいのでちょうどいい機会でした。

おそらくいじめられているであろうさとみちゃんがなぜここまで明るいのか。狐さんは本当に祖父なのか。恋愛相談がなぜ殺傷事件に発展するのか。

謎が残る系の恐怖で良い仕上がりになったのではないかなと思います。


感想1

この物語は大事な核心を伏せ、読者の想像力で補う作品であると感じました。幾つもの残された手がかりが絶妙で、真相に届きそうで届かない。色々と自分でも真相を考えましたが、完全に作者さんの手のひらの内だと思います。今回の参加作品の中で一番私好みの作品です。


感想2

和風のテイストを取り入れて季節感のあるホラーですね。説明的でなく、文脈や行間で解釈を膨らませるのがなかなかいいですね。


筆者コメント②

※以下ネタバレです



結果発表放送内でも少し触れたんですが、ちょっと優しく書きすぎましたよね。

本当、思い出の〇ーニーっぽくなってしまったと思います(個人の感想です)。

いじめられて心が完全に壊れちゃったさとみちゃん。無駄に明るいのもそのせい。

療養のために夏休みは祖母の家で過ごしてます。

盆は死者の霊が帰ってくることが許されているので祖父は心配で見に来るのですがとりあえず顔はバレないようにお面着用。

花をくれる→机に毎朝置かれる菊の花。本来不吉な花ではないが葬式に使われているので置いた、浅はかな学生のいじめ。

教科書隠したり破る→そのままいじめですね。意地悪じゃないのかという問いにさとみちゃんは親切だと答えます。勉強は好きじゃないのは本当でいじめられているとも言いたくない故の回答です。

恋愛の神様の話を急に持ち出したのは好きな人がいるからです。

しかしこんな精神状態では恋愛というよりは依存に傾いているのでしょう。

相手は担任の先生です。若い女の子、しかも自分の生徒に平気で手を出す屑です。

周りはいじめ、両親はとにかく成績しか気に掛けない、弱みに付け込んだ屑教師、これでは祖父もなんとか孫娘を助けねばと知恵を出します。

さとみちゃんの心が完全に壊れているのを逆手に取り、必殺の恋のおまじない、胸を一突きの懐刀・蛍狐を伝授します。

普通に殺人事件ですが心神喪失でさとみちゃんは無罪判決、屑教師は良くて重度の後遺症、悪くて死亡、いじめも明るみに出る、毒親からは離れられる、これが最善の一手だと祖父は結論付けました。

懐刀・蛍狐は祖父が所有していた実際の短刀であり、技であり、さとみちゃんの唯一の味方である祖父自身でもあるのです。

説明してもなんだかよくわからないトリプルミーニングがこの小説の意味する所なのです。

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