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放課後、中坂麗華は別人になる

 退屈な授業も今日帰ったら何をしようか考えたりとか、教科書に落書きをしていたりすると自然に時間も過ぎていくもので、気づけば終業の鐘が鳴っていた。


 やっほー! これで俺は自由だ! 時間が経つごとに上がっていったテンションがついに最高潮に達した。


 勢い余って心の声が口に出そうなまである。まあ、そんなことをすれば周りから白い目で見られるだけだしなんとか自制するんだけど。


 クラスの大半は、今から部活、とか先輩うざいとか言っていたけど、帰宅部の俺には関係ない。もしかしたら、部活をしていたから良かった、と思うこともあるかもしれない。


 でも、あいにく俺は部活に入る気にはなれなかった。幸いなことにこの鵜森(うのもり)高校では部活動の参加も自由なので、ありがたく俺は直帰を選んだ。


 それに帰宅部だって部って名前があるんだかられっきとした部活動だ。異論なんて認めない。


 俺はクラスメイト達に軽く挨拶を交わし教室を出た。ずりぃ、とかさっさと帰れとか軽口を叩かれたが気分のいい俺はそんな小さなことは気にしない。


 それに、あいつらも面倒だなんだ言いつつ、部活動が始まればなんだかんだ楽しそうにするんだし、おあいこだ。


 俺は電車で数駅揺られ、駅から歩いて家に帰った。鍵を開け、玄関に入る。そして、玄関にあった見慣れない、いや、あまりにも見慣れすぎてしまった我が家の者でない靴を見て一気に気分が落ち込んだ。


 両親は共に仕事へ出ているし、姉の(なぎさ)も今年から上京して大学に行ったからこの時間、我が家には誰もいない。正確には犬の小梅がいるんだけど、今日は眠っているらしく俺が帰ってきてもお出迎えがなかった。


 とりあえず、問題を先送りにするわけにもいかず、俺は帰り道とは打って変わって重い足取りで階段を上り、二階にある自分の部屋に向かった。


「あ、おかえり」


「おう、ただいま......って、なんで今日も当然のようにいるんだよ!」


 俺の帰りを出迎えたのはおそらく学校で八方美人と呼ばれていた美少女だった。


 その美少女は俺のベッドで寝転がり無防備な格好で漫画を読んでいた。そのだらしない姿にはもはや八方美人の面影など一切ない。


「なんでって、いつも来てるじゃん」


「はぁ、俺の言い方が悪かった。なんで毎日のように俺の部屋に来るんだよ!」


「幼馴染の部屋に来るのってそんなに変かな?」


 まるで、何もおかしなことはないとでも言いたげな表情で麗華は言った。


 麗華の言う通り俺達は幼馴染だ。本当にこんなことでもなければ俺と麗華が関わりあうことなんて絶対にありえなかった。


 こいつと幼馴染なのは平凡の鑑である俺にとっての唯一の非凡だと言っても過言ではない。いや、そこは過言であってくれよ。もっと俺に才能をください。


「幼馴染でも毎日来るのはおかしいんだよ」


「そうかな? でも、綾人も私と一緒にいれて嬉しいでしょ?」


「ったく、どっからその自信が湧いてくるんだよ」


「だって学校でもトップクラスの美少女と二人きりだよ? 嬉しくないわけないじゃん」


 こいつ、キョトンとした顔で言いやがった。確かに美人なのは間違いねえけど認めたくねえ。


「クラスのみんななら泣いて喜ぶレベルだよ? それに比べて綾人は私が来てあげてるっていうのにお茶菓子も出さずに……。そんなのだからモテないんだよ」


「じゃあ、帰ってもらって結構だ。さっさと帰れ。しっしっ」


 俺の怒りもそろそろ限界だ、虫でも払うかのように手の平を上下に振り麗華にお帰り願った。


「うわー、何その態度。私に向かってそんな態度とっていいと思ってるの?」


「大いに思ってる。てか、お前こそ居座らせてもらってるんだからそれなりの態度を取れよ。ほら、例えば学校の時みたいにしてみるとか」


「ふん、わかった」


 麗華はそう言うと、一つ深呼吸をした。麗華の纏う雰囲気が一気に変わった。


 ベットから起き上がって立ち上がると、すたすたと俺の方へ歩き始めた。歩く姿すら一流モデルに劣らないほど絵になっていた。


 そして、俺の前に立って、止まった。距離にして、一メートルもないくらい。近い。


 麗華の匂いが、俺の鼻にまでしっかり届いた。甘い香り。でも、不思議なことに、不快になる程強くはない。


 距離が近いからつい、いつもより見てしまう。


 唇が艶やかに光ってるとか。意外と胸は膨らんでいるとか、そんなどうでもいいことを。


「綾人くん、そんなに見られると……恥ずかしい」


 頬を少し紅潮させ、麗華は俺から目を逸らした。さらに、麗華は畳み掛けるように続けた。


「私、綾人くんのそばにいたいな。ダメ、かな?」


 首を傾げながら上目遣いで俺を見つめる。普通なら、こんな美女からそう言われて落ちない男はいない。


 そう、普通なら。


「ごめん。頼んだのは俺だけど気持ち悪いわ」


 普通なら、きっとダメとは言えなかっただろう。ただ、俺と麗華は幼馴染だ。十年もこいつのことを見ていたら、今更そういう態度取られた方が気持ちが悪い。


「は? 殺す」


 先ほどまでの甘すぎるくらい甘い声はどこえやら。麗華の声はどす黒く、女の子が出していいようなトーンではなかった。そこからは確かな殺気が感じられた。あれ、これやばい奴?


「ちょ、タンマ。悪い、確かにいまのは俺が悪いから」


「明日、みんなに綾人が襲ってきたって言おうっと」


「おい、殺すって社会的にってことかよ! 物理的にも殺されたくねえけどそれはダメだろ」


 男女平等だの言われている昨今の社会なら真実はどうであれ、俺の糾弾は免れないだろう。


 ほら、最近の若者はパワハラだのセクハラだの何かにつけて言うからな。


 とはいえ、自分の立場を利用しようとしてるんだから今回は麗華のパワハラなんじゃねえのか。言ったところでどうせ話は聞いてもらえそうにないしわざわざ言ったりしねえけど。


「だって私捕まりたくないし。あっ、でも私はもう犯罪を犯しちゃってるのか」


 麗華は先ほどまでと打って変わって至極真面目そうで、悩みを抱えたような表情で言った。


「おい、それマジか? もし深刻なら、相談くらい乗るぞ」


「だって、かわいいってそれだけで罪でしょ?」


「よし、警察な。警察。無期懲役でいいよ」


「なんでよ!」


「お前はかわいいのが罪なんじゃねえ。その傲慢さが罪だ。傲慢ってのはな、七つの大罪にも数えられる立派な罪だ。罪には罰を、当然だろ?」


 俺はキメ顔で言ってやった。思わず、それがお前の罪だぜ。とか言ってしまいそう。


「うわー、きもっ」


 素直に吐き捨てられた、そのただの感想は俺の心をえぐっていった。おい、全反射とかまじで大罪だろ。


 きもい、うざい、くさいは口に出すのは簡単だけど言われた方はめちゃくちゃ傷つくからやめろ。特に異性に言われた日には枕濡らしちゃうレベル。


「ねえ、ゲームしようよ」


 麗華はへこんでいる俺を気にしてないようでそんな風に言い出した。


 ここで言う麗華のゲームとは世間一般で言われるような美少女と二人きりでうふふ、とかああいうやつではない。


 むしろ逆、俺が痛い目を見る可能性が高い。


「なにすんの?」


「やっぱりマリカでしょ!」


 言うが早いか、麗華は早速テレビをつけて用意をし始めた。どうやら、俺に拒否権はなさそうだ。


読んでいただきありがとうごさいます!

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