長谷川綾人の提案は華麗に否決される
家に帰った俺は麗華が来るまでに今日考えたことをまとめてみた。
舞花とのごたごたがあった後も、俺はちゃんと考えていた。うん、俺超えらい。決して、舞花のことを思い出さないためとかそんなのじゃない。うん、多分な。
資料をまとめているうちに、階段から騒がしい足音が聞こえた。マジであいついつになったらインターホンを覚えるんだろうな。
俺なんか五歳の時には使いこなしてたぞ。十歳の頃ともなれば、それはもうよく他人の家のインターホンを鳴らして走り回ったことだ。ちなみに麗華が内部告発をして俺だけが先生に怒られるまでが一つの流れだ。ちっ、思い出しただけでも腹が立つ。俺が泣いてる時にあいつめちゃくちゃ笑ってやがったしな。
「たっだいまー」
「お客さんの家はお隣ですよ」
「あっ、それは失礼......ってそれはわかっとるわー!」
ちっ、帰らなかったか。麗華は本物の関西人にしたら怒られそうな棒読みな関西弁のツッコミに満足したのか、いつものように俺のベットに寝転がり、だらしない格好になっていた。
「あ、そうだ! 昨日言ってたやつどうする?」
「それを今やってんの」
俺は書いていた紙を麗華に見せる。おお、と麗華は目を輝かせた後、俺の隣に座った。香りだけは一人前のこいつが座ると、その距離に不覚にもドキッとした。普段ならこんなことないのに。あ、これはきっとあれだな、あれ。舞花に変なこと言われたせいだ。うん、そうだ。そうに決まってる。
「見せて、見せて」
麗華はさらに距離を詰める。だから、なんでそんなに近いんだよ。マジで当たってるから、ねえ、当たってるよ!
耐えきれなかった俺は、書いている途中だった紙を麗華に押し付けた。
麗華は俺が渡した紙を受け取ると、ふむふむと頷いたり適当な声を出しながら読んでいた。
「で、これは何?」
「だから、昨日言ってた企画の原案だよ。昨日は結局全然決まらなかったからとりあえず考えてみた」
「なるほどね。没」
没、それがどういう意味なのかは考えずともわかる。ただ、あまりにも早い判断だったため、俺はそれが没案だと言われていることを受け止めれなかった。これでも、ちゃんと考えて作った案だし。
「なんで没なんだよ」
「理由は色々あるけどまずはこれ」
そう言って指をさしたのは、俺の考えた題名だった。『みんなで談笑会~笑顔で輪を広げよう~』俺ももう一度読み返し、思わず苦笑を返した。
「なにこの頭の悪そうなタイトル」
「いや、ウェーィ系の奴らってこういうの好きだろ。オタクと意識高い奴らは副題とか好きそうだし」
あはは、と俺もひきつった笑いで対応する。正直この題名に関しては俺も思うところがあった。だけど、所詮題名なんて飾りだ。中身さえあればなんてことはない。ほら、性格いいブスと性格の悪い美人って言われたら性格のいいブスを選ぶし。いや、それはわかんねえな。でもま、性格のいいブスは嫌いにはならんだろうし、そういうことだ。
「何その偏見。微妙にわからなくもないから反応しづらいし」
「だろ、それに今回はクラス全員参加って体でやるんだ。題なんて大して気にしねえし、麗華が考えたって言ったら批判どころか称賛の嵐だろ」
「それが褒められても嬉しくないのはなんでだろう。あと、前から思ってたけど綾人っていい性格してるね」
「そりゃどうも。お前にだけは言われたくねえけどな。てことで題名の問題は解決っと。他には」
こうなったら意地でも俺の案を通してやる。目には目を、歯には歯を、否定には否定を。勝つためなら徹底的に戦ってやる。
「じゃあ、この談笑会ってなに?」
「そのまんまだよ。そもそも金がないんだから大したことができねえ。なら、金がかからないもんをするしかねえだろ」
「それで談笑会? とても楽しいとは思えないけど」
「まあな。普通にやればつまらねえかもしれねえな。けど、うちのクラスにはジョーカーがある。それも、二枚」
談笑会、つまり話すことをメインに据えたのは何もお金が足りないからだけではない。無論それも理由の一つではあるけれど。着想は舞花の発言だ。俺と一緒ならなんでもいい。自分で言うのも恥ずかしいが、要するに好きな人と何かをする。それだけで特別なものになるのだ。
ならば、それを利用しない手はない。
「麗華と翼、お前らが客寄せパンダになりゃそれだけでみんなこのイベントに意味を見出せるわけだ」
この二人はクラスに限らず学年として人気が高い。故に話す機会すらなかなかとることができない。集団に属していない麗華すら、まだ話しかけることに勇気が必要な奴だって居る。ただ、このイベント内であれば、それも話すことをメインとするのであれば自然に距離を深めることだってできる。席をくじにしてしまえば、グループという垣根だって超えられる。我ながら悪くない案だ。
「それがうまくいくと思ってる?」
どこがダメ、そういう発言をしなくとも、麗華の言いたいことはわかった。なにせ、俺もそこを懸念していたのだから。
「うまくいくんじゃね。まあ、高校生なんだし何とかするだろ」
「綾人さん、さっきと一転投げやりな言い方ですが何か問題でもあったのでしょうか」
「わかってることがあるなら言えよ」
「普段勇気のない子がイベントなら話しかけられると思う? グループの垣根ってそんなに簡単なものだって思ってる?」
麗華の質問は的を射ていた。実際俺もそこだけがどうしても納得しきれないポイントだった。
もちろん、麗華や翼に声をかけに行ける人もいると思う。ただ、人間関係というのはそこまで簡単なものじゃない。
格下が格上に話しかける、それだけの行為でも周囲に視線があるというだけで意味を大きく変える。そうなってしまえば、一人だけ置き去りになる奴らだっているだろう。半強制参加になるであろうイベントで、そうさせるのは少し酷だろう。
さらにグループ間の問題もある。オタク男子のグループは基本的に女子ばかりのグループと相性が悪い。一触即発の雰囲気は周りの者にとってもあまりよろしくない。そもそも、グループというのはいい意味でも悪い意味でも見えない何かで固くつながっている。だからこそ、俺はどのグループに入ろうか迷ったわけだし。というわけで、談笑会を開いたところで、つまらない、と思わせてしまう可能性が高い。
麗華の言いたいことが完璧にわかってしまう自分が辛い。はあ、完全論破かよ。
「じゃあ、どうすんだよ」
なぜやりに俺は麗華に尋ねた。
「だ、か、ら! 一緒に考えるの。一緒に! 昨日も言ったでしょ」
「いや、でも昨日それやって全然決まらなかっただろうが」
「次は決まるもん」
麗華は顔をしかめながら俺に言った。
「なんでよその小学生の言い訳みたいなやつ」
「いいからいいから。綾人のその何でも一人でやろうとするのあんまりよくないよ」
おい、誰のせいで一人でやってると思ってんだ。なにより、こんなに面倒なこと頼まれてなきゃやってねえよ。
「わかったよ。でも、具体的に何すんだよ」
「......まだ決めてない」
「マジで小学生みたいじゃねえか......」
俺のつぶやきは、麗華に軽く無視され、言葉は宙に浮いたまま虚空へ消えていった。
「さて、それでは本題と行こうかね」
麗華は企画の話はこれで終わりとでもいうように、態度を変えた。ついでに、変な口調まで付け足した。
「え、今の本題じゃなかったの?」
俺の抱いた疑問はまたしても麗華に華麗なスルーを決められた。これもまあ、麗華だもんな。俺はそう思い仕方なく、その本題とやらを聞くことにした。
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