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本当に長谷川綾人には友達がいないらしい

 ゆっくりと進む日々の中、着々と林間学校の日程は近づいていた。そんな今日、俺たちは重大なことを決める。


 初めに佐原先生が林間学校の概要説明、意義等、おおよそ職員会議か何かで生徒に伝えておけと言われていたであろうことを話した。というか、佐原先生自身がそのことをみんなに愚痴っていた。


 挙句、こんなの聞いても何も変わらんよな、と同意まで求めてくる始末。いや、それは一教育者としてあんたが言っちゃダメでしょ。


 一通り説明が終わると、俺たち学級委員にバトンが渡された。事前に話は聞いていたが、ついにこの日がきてしまったか。俺は憂鬱な気持ちを抱えながら席を立った。


 俺たちが綴じたしおりも配られ、皆一様にそれを見ながらえーとかほーとか言っている。昼休みも終わった五時間目、空腹も満たされ普段なら今にも寝そうな生徒がたくさんいるのにもかかわらず、今日は一人もそんな奴が見当たらなかった。


 それどころか今日はいつにもまして、明るい顔で話している姿が多く見受けられた。むしろうるさい。俺みたいにこの瞬間を憂鬱な気分で迎えそうなのは、少数派のようだ。


 教室のざわつきは俺が前に立って話そうとしても収まる気配を知らない。どころか騒がしさは増すばかりである。だが、こんな時にも使える技がある。


 俺は一歩下がり、自分がわき役であることを主張した。これぞ俺の必勝法、他力本願である。


 主役のそいつは俺の行動の意味が分かったのか反対に一歩前に出た。そして、いつも以上に深く、笑顔という仮面を取り付けた。


「みんな、ちょっと静かに」


 麗華はただ静かに、毅然と一言そう言った。


 人差し指を口元に置くそのしぐさナチュラルにやるやつとか初めて見たぞ。俺がやったらきもいとか言われるのに、やっぱり顔と人望は偉大だな。


 ただ、流石は麗華。教室の視線は一気にこちらへ向き、騒がしさはピタッと収まった。あれれ、おかしいぞ? とわざとらしく言いたくなるくらい異様な光景だった。


 ちなみに、顔がにやけて気持ち悪くなっている男性陣の方々は見なかったことにした。


 佐原先生が恐怖による支配だとすれば麗華はかわいさによる洗脳だな。やっぱりかわいいは正義なのかもしれない。


 戦争を終わらせるには武力よりもかわいさだな。もう、どっちの国の方がかわいさをアピールできるかで競った方がいいまである。なんだよ、超平和な戦争じゃん。


 ちなみに、たけのこときのこで戦争が起こる日本は今日も平和です。


「では、いまから説明しますね」


 麗華はそう言うと、今度は完璧主義者の八方美人らしく堅苦しい説明を始めた。つまらない説明でも、麗華が話しているからか、みんな集中して聞いているようだった。


「ということで、いまから班を決めたいと思います! 男女それぞれ二人ずつの四人組を作ってください」


 そう、今日は林間学校で一緒に過ごす班を決めるのだ。


 麗華の合図とともに、教室内では班決めのためにみんなが動き出した。ざわざわとした雰囲気がもう一度流れ出す。


 ここで俺は麗華が説明し忘れていた補足情報を思い出した。別にしおりには書いてあるし言わなくてもいいことではあるが、一応クラスの代表として立っているのだ。伝えることが分かっているのなら、言葉にすべきだろう。この前、佐原先生に大見得切っちまったし。


「えー。この班ではーーー」


 俺の声は、クラス内の雑音にかき消された。おい、誰か聞けよ。これでもクラスの代表なんだぞ。多分。まあ、いいか。俺は伝える努力はした。聞かなかったこいつらが悪い。よし、責任転嫁完了。


 俺もあいつらに混ざって駄弁るか。そう思った時、一人の声が響いた。どうやら、俺の声は届く必要のない奴にはしっかり届いてしまったらしい。


「みんな、綾人くんの話も聞いて!」


 麗華がそう言うと、みんなの視線が俺を襲う。こわ、なにこれ。怖っわ!あいつ、この中で話してたのかよ。ていうか、そういう言い方されると俺が話も聞いてもらえないような悲しい奴になるからやめて。事実だけど。


 しかもおい、誰か舌打ちしただろ。静かだからめっちゃ聞こえたぞ、チッって。俺そんな嫌われるようなことしたかな。


「え、えっと。オリエンテーリングと飯盒炊爨は班で行います。また、同性の班員と二人部屋になります。その、あっ、い、いじゅうです」


 俺が言い終えるとどこからかくすくすと笑い声が聞こえた。


 くそう、プレッシャーに負けて噛んじまったじゃねえか。ぜってえ許さねえ。俺に注目を浴びせたあいつを。


 教室内を見渡すと、既にいくつかのグループができていた。班で行動すること自体は随分前から話があったので、先に約束でもしていたんだろう。楽しそうに談笑しあうクラスメイトが眩しく映る。


 そういえば、と思い出し俺はある二人に視線をやった。


 小林と斎藤だ。女子勢は比較的三人でいるイメージが強いので誰がどう抜けるのか、少し気になった。麗華の以前の話が本当なら、珍しく麗華が除外されそうなもんだけど。


 と、考えていると俺の予想をはるかに上回るほど残酷な現実を目の当たりにしてしまった。


 二人は麗華と話している様子もなく、だがもう班は決まったという雰囲気を出していた。え、ナチュラルに麗華はぶられてんの? 女子怖すぎるだろ。知りたくなかった、この現実。


 もちろん、麗華なら引く手数多だろうし、自分たちでなくともという理由もあるかもしれないが、それにしても怖すぎだろ。せめて一言声かけるとかないの?


 いつもの俺なら、適当に扱われた麗華をざまあみろ、とか言って笑ったんだろうが、あいにく今日は笑えなかった。だって、俺も誘ってくれそうな人がいなかった。つまり、現状俺も麗華と同じくボッチなのだ。


 誰とでも友達に近い関係、それはつまり友達は一人もいないということだ。薄々こうなることが分かっていたからこの時間が憂鬱だった。まったく、こんなことなら班はくじ引きです、とか言われた方がましだった。


 仕方ない、どうせうまく数が割り切られてるんだし、あまりもの同士で誰かと組むか。誰と一緒になっても俺ならそこそこうまくはやれるだろうし。


 俺は能天気な気分で余り物ができるまで待つことにした。


「ねえ、綾人くん」


 誰か話しかけてくれねえかな、と待っていると後ろから声をかけられた。


 普通なら、誰だ? と後ろに振り向くのだろうけど、あいにくその必要はなかった。ついでに一つ言うのなら、振り向きたくもなかった。


 甘く、蕩けるような高い声、声を聞くだけで心地よくなるその声を発しているのが誰かなんて考えなくてもわかった。


「ん、なに?」


 後ろを振り向くと、案の定そこには麗華がいた。


「一緒の班にならない?」


 麗華の一言で周囲が凍りついた。技名にすると凍てつく波動とかそんな感じ。周りの楽しい雰囲気とかも全部打ち消しやがった。ちなみに、限られた者しか使えないという点で見てもこの技名で正しいと思う。


「あ、ほら! 同じ学級委員同士一緒にいた方が動きやすいかな? って」


 麗華は付け足すようにそう言った。周囲も麗華の理由に納得したのか、少し空気が弛緩した。


 とはいえ、俺からすれば何もよくない。


 そもそも、俺は麗華と同じ班というのが嫌なのだ。なにをしでかすかわからないし、一歩間違えれば俺たちの関係がバレかねない。


 別に麗華のことが嫌いとかいうわけではなく、常に一緒にいるからこそ、わざわざ行事の最中にまで一緒にいたいとは思わないだけだ。


 と、ここまで麗華と同じ班になりたくない旨を並べた上で俺は麗華に返事をした。


「うん、こっちこそよろしく」


 これだけつらつらと言い訳を並べた上で俺の答えは一緒の班になることだった。


 ただ、これは「べ、べつにあんたと同じ班になんかなりたくないんだからね!」とツンデレのテンプレをしているわけでもない。何より、俺のツンデレに需要がない。


 ただ、大人しく生存本能に従ったまでだ。


 この状況で俺が麗華の誘いを断ったら非難される。そんなの考えるまでもない。


 そもそも麗華が俺に話しかけた時点で勝負は決まっていた。戦うまでもない。駆け引きもなにもない。


 この勝負に俺が勝つ方法があったとすれば先に俺が誰かと同じ班になることくらいだ。まあ、友達がいない時点でその案はボツになるのだけど。


「やったー! よろしくね!」


 明るく眩しい笑顔。さすがは八方美人。家に帰ったら疲れたー、とか俺に愚痴ってくるんだろうな。


 これにて一件落着。って、おいまた誰か舌打ちしただろ。ねえ、俺嫌われてるの? ねえ!



読んでいただきありがとうごさいます!

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