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中坂麗華にだって悩みはある その1

 ある日の夕方、俺はベッドに寝ころびながら本を読んでいた。少し離れて設置された勉強机には相変わらず今日も七方美人がいた。


 一方フローリングの床では先ほどから何が楽しいのか小梅が部屋中を走り回っていた。我が家の階段には簡易的な柵が取り付けられている。そのため、二階にある俺の部屋には普段小梅が来ることはない。


 その柵は小梅が自力で階段を登れるようになり、危ないからという理由で取り付けられた。


 この過保護っぷり、もっと俺にも注いでくれねえかな、なんなら小梅の方が優遇されてる気がする。なにその悲しすぎる現実。現実逃避して、世界からフェードアウトする日もそう遠くないかも知れない。


 そんな理由で取り付けられた柵だが、人が周りにいれば問題ないということで、我が家では誰かが上の部屋へ連れて行くのはいいことになっている。ちなみに、わざわざ小梅を俺の部屋に運んできたのはもちろん麗華だ。


 はっはっ、と舌をたらしながらはしゃぐ小梅は見ていて癒されるのは間違いないが、問題はそこじゃない。小梅が華麗な舞を踊るたびに、がたがた、ばんばん、と変な音が聞こえる。小梅ちゃん、俺の部屋を荒らさないで。


 俺の部屋は普段小梅を連れてくることを想定しない分、床に様々なものを置いている。教科書を筆頭に大事なものまで。その大半は麗華が散らかしていった結果だけど。


 俺はこれ以上悪さできないように、とベッドから飛び出し小梅を捕まえた。


 小梅のいいところは鳴かないところにある。いや、正確には鳴くことはあるのだが、わんわんぎゃあぎゃあと普段から鳴くことがないのだ。せいぜいお菓子をねだる時にくぅん、と甘い声を出してくるくらいだ。


 なんだよ、この可愛すぎる生物は。そんな技を使えるなんてこいつ前世は悪女だったに違いない。


 小梅を捕まえ、ひざに座らせる。なんかこうすると貴族っぽい雰囲気を味わえるよな。と、そうやって小梅を撫でていると、嫌にでも俺の机で書き物をしている幼馴染が目に入る。


 てか、こいつ俺と一切話もせずになんか書いてるだけなのになんで俺の部屋に来るんだよ。まあ、ずっと話しかけられるのはそれはそれで嫌なんだけど。


「はぁー」


 これはこれで、幼馴染の距離感っていうか、もう慣れた距離感だからそこまで意識はしたりしないけど。


「はぁー」


 そういえば、今日の晩飯なんだろうな。揚げ物っぽいぱちぱちした音も聞こえるし、から揚げかな。母さんの作るから揚げうまいんよな。おれがつくってもああはならねえし。いつか家を出ることになったら教えてもらおう。


「はぁー」


 ついでに、安くて簡単お得レシピとかもリストアップ必須だな。


「ねえ、構ってよ!」


「あ、やっぱり今のそういう合図?」


「わかってやってるでしょ!」


 いや、そりゃ気づくけど。あんな馬鹿デカイ溜息つかれたらなんか構いたくなくなるし。


「いや、わかってたけど関わりたくないの。お前普段の自分の行動思い出せ」


「えっと、普段は完璧完全八方美人の最強幼馴染?」


 こいつ頭お花畑か。完璧とか完全とか言っちゃってる時点で相当頭が痛い。でも、実際俺より人望もあって成績もいいからむかつく。


「俺に対しての態度だよ!」


「綾人にはちょっとお願いしたり、ちょっと手伝ってもらったりしてるかな?」


 俺は思わず口を開けたまま膠着した。ああ、こいつにとっての普段の行動はちょっとなのね。あれでちょっととか本気でお願いされたら俺は一体どうなんの?


「うそうそ、ちょっと言ってみただけだって。普段から綾人様には大変お世話になっております。もうほんとお世話され過ぎでむしろ焼いちゃってます」


「おい、途中までちゃんと謝んのかと思いきやなんで最終的に俺が世話されてるみたいになってんだよ」


 謝るなら徹底的に謝れよ。謝る時はしっかり首を九十度立てて右手で瞼を引っ張りながら舌を出すって習わなかったのかよ。って、それ全然謝る気ない奴の対応だったわ。むしろ、麗華にそれをされたら即刻我が家を出禁にするまである。


「まあ、そんな小っさいことよりさ、幼馴染の悩み事聞いてあげるべきなんじゃないの?」


 麗華は机から離れ俺に近づくと、肘で俺の横腹をつついた。だから近い近い。なんかいい匂いするからやめろ。


「お前は一体どの立場から言ってんだよ」


 俺が尋ねると麗華はへへへ、と俺から目を逸らして作り笑いを浮かべた。そんなんで誤魔化せねえよ。


「で、悩みって?」


「えっ? 聞いてくれるの?」


 俺が言うと麗華は目を輝かせながら近寄ってくる。だから、近いっつうの。まじでその柔らかい何かが当たりそうになるからやめろ。


「まあな。どうせお前の悩みなんてろくでもねえんだろうけど」


 俺だって鬼じゃない。幼馴染が困ってるんなら極力助けられるように努力はする。結果は知らんが。


 麗華の場合はその助けての回数が多すぎる気もするけど、それはそれで頼られていると思えばそう悪いものじゃない。こんなこと、絶対にこいつには言わないけど。


「んー、私だってちゃんと悩むもん!」


 麗華は軽く頰を膨らませ、怒っているアピールをした。その動作一つ一つがいちいちあざとい。


「あっそ。完璧完全八方美人で最強なんだろ。そんな奴の悩みなんて俺みたいな凡人からすると、持ってるやつの悩みなんてただの貪欲な欲望でしかないんだよ」


「……それでも、聞いてほしいもん」


 麗華は目を潤ませながら俺に訴える。やべ、ちょっと言い過ぎたか。


「いいから言えよ。文句は言ったが話を聞いてやらんとは言ってねえだろ」


「私、友達がほし……。あっ、ごめん」


 おい、なんで今謝った? なんか言おうとしたよね。ていうか悩みの九割九分はわかったよ。そのうえで何かに気づいて謝んな。


「ごめんね、綾人にこんなこと聞いて」


 麗華はもう一度謝った。今度は深く深く頭を下げて。ついでに、憐みの目までいただきました。その目は本当に悲しそうで今にも涙が出そうだった。


 ねえ、やめて。その、かわいそうな子を見る目を俺に向けないで。わかるよ、たしかに俺友達いないし。でも、別に話し相手くらいはいるから。話しかけたら大抵みんな返してくれるから。なお、相手から話しかけてくるのは稀な模様。おい、やっぱり悲しい奴じゃねえか。


「いいか、俺は友達はいないがそれなりに幸せだ。だからその目を向けるな」


「あ……うん」


 今度はこいつ何言ってんだ、とでも言いたげな顔に変わった。いや、わかるけどねその気持ち。ただ、顔に出しちゃだめだよ顔に。麗華が帰った後、枕を濡らして寝ることが確定しちゃうから。ちなみに、次の日にその濡れた枕を見て麗華が俺を憐れむところまでが一連の流れ。


「とにかく、友達が欲しいんだな」


 話が逸れに逸れ、そのうち麗華の悩みを聞いていたということまで忘れそうになったので、俺は強引に話を戻した。というか、そうでもしないと俺のライフポイントがゼロになりそうだった。


「そうなんだよね、私もそろそろ決まった友達が欲しいっていうか」


 中坂麗華には友達がいない。ただし、麗華の言う友達がいないと俺の言う友達がいないは全く別物だ。


 俺の場合、誰と仲良くなろうか決めあぐねた結果グループが固まっていき、友達を作ることに失敗した。


 対して麗華は人が寄ってくる。要するに人気者だ。友達百人できるかな、とかいうレベルではなく、麗華の友達になりたい百人が寄ってくる。


 恋人をステータスという人がいるが、少しあれと似ている。中坂麗華と友達、というのはそれだけで十分なステータス足りうる。つまり、麗華に寄ってくるやつはステータス目当て下心上等の奴らということになる。そんな奴らとは仲良くなりたくないだろう。


 もちろん、麗華の完璧な中身を見て友達になりたいという奴も少なくはない。だが、ここでもう一つ問題がある。それは麗華の立ち位置だ。


 いうなれば、ここがネックとなる問題だ。麗華はクラスのいや、学年の中心にいる。


 だからこそ、仲良くなる相手は俺以上に慎重に選ばなければいけない。麗華と仲がいいというのはそれだけで嫉妬の対象になる。その際、トップカーストの奴らがその対象になるのであればなんら問題はない。


 嫉妬したところで誰も手を出さないのだから。


 だが、例えば俺のようにクラスの中で上でも下でもないような奴が麗華と仲良くなるとする。すると、あら不思議。ここでいじめが始まる。弱い立場の人間だと踏んで人は簡単に人を蹴落とせる。


 麗華と仲良くなることで不幸になる人間がいる。麗華自身もそれがわかっているからどのグループにも所属せず、中立と平等を保っているのだ。


読んでいただきありがとうごさいます!

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