表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

人狼ファミリー

まさかの本編放り出しでクリスマス短編です。


オマケに5000文字越えたので準備編だけ投稿です。(1万文字に収まれば良いなあ)

「4Lのクマさん人形と……」

 ヘルメットに作業服姿の身長1メートル程度の小さい人物達が巨大な倉庫で荷物の仕分けをしていた。クリスマスまで1週間を切り妖精(エルフ)達は24時間体制でプレゼントの準備をしているのだが、今年は例年に増して準備が大変だった。


「1Bの棚だ」

「あいよー」

 巨大なテディベアを乗せたフォークリフトが倉庫の奥に行くのを見送った1人が手に持っていたリストに視線を移した。担当する人狼の街が急激な人口増加で配るプレゼントが増えたのだ。だが、現場を指揮する神獣からは「クリスマスに手抜きは厳禁」とキツく言われているので、配るプレゼントは大きなぬいぐるみや木製のソリと言った大きな物が多かった。

 24日から25日に掛け、住民が留守のタイミングや寝ている隙きに住居に忍び込み、この倉庫一杯の荷物をこっそり置いていくのだが、今年は時間的に厳しそうだった。


「次は……カミンスキー家か……」

 妖精はリストに書いてある48人分の名前を見て嫌そうに額を掻いた。

 一般的な人狼の家族は多産な事もあり10人兄弟は当たり前だが、カミンスキー家は46人も子供がいた。長男のアルトゥルは結婚して家を出ているが、兄弟姉妹45人と両親、祖父が同居している。


「おーい、カミンスキー家が俺達の担当になってるぞ!」

「ホンマか?」

「隣の地区じゃなくて?」

 棚の上や倉庫の奥から同僚の妖精が4人出て来た。


「備考欄に……“担当地区の見直しで変更します♡”って書いてあるぞ」

 手書きの文字だが、文字の癖から神獣のヨルムンガンドが書いたのが判った。


「作戦会議だ!会議室に行くぞ!」




「あの、そのカミンスキー家がどうかしたんですか?」

 今年から同じチームに入ってきた新入りのテリーが質問してきた。


「何や知らんのか?」

「有名な話よー?」

 サンタのような口ひげを生やしたジミーとサニーが以外そうな反応を見せた。


「いえ全く」


「あそこはな、子供達がヤバイんだ。今年は長男のアルトゥルが居ないから楽だと思うけど、次男のアルベルトが頭逝ってんだよ。他の子供達も彷徨いてるし、油断も隙もないんだ」

 メガネを掛けているラリーが漫画雑誌を読みながら説明したが、テリーは気付いた。


「……もしかしてカミンスキー重工の社長?」

「そうだよ」

「そうよ」

「せやで」


 研修中に噂は色々と聞いていた。

 アルトゥルとアルベルトが3歳の時、当時一家は別の家に住んでいたがその時から“妨害”が始まった。玄関ドアに鳴子を仕掛けたり、夜中に起きてるといった可愛気の有るものから、真夜中に暖炉で石炭を名一杯焚き、煙突から中に入れなくしたり。深い落とし穴や罠が仕掛けられ毎年苦労させられると。


「去年担当したチームは庭に埋めてあるブービートラップに引っ掛かったとさ」

 チームリーダーのビリーが何かの紙束を持ちながら会議室に入った来た。

「それと、ワイヤーに足を引っ掛けたら照明弾が打ち上がって大騒ぎになったんだ」


 紙束を広げ、マグネットでホワイトボードに貼り付けるとカミンスキー家が住む屋敷の見取り図で、所々線が書き込まれていた。

「結構多いですねー」


 見取り図を見たサニーが呑気に呟いたがビリーは頭を抱えていた。


「言っておくけど、一昨日までに仕掛けられた罠の場所で、これからもっと増えるぞ」

 屋敷の中に入るのにも苦労しそうな程、2重3重に罠が仕掛けられてると描かれていた。


「取り敢えず侵入は……ジミーがやれ。丁度いいヒゲだ」

「ほいきた。でもプレゼントを抱えて忍び込むにはキツイな。何処かに隠しとけへん?」

 毎年の事だが、カミンスキー家向けのプレゼントの数は尋常では無かった。


 今来ているリストだけでも。


・紙粘土

・クレヨン10本が12セット

・縄20メートル(縄跳び用)

・赤いソリ4台

・青いソリ2台

・積み木6セット

・羽子板8セット(何で?)

・テニスラケット4本

・カモミールティー2キロ

・6分儀

・天体観測用望遠鏡

・ピアノ

・高枝鋏


 と書かれていた。


「最後の2つとか絶対ご両親でしょ」

「いや、同居してる祖父の分だ」

 リストの一番下に、“トラック1台使用可能、ただし地上は走行禁止”と書かれていた。


「コレは困ったなぁ、子供が多いから屋敷の中に隠せないやろ」

 地上3階地下2階の大きな屋敷だが、0歳から16歳までの年代の子供が45人も住んでいる。悪戯盛りの子供が多いのでこっそりプレゼントを屋敷内に置くのは難しかった。


「でも、夜中にコッソリってのも難しいですよね?」

 新入りのテリーが無理だと思うのも当たり前だった。プレゼントのリストに入っているピアノだけでもそれなりの大きさは有る。事前に屋敷内に移動させなければ見つかる心配が有った。


「でもなー、ツリーはココの窓際やろ?地下から運び出すのも骨やな」

 ジミー1人でも大きなグランドピアノを運べるが、先に見付かってしまってはサプライズにはならなかった。


「窓開かないの?」

 見取り図ではツリーを飾ってる部屋の窓が、外側に観音開きで開く事が記載されているのにラリーが気付いた。

「調べたところピアノを通すには十分だそうだが、ココに落とし穴が在るらしい」

 ピアノ自体がスッポリと落ちる大きさの穴で、複数人で手渡しするのは難しかった。オマケに他の部屋から見える位置なので使うのは無理だった。


「1階から3階まで吹き抜けで視線が通るし、厳しいですねー。去年はどうやったんですか?」

「……報告書だと照明弾が上がったドタバタで、家族が台所から離れている間にオーブンで調理中のパイが焦げて」

 箇条書きで書かれた報告書には、チーム5人中4人が落とし穴に嵌ってる間にチームリーダーが1人でプレゼントを運び込んだと書いてあった。……去年は今年掘られた物より幅が狭かったが、結構ギリギリだったとも書いてあった。


「……なあ?この落とし穴からプレゼントを運び出せへん?ココに荷物用のクレーンも在るし」


 2階と3階に重量物を運ぶ滑車式の天井クレーンのレールがが3階の天井部分に設置されていた。

「天井裏に2人入って、1人が穴の底、もう1人がツリーの近くに一緒に居てくれれば何とかなるやろ」

「それが良いな……よし、今日から落とし穴を広げる作業だ!」




「すいませーん、工事中ですー」

 黄色いヘルメットと反射板付きのジャケットを着けた妖精を横目に見ながらアルトゥルと妻のドミニカは馬の進路を器用に右に動かした。


「なんか工事が多いはね」

「都市ガスや上下水道を通す共同溝工事だってよ。そこんところに立ってる電線と電話線も地面に埋めるってよ」


 弱冠16歳にして、陸軍中将として第3師団長を務めるアルトゥルは木製の電柱を指差しながら答えた。転生者で、前世も陸軍中将で退官した後上院議員も勤めていたが、私服姿だと何処かの子供にしか見えなかった。


「でもクリスマス返上なのね」


 一方のドミニカも同じく転生者で前世でも夫婦だったのだが、ドミニカの方が早くに転生して既に20歳。アルトゥルと違い人狼の騎士の家に生まれたため10歳から戦場に出て活躍していたので少々問題が有った。


「あ、アルトゥル兄ちゃん!」

 カミンスキー家の正門近くで遊んでいた、弟の1人ダリエルが駆け寄ってきた。

「よお、ダリエル!」

 他にも弟達が駆け寄ってきたが、妹達はドミニカの方に駆け寄った。




「なんや、相変わらずやなあの家」

 サニーが立っているマンホールの穴から顔を出したジミーはアルトゥルの妹達のはしゃぎ様を見て呟いた。

 18歳まで結婚せずに男勝りの活躍を見せていたドミニカは、女性ファンが多く。アルトゥルの妹達もその例に漏れなかったのだ。


「所でどのぐらい迄掘れましたかー?」

「あと5メートルで例の落とし穴だな」

 音が出るので、スコップとツルハシで手堀しているが、妖精故の馬鹿力で作業は順調だった。


「そうですかー。ところで、さっきからアルベルトさん所の従業員がコッチを見てるんですがー」

 通りの角に止まるカミンスキー重工の帆付き馬車に乗る社員が時折様子を窺っていた。


「……バレた様なら知らせてくれ」


 ジミーはそう言い残すと再びマンホールの穴の奥に消えて行った。




「なんか音するなあ」

 クローゼット奥の隠し部屋に籠もり、頭頂部の耳にヘッドフォンを着けているアルベルトは首を捻った。

 アルトゥルのアイディアで、地中にマイクロフォンを埋めて、音を探っているが昨日から得体のしれない音が響いてくるのだ。会社の部下に音がする東の道路を見張らせているが、“妖精が工事してるだけですよ”と言われただけだった。


「……まだやってんのアンタ?」

 同い年の姉のアリナが隠し部屋に入ってきた。

「何か音がするんだよ。明日は24日だし、サンタかも」

 真顔で答えるアルベルトにアリナは呆れた顔をした。


 3歳の時にアルトゥルが「父ちゃん!クリスマスはバットくれ!」とせがんだ時からアルトゥルとアルベルトは毎年この調子だったが、その時のやり取りを何故かアリナははっきりと覚えていた。

「父さんが用意するわけじゃない。プレゼントは勝手に用意されるんだ」


 当時、父親にそう説明されたアルトゥルは食い下がった。


「何でぇ?オイラは家族の分用意してたぞ!」

 前世の記憶が有るアルトゥルがそう言ったが、父親は少し困った素振りで説明した。

「いや、普通はそう……と言うか、父さんも前世はそうだったよ。だけど、この世界は何故か勝手にプレゼントがツリーの側に置かれるんだ」

「えぇ!?」


 父親だけでなく母親も困った顔をしながら説明していた。

「私も不思議なんだけど、何故か欲しい物が置かれるのよ。それも、誰にも言ってないような欲しい物が……。ちょっと不気味だけど毎年置かれるからね」

「慣れたよなあ」

「むぅ……」


「でも、プレゼントをする習慣は有るから作っておくよ」

 あからさまにムスッたれたアルトゥルを見て父親がそう言ったので、アルトゥルの機嫌は戻った。

「トリネコとヒッコリー製でお願い!」


 だが、その年からアルトゥルとアルベルトはクリスマス前にサンタを探し始めた。

 最初の頃は2人で頑張って起きようとしていたようだが、5歳の時に一晩中暖炉で石炭を焚いて怒られたのを皮切りに激しくなった。


 今では落とし穴や、逆さ吊りにする罠など。アルトゥルの入れ知恵で作ったブービートラップが庭を埋め尽くしており、小さい弟や妹達が誤って引っ掛からないかヒヤヒヤしている有様だった。


「全く……。アルトゥルとドミニカ姉様が戻ってきたはよ」

「ん?ああ、判った今行くよ」




「おーい、中華買ってきたぞ!」

 見張りをしているサニーにチームリーダーのビリーが中華料理屋のテイクアウト容器を両手に抱えながら声を掛けた。

「おー、飯飯!」

「エビチリは僕のですよ」

 ジミーとラリーが大急ぎでマンホールの穴から出ると、一足送れてテリーが出てきた。


「順調そうだな」

「せやな、今日中には…おわ……。何やアレ!?」

 春雨の炒めものを割り箸で突こうとしていたジミーがカミンスキー家の方を割り箸で示した。

「ん?……えー……」

「あれまー」


 ジミーとテリーが振り返ると、屋敷が七色に光っていた。

「わー、イルミネーションっすね」

 まだ日が出ていて明るいが、一斉に点滅するイルミネーションにテリーは感動していたが。


「やっべ」

 ジミーは混乱した。


「……一旦戻るぞ」

 ジミーの一言でチームは大急ぎで撤収作業をし、地下に戻った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ