第八話:日常風景
短くてすいません。
戦術の授業は今まで習った事のない、戦争時の部隊の配置や都市の攻略、防御などを学ぶ内容だった。この授業もパーム先生が担当していた。
「この場合、撤退する場合も損失は避けられない。自軍の戦力を考慮し、どのような手段があるか、各自考えて欲しい。」
「じゃあアラニス君、考えを聞こうか。」
「はい、この場合撤退しなければ全滅もあり得ますので撤退します。その場合自軍の有力部隊に殿を任せて、安全に撤退します。」
「なるほど。ではアンビル君、どうかな。」
「はい、私も撤退するしかないと思います。まず、ある程度指揮できる兵士を一人と規模にもよりますが10~20人程度の普通の兵士を選抜し、奇襲出来る配置から単独で奇襲させます。その間に本隊を撤退させます。」
「奇襲をかけた部隊はどうなる。」
「全滅するでしょう。何人か逃げのびれば、更にそちらへ敵軍の兵力、意識を割けますので本隊はより安全に撤退出来ます。」
「戦術としては素晴らしい回答だ。一考に値する。戦時であれば犠牲が必要な場合も出てくる。皆も色々な状況で考えるように。」
授業は終わり昼食と休憩に入る。
戦時であれば、だ。パームは思った。アンビルの回答はあまりにも現実的過ぎる。学生が机上で考えるには過激すぎたのだ。
自分でさえ、戦争など体験していないのに、歴戦の指揮官のような、それも本物のドロドロの戦争をしている指揮官のような判断だ。多分、最も損耗を抑えて撤退出来るだろう。
だが今、ただの学生がそれを理解していいのか、実行出来るのか。彼は何か恐ろしい気がして考えないようにした。
「座学も疲れるわね~」
「お昼ご飯減らさないと、満腹だと午後から眠くなりそうです。」
「歴史と経済はあまり、な。」
いつものお昼のいつものやりとり。
「でも皆さん優秀ですね。特に戦術の授業でのアンビルさんの回答は驚きました。」今日はペーニャも一緒だった。
「おお、あれは私にも思いつかなかったぞ。アンビル殿は何か戦術の勉強でもしているのか。」
「そんなにたいした事ではありません。ただ思いついただけですし、実際やるにはハードルが高過ぎます。」
「アンビルさんには指揮官としての才能もあるんですね。」
「どうでしょう、私は戦争などに関わる事はありませんので分かりませんね。」これはフラグか。
その日、ラバーナ聖魔共和国において人間と魔物達の間で紛争が勃発した。
「あ~生き返る~」
「別に死にかけてもいませんでしたよ、ミルノさん。」
「アンビル殿は意外とタフだな。今日まで座学続きでなかなかハードだったように思うが。」
「そうかもしれませんが勉強は大事ですから。でも甘いものが食べたいです。」
「そうよね、こんだけ頭脳を酷使してんですもの、多少は食べても大丈夫よね。」
「それはどうなんだろうな。だがミルノ殿はスタイルの維持に余念がないな。私は実戦一辺倒であまり意識しないが。」
「何言ってるのよ、イプシル。あなただって相当スタイルいいわよ。男子からしたら目の毒よ。いや、眼福かしら。」
「そうですね、お二方とも立派(?)です。それに比べて私なんかまだまだ子供で。」
「違うわよアンビル、あなたは華奢でも出る所は出てるから問題ないのよ。むしろ需要があるぐらいよ。」
こうしていつもお風呂で他愛ない会話をするのがとても楽しかった。
今日は寝る前に手紙を書いた。初めての手紙なので、アレムに向けて書いてみた。とりあえず近況を報告した。満足してベッドにもぐり込む。お気に入りのヘビの抱き枕を抱いて、おやすみなさいと呟いてみる。
そのせいかその夜は父と母の夢を見て幸せな気分になった。
ありがとうございました。