第七話:グレーゾーン
お読み頂きありがとうございます。
今日から魔法実技が始まるが、授業開始と同時に「アンビル君は院長がお呼びだ。院長室に行くように。」と、言われて速攻離脱した。
何の事か分からないまま院長室へ向かう。
「失礼します、コリンス院長先生お呼びでしょうか。」
「どうぞ、アンビル君。座ってゆっくりして下さい。説明しましょう。それと院長は要りませんよ、コリンスだけで結構です。」
言われた通りソファーに腰かけて話を聞く。
「呼び出すような事をして申し訳なかったね。単刀直入に聞くと、アンビル君は魔法実技をどう思いますか。」
「どう、とはどういう意味でしょうか。」
「いや、責めてる訳ではないんだ。警戒しないで欲しい。アンビル君には魔法実技はあまり意味が見出だせないんじゃないかと思ってね。」
「?、魔法の練習になるので大事な授業だと思いますけど。」
「本当に必要かな。ファイヤーボールの失敗ですらあの威力なんだ。他の魔法でも何でも、成功したらまずい事になりはしないかい。」
「どうでしょう?あまり成功した事がないんでよく分かりません。」
「言い方を変えよう。魔法を成功させる気はありますか?」
ドキッ!
「責めるつもりはないんだ。ただ、魔法実技を普通に受けても、君にも他の生徒達にもいい結果にならないような気がするんだ。」
「他の生徒にも関係あるんですか。」
「ファイヤーボールひとつとって見ても、普通の100倍以上の威力なんだ。他の生徒達が自信を無くしてしまうよ。君も特別な目で見られて居心地が悪くなると思うんだ。」
「・・。」
「だから提案があるんだ。そういった授業の時はここで私と何か別の勉強をするというのはどうだろう。私の特別授業と言えば不自然に見えないと思うんだが。」
「コリンス先生はその方がいいとお思いなんですね。」
「そうだね。君の魔法は色々とまずいと思うよ。魔法打ち上げ大会の時のバーンフェニクスも君の仕業だろう?」
ドキドキッ!!
「いえ、違います。あの魔」
「責めてる訳ではないんだ。何度も言うようだけど。ただ、魔法具を使用したとしても、あれだけの魔法を使える者が他の生徒達に混じっては、双方にいいとは思えない。違うかい?」
「どうでしょう、よく分かりません。」
「魔法実技の時、普段は僕の特別授業に出席しておいて、必要な授業の時はみんなと受けてもらっても構わない。」
結局カーメルンの時と似た扱いですね。
「必要な授業とはどんなのですか。」
「治癒とかまあ色々、攻撃的な魔法以外の授業とか、授業内容は事前に把握出来るから、二人で相談して決めよう。どうかな?」
かみかみの必要がないのはいいかもしれません。
「分かりました。他の皆さんに迷惑はかけられません。皆さんに一番良いようにして下さい。」
「ありがとう、アンビル君。僕の特別授業も無駄にはならない内容を考えておくから安心して欲しい。それと、剣術の話を聞いたよ。」
「剣術なんて初めてで、ちょっと大袈裟な気がしました。」
「アンビル君は将来、騎士や兵士になるつもりはあるかい?」
「んーっ、多分ならないと思います。」
「よかった。なら剣術の時間もここで特別授業にしよう。ユーリス先生の話では、身を守るのには問題ないだけの力は持っているとの事だったから。」
「剣術も特別授業ですか。」
「これも他の生徒達のために承諾してもらいたい。あれだけの魔法が使えれば、剣を手にする事もないだろうからよろしくお願いするよ。」
後は和やかに雑談して過ごした。
お昼の食堂へ行くと班のメンバーが心配して集まってきた。
「昨日の事で何か言われたりしたのかい?」
「いえ、そうではありませんでした。私は呪文の詠唱がへたくそで危険なので、コリンス院長先生が特別授業でご指導くださるそうなんです。」
「アンビル、それ本当なの?院長先生が直接ご指導なさるの?」
「はい、そのようですが。何故でしょうか。」
「コリンス院長先生と言えば現国王の弟君にして王国屈指の魔法使い、魔法賢者と言われていてストルクでも有名ですよ。直接指導とは驚きました。」
「授業によっては皆さんとご一緒する事もありますので、そんなに気になさらないで下さい。」
「いや、気になるよ。僕だって出来ればご指導願いたいよ。何でアンビルちゃんだけなんだ。」
「すいませんマルーンさん、私がヘタクソなばっかりに。あと、剣術の時間も特別授業に出る事になりました。」
またまた、みんなでワイワイして過ごす。アンビルにはとても楽しかった。
その頃、ヘイゼルの森ではマッドウルフ達が絶頂期を迎えていた。
献上されるお肉は大量で、イーシトンで飢えてさまよっていた頃が遥か昔に思える。引っ越しして本当に良かったと皆思っていた。
もう今では森の魔物を狩るのではなく管理していた。つまりこのヘイゼルの森を支配しているのだ。
動物だろうと魔物だろうと、ちょっと睨んでやれば意のままだ。
狩人にとっては森の守り神だが、他の生き物にすれば強大な支配者に他ならない。
マッドウルフ達にとってまさにこの世の春であった。
森の入り口近くにはお堂が建立されており、狩人達が帰りに獲物の1割ほど供えて帰る。
それだけでも食うに困らないほどだ。
現在の『釣り』は、狩人が魔物に遭遇したらひょいと顔を見せる、すると魔物は逃げていく。
それだけだ。そしたら狩人がお肉をくれるのだ。ほぼ、肉の一本釣りである。
その魔物も森の奥から2頭で追い込み、狩人との遭遇率を上げていた。
なんたるマッチポンプ、スマートを置き去りにして、もはやヤクザな手口のマッドウルフ達であったが、さすがに善行とは言い難く、聖なる存在には成れないままのグレーなマッドウルフ達であった。
次の投稿は遅くなりそうです。よろしくお願いします。




