第二十話:その日のイーノス・フェノ・メノ伯爵
ありがとうございます。
イーノスは襟を正して話しかける。
「エルノイア王陛下、この度は大変なご迷惑をお掛けした。どうか許して欲しい。」
「イーノス・フェノ・メノ伯爵か、わざわざ遠路ご苦労であった。本来なら簡単にはいかない話なれど、勇気ある者達の活躍により我が国としては特に何もない。同じような事が起きなければそれでよいであろう。」
「寛大な措置に言葉もない。それでは関わりのある冒険者など紹介して貰えぬだろうか、直接謝罪したい。」
「分かった。他の者を呼んで来てくれ。」ミルノ、イプシル、ペーニャも集められる。
「この者達だ。」イーノスから見れば全員子供に見える。制服組以外の二人はまちまちの年齢だろう。
アンビルがあまりに普通に見えるので、内心驚愕する。デゼル様の気配は一切ない。
愛らしく整った顔立ちに見惚れてしまい、真っ直ぐ下ろした黒髪のキューティクルの輪に更に目を奪われてしまう。
いかんいかん、怪しまれてしまってはやりにくくなる。
「ザバスのイーノス・フェノ・メノ伯爵だ。この度は大変な迷惑をかけてしまい申し訳なかった。許して欲しい。今後、今回のような事はないと約束しよう。」
「何故ザバスの冷血伯爵と言われるあなたが、ラバーナの紛争絡みでわざわざ謝罪に来るのか分からないのですが。」コリンスが口を挟む。
「手違いだったのだよ。本来ならラバーナの紛争も終息させるはずだったのだが、暴走してしまったみたいだ。今後はラバーナも安定する事だろう。」
「本当ですか?」やはりペーニャは黙っていられないらしい。
「本当だとも。我がザバスからも全面的に安定化を支援しよう。」
「伯爵がそこまで言うのであれば間違いはないであろう。今後の為にも友好を深めていって欲しい。」ベランドが上手く纏めてパーティーは続くのだった。
「アーレム商会ですか、噂は耳にしています。」デゼル様の口からだけど。
「ザバスと言う国では商売など出来ますかな。」アレムも如才なく返す。
「おそらく出来るでしょう。人間ではないとはいえ、生活するのに変わりありません。毎日殺し合いをしているとお思いなら間違っていますな。」
「それは失礼を。どうにも我々には想像するのも難しい。」
「一度遊びに来てみてはいかがですか、歓迎しますよ。」社交辞令です、やめてください。
「伯爵様にお誘いを受けると考えてしまいますな。」
「お父様、社交辞令を間に受けてはいけません。」おおアンビル様、お待ちしておりました。
「アンビルお嬢様はご旅行などご興味はないですかな。」
「う~ん、いまは学生の身ですので考えてないですね。」旅行は無し、と。
「エルノイア王国で美味しい食べ物などありますか?」
「どうでしょうか、プリンの美味しいお店なら知ってますけど。」甘い物には興味あり、と。
「王立高等学術院卒業後は何をされますか?」直球過ぎか、だが、来い!
「今は特に考えてないですね。」ですよねー
だめだ、こんな得体の知れない初対面のヴァンパイアなんぞに心を開くはずもない。これではただのインタビューではないか。このままでは情報不足だ、報告出来る事などないぞ。
作戦変更だ、本人以外から情報収集するのだ。
「ティファラ殿でしたか、ロラン殿とお二人だけ学生ではないようだが、今回何故一緒にいらしたのですかな?」
「私は普段アンビルお嬢様付きのメイドをしておりますので、今回もご一緒しておりました。」よしっ!当たりだ!
「ロラン殿も?」「はい、私はアンビルお嬢様の従者のようなものでございます。」
「なるほど、そうであったか。お話を伺いたい所だが、暫し失礼する。」イーノスは三人の警備を引き連れて離れていく。
ティファラとロランに的を絞って、個別に接触するためだ。離れて様子を窺う。
ラバーナ聖魔共和国の大臣だとかいう者と会話する。ラバーナの魔物と人間供を平和に治めたいという話だがどうでもいい。適当に相槌を打っておく。
チラチラ見ていると二人だけ離れて食事を取りにいった。チャンスだ。「ちょっと失礼する。」どうでもいい大臣との会話を打ち切り、二人の元へ向かう。
「やあ、先ほどはどうも。お二人に内密にお尋ねしたい。どうか警戒せず答えられる範囲でお答え願いたい。」
「どういう事でしょうか?」
「アンビルお嬢様の事だが、その、ちょっと表現が難しいというか、何と言えばいいのか..」イーノスは更に声を小さく囁く。
「アンビルお嬢様には、その、なんだろう特別な何かがないだろうか?並みの人間にはない、何かを感じるのだが..」この者達がどれくらいアンビル様の事を分かっているのか確認してみねば。
「流石は高名なヴァンパイア、イーノス・フェノ・メノ伯爵。分かりますか、お嬢様の内にある何かが。」ロランが目を輝かせて答える。
勿論知っていた。地獄最強にして最狂、数々の(イカれた)逸話を持つ勇者アーモン・デゼル様だ。この世界では私が一番詳しいだろう。
「やはり特別なお方なのですか?」人間からはどのように見えているのか。
「お美しいお嬢様の能力、実力、魅力、どれをとってもこの世で並ぶ者などいないでしょう。時が来れば必ずや人々の上に立つ事となるお方です。」ティファラもキラッキラの目をしている。
「やはりそうでしたか、納得しました。ですが、お嬢様はどのようにお考えなのでしょう。何か特別な思考をお持ちのようには思えなかったが。」
「お嬢様はご自分が特別なお方だとお気付きではありません。ですので我々がお嬢様の魅力を周囲に伝えていかねばなりません。ご興味がおありでしょうか?」興味深い。何か掴めるかもしれない。
「大変興味深いですね、何かあるのですか?」
「今日の深夜にアーレム商会横の倉庫に来れますか?お嬢様関連の会合が開かれます。メインは今回の叙勲の報告などですが、良かったらおいでになりませんか。伯爵であれば歓迎されますよ。」
「いや、私はこの城に滞在する事になっている。残念だが。」と言いながらティファラに向けてウィンクする。背後の兵士に悟られない為だ。
「残念です。」と言いながらティファラも軽くウィンクを返す。話は決まった。
その夜、王城の一室にイーノスはいた。扉の向こうには見張りがいる。自由に出来るが常に見張り付きだった。
そろそろいいかと、窓を少しだけ開け様子を窺う。大丈夫のようだ。結界も張られ、監視もされているが関係ない。400年、伊達でヴァンパイアをやっている訳ではないのだ。
イーノスの足から揺らめき、ぼんやり黒くなっていく。やがて真っ黒になるとガスのような黒い霧に変わっていった。全身ガス状の黒い霧に変わると、窓の隙間から外に滲みでていった。
霧は壁伝いに尖塔を登り、頂上で元の姿に戻る。街を見下ろし、方向を定めるとそのまま飛び降り、大きなコウモリに姿を変えて城から飛び去っていった。
次話は早めに投稿出来ると思います。




