第十二話:代名詞(笑)とニアミス
ありがとうございます。
次の休みの日、アンビル、ミルノ、イプシル、ペーニャ、それにティファラの5人でヘイゼルの森に来ていた。
フィールドワークを兼ねたピクニックで、ペーニャが落ち込まないように企画したものだ。
ヘイゼルの森まではアーレム商会の馬車で送ってもらった。
昨日の放課後、ピクニックに必要な物を買いに学校の外へ出たら、5分で捕捉されティファラが寄ってきた。
事情を話すと「承知致しました。万事整えてお迎えにあがりますので、朝9時でいかがでしょうか?」「え、ええ、いいんですけど..」「ありがとうございます。では、明日。」と、あっという間に去っていった。
今朝は予定10分前に馬車で迎えに来ていた。昼食や食器、飲み物など引っ越しでもするかのような大所帯で皆苦笑いであった。
ヘイゼルの森の中心にあるバスネア湖に着いて、大荷物を分担して運ぶ事にする。ロランは一応馬車で待つことになった。
「お荷物などお持ち頂いて申し訳御座いません。」と、褐色の金髪伊達眼鏡メイドティファラは申し訳なさそうに言う。
皆一つずつ割り当てられた荷物を背負っていたが、そこまで重くはなかった。
比べてティファラは折り畳みのテーブルに椅子、テントのような布地に体より大きなバックパックと、全員分の荷物より明らかに多かった。
が、いつも通り平然としている。
「ティファラ殿、もう少し持っても構わないのだが。」イプシルが気を使うが、
「いえ、このままで問題御座いません。さあ、参りましょう。」華麗にスルーするのであった。
「では皆さん、参りましょう。」いつもの事なので気にしないアンビルはなかなか鬼畜だったが、ティファラは本当に平気なので平常運転と言える。
目指すは森の西の外れにある岩山である。そこに白狼が住み着いていると言われている。
二時間程で辿り着くのでピクニックには丁度良いと思われた。危険な魔物がいないのは確認済みだが、全員武器や杖など装備している。
危機感もなく、二人ずつ二列で、少し後方をティファラが追いかける形だ。
「それにしても、魔物どころか動物も見当たらないな。」
「本当ね。噂通り白狼がにらみを効かせてるのかしら。」
「とっても興味深いわ。言い伝え通り神の使いだから魔物を許さないとか。」
「でも、動物も見当たりませんけど。動物は食べられちゃったんでしょうか。お友達の狼さん達がいるはずなんですが。」
勿論違う。この森の全ての生き物が、突然訪れた強大な何者かに恐れをなして息を潜めているだけである。マッドウルフ達も同様であった。
結果、何のトラブルもなく西の岩山に辿り着いた。ヘイゼルの森の西側はこの岩山で終わっている。その向こうは平原でそのまま国境まで平原が続いている。
西の岩山は200mばかりの高さで、上まで登ると森が一望でき、まさに絶景であった。
「うわーすっごい、森の、いや樹の海ね。」
「天気もいいし、まさにピクニック日和だな。」
「気持ちいいですね。来て良かったです。」
「本当ね。あとは白狼の事を調べられればいいんだけど。」
「皆様、準備が整いました。お飲み物でもいかがですか。」手際よくテーブルや椅子が並べられて、飲み物が用意される。
屋根だけのテントが張られていて、紫外線対策もバッチリだ。
和やかにお茶をして、そのままランチを頂く。爽やかな風が吹き、穏やかな時間に皆満足そうな表情だ。
一方、岩山の反対側、西の麓にマッドウルフ達の巣があった。引っ越しの教訓から家らしき物をこさえてみたのだ。
今は全員引きつった表情で、岩山の頂上を窺っていた。
遂に来た。あいつだ、飼い主だ。どうする、挨拶しに行かないとマズくないか。これだけ力をつけたのに、前より恐ろしく感じるのは何故だ。震えが止まらない。
マッドウルフ達はうじうじと話し合うが結論は出なかった。
マッドウルフ達が強く賢くなったせいで、相手の強さ、力量を以前より敏感に知覚出来たのだ。それ故に以前より一層恐ろしく感じていた。
あの化物は何なのだ、と。
とりあえず、そろりそろりと岩に隠れながら岩山の西側を登り始めた。
そんな事など露知らず、アンビル達は散策を楽しんでいた。
「そういえばアンビル殿、私はかの有名なファイヤーボールが見てみたいぞ。」
「そうね、今やアンビルの代名詞ですものね。」
「そうなんですか?誰にも言われた事ないですけど。」
きっと合格物語のせいね。誰得なのかしら、まったく。でも火の鳥よりましかしら。
「見た事ある人が少ないからじゃないかしら。」
「幸いこの岩山なら迷惑もかからないだろう。是非とも見せてくれ。」
「私も見てみたい。ラバーナへの土産話に是非お願いしたいわ。」ペーニャにここまで言われたら断る訳にもいかない。
「分かりました、試してみたい気もしますのでやってみます。」
中腹辺りにちょっとした広場があったので、そこから岩山の岩めがけて放つ事になった。代名詞(笑)の呪文はさすがにもう覚えていた。
「では、いきます。我が意思に集いて敵を討て、ファイヤーボール!」小さく、小さく、ぎゅっと小さくよ。
心の中で精一杯念じた。結果、30cm程のファイヤーボールとギリギリ呼べるものが手の先から飛び出した。
「やった!成功です!」今まで見た中で一番小さい出来だった。思わず可愛いくガッツポーズをとっていた。
スーっと飛んでいくのを見ながら「かなり大っきいけど、ちゃんとしてるみたいね。」ミルノが感想を述べると、岩に着弾した。
が、爆発しなかった。貫通したのだ。ジュッ、ボッ、ジューッボフッといいながらいくつもある岩を貫通し、岩山も突き抜けていった。
どうなったのか分からないので集まってみる。すると、アンビルのいる場所から30cmのトンネルが山の向こうまで続いていた。
岩山の反対側では、何か危険を察知して岩に隠れたマッドウルフ達のすぐ真上を、火の玉がブスブスいいながら岩など無視するかのように貫通してそのまま真っ直ぐ飛んでゆく。
自分たちの頭上を死が通り過ぎていったのだ、皆そのまま固まってしまい、一歩も動けなくなってしまった。絶対飼い主の仕業だ、もしかして怒っているのか?また、さらにうじうじと話し合いは続く。
「あ、アンビル殿、見た感じは良かったが、今のはファイヤーボールとは呼べないんじゃないか。」
「そうですか?今のはかなり良かったと思いますけど。」
「普通のファイヤーボールは岩を貫通したりしないわ。それどころか岩山を貫通してるわよ。こんなのファイヤーボールとは呼べないわよ。」
「ですが、何なのでしょうか。確かにアンビルさんが唱えたのはファイヤーボールの呪文でしたわ。」
「ファイヤーボールには違いないけど、ファイヤーボールではない何かよ。」
なんてことでしょう。また失敗したのでしょうか。もうどうしたら成功なのか分からなくなってきました。ファイヤーボール恐るべしですね。
あーでもない、こうでもないと話しながら頂上のテントに戻ると、ティファラが深刻な表情で出迎えた。
次話に続きます。




