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オーメソⅡアンビル  作者: tetu
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第百二話:アルスールの剣vsシエスの剣

よろしくお願いします。

 ここでもアンビルの認識と現実は解離していた。


 身を守る為の護身用の剣と位置付けているアンビルだが、その威力は余りあるものだった。


 獣王ブロノの命を受け、兄弟の仇討ちと称して襲って来たビステルのブロナと獣人暗殺部隊。


 ラバーナのコロシアムで戦う事となったアイアンゴーレムを含む魔物達。


 どちらも最後はアンビルの並外れた魔法によって決着が付けられていたのだが、前段階でその剣は十二分に活躍していた。


 ビステルの獣人たちは巨大化した剣を片手で振り回すアンビルに吹き飛ばされ、アイアンゴーレムたちは熱線の如く伸ばした剣によって細切れにスライスされた。


 アンビルは確かに身を守っただけなのだ。だけなのだが結果は圧倒的な蹂躙劇に他ならなかった。仮にもし普通の剣を用いていれば違う結果が出ていたかもしれない。護身用と言うには過剰なまでの破壊力を秘めていた。


 勿論、この剣を十全に使いこなせてこその結果ではあるのだが...


 「今までも、そしてこれからも私を護ってくれると信じています。」嘘はついていない。本人がそう信じて(思い込んで)いるのだから。


 「シエスの剣...素晴らしい剣だ。だが、それだけではないのではないか?その剣を使いこなすのは容易では無いと推察する。アンビル殿あっての剣であろう。そこな剣もアンビル殿という主に使われてさぞや満足していることだろう。」


 「そうでしょうか?私、剣術は得意じゃないので助けられてばかりのような気がします。」製作者のザレブが聞いたら全否定するだろう。


 事実、この剣を使いこなせる人間はアンビルだけである。重さも、変形に必要な魔力も普通の人間向きではなかった。


 「謙虚も時には美徳となるまいよ。ではアンビル殿、我が最強の攻撃を見事防いで見せよ。よもやこれを使う事があろうとは...神に感謝せねばなるまい。」


 フォーサイスは少し腰をおとし、斜めに構えた。剣は真っ直ぐ天に向け、脇を締めてアンビルを睨み付ける。野球のバッターのような構えだが、この世界に野球は存在しないので誰もつっこめない。


 「この闘いは魔剣同士の闘い故、剣の持つ力以外での攻撃、防御は出来なくなっておる。決着が着けばすぐに結界を解く故、何なりと治療するが良かろう。」力をためるように構えたままアンビルを睨んでいる。


 「受けてみよ!」叫ぶと同時に構えた剣で天を突き振り下ろした。一瞬アルスールの剣が光ったのだが、それも含め全てが同時に一瞬で起きる。


 同時に身構えていたアンビルの手の中でブルッと震えると一瞬で形を変えたシエスの剣は、アンビルが握れない太さの柄になりその手を離れた。そのまま柄は1メートル程伸びて地面に突き刺さり、刃も細長く尖って地面から3メートル程になったが、どういう訳かかなり斜めに突き立っていた。ほんの一瞬、まばたきする間の出来事であった。


 光ったと同時に『ピシピシシィィッ!』『ドドーンッ!!』と、二つの音が同時に聴こえビリビリと空気を震わせた。


 アルスールの剣から放たれた雷撃だった。先に天を突いたのは同時の雷撃のためで、頭上からもアンビル目掛けて落雷があった。更に剣による一撃を入れようとフォーサイスは踏み込んできていたが、シエスの剣はその雷撃を避雷針の如く地面に流し、更にフォーサイスの行く手を遮っていた。


 余りの衝撃に身を竦めて顔を覆うアンビル。恐る恐る顔を上げると、斜めに突きたったシエスの剣の向こうで、剣を構えたまま通せんぼされ立ち止まっているフォーサイスが目に入る。


 「お見事!よもや斯様に全てが防がれるとは...実に素晴らしい。いや恐るべき魔剣であるな。シエスの剣よ、存分に互いの力を試そうではないか!」やけに嬉しそうに叫ぶフォーサイスであったが、「む?」と再び距離をとった。


 『ヒィィィィィン...ヒィィィィィン』と、何かを震わすような音がうっすら聴こえてくる。当然アンビルの目の前に斜めに突き立つシエスの剣からだった。初めて見る現象に恐々しながら手を伸ばすと、シエスの剣は元のショートソードサイズになりアンビルの手に収まった。柄を握っても震動など感じないのに『ヒィィィィィン』という微かな音は剣から聴こえた。


 「どうしたのかしら?まさか今のでどこか調子が悪くなったのですか?」心配になって真剣に問いかけるアンビル。分からないが何となく、治れと力をこめてみた。


 カッと赤く輝くと柄と鍔の真上、剣の根元から音叉のように二股に別れ二本の太く分厚い刃が向い合わせで真上に伸びていった。刃はYの字の両手部分が15cm程の間隔で平行して2メートル程の長さになった。


 『ヒィィィィィン』という微かな音は止んでいない。アンビルは見たことも無い剣の造形に呆けて見上げていた。


 「何だ?何が起こっている?何故その剣はそこまで自在に形を変えられるのだ?原形を留めていないではないか!アンビル殿、一体どういう事なのだ?」


 「分かりません。何となく思い浮かぶのですが、怒っているようです。何となく、ですけど。」


 赤く輝いたまま、刃の部分が回転し始める。『キイイィィィイィン!』と、あっという間に眼で追えない速さで回転していた。


 胸の前で両手で握りしめ、回転する刃を見上げていると頭の中に単語が浮かんでくる。思い浮かぶままに声に出してみた。


 「死ぬところ...許さない...完全に...粉砕?」意味が分からないアンビル。


 フォーサイスは目を見開いた。そうなのだ、アンビルからは殺意など感じない。なれど殺意ではない、何か得体の知れない恐怖を感じる。あの剣からだ。確実に怒っている。いや、激怒していると言っていいだろう。あの剣も意思を持つものなのか?そんな事はなかったはずだ。だが今はヒリつく程に感じられる。明確なる破壊衝動、殺すではなく壊すという意志を!


 「待て、待ってくれ!決して殺すつもりなどなかった。現に防ぎきったではないか?」慌てたフォーサイスが勝手に弁明し始めた。アンビルはきょとんとしている。


 更に回転が速くなり、輝きも増していく。ジジジッ!ピシッ!と小さく電気が迸り始め帯電しているのが見てとれた。


 「壊す...粉々...粉も滅す?」言っててアンビルも不思議に思った。どう考えても剣の意志である。余りの激怒っぷりに若干ひき始めた。


 「待て、いや待って下さい!決して、決してそのような大それた事をするつもりなどなかったのです。どうか、どうかお許し下さい。お怒りをお鎮め下さい。」見るとフォーサイスは剣を置き土下座していた。余りの姿に哀れみを感じて、アンビルから剣に問いかけてみた。


 「何故そんなに怒っているのですか?」回転する刃に声をかける。ここだけ見たら変わり者に他ならない。


 「私が...死ぬところ...許さない。それで怒っているのですか?大丈夫です、あなたのお陰で怪我一つありません。」笑顔で話しかける。


 「敵...つるぎ...危険...粉砕。」更に回転を増し、迸る電流と共に炎も纏い始めた。誰がどう見ても危険極まりなかった。


 「もう大丈夫です。つるぎさんのお陰で助かりました。本当にありがとうございました。今日はもういいですから、またいつかお願いしますね。」アンビルは思った事を言葉に出して礼を言った。


 瞬間、『フゥウゥン!』と瞬く間にいつものショートソードサイズに戻っていた。何となく満足している気がするが、何となくである。


 アンビルが安心してフォーサイスを見ると、彼はそのまま土下座したままだった。


 「あの、フォーサイスさん、もう大丈夫ですよ。シエスの剣も元通りになりました。」既に平常運転のアンビル、先ほどまで刃を交えていたとは思えない。


 「アッ、アンビル様、御身に刃を向けし我らをお許し下さい。」


 離れて見ていた全員が言葉を失っていたのだが、ロランとティファラだけは少しだけ、ほんの少しだけにやけて目を輝かせていた。



ありがとうございました。

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