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That Party People  作者: 八樹聡
1/3

Before Party

初めてから、その終わりを見届けるまでの、目線の話。

思い出の話を、私小説風へ仕上げました。

きっかけは、「何か」を感じた。

その「何か」は、明確ではない。

けれども、「何か」があったことは確かだった。

だからなのかもしれない。

あるいは、その「何か」に文字通り呼ばれたのかもしれない。

少なくとも、新しい一歩を踏み出すその瞬間は、自分以外の力が働くのだろう。

それまでは、そこはとても遠い場所、画面の向こう側、自分とは縁のない世界。

そう思い込んでいた。


それは、凝り固まっていた自分自身でもあった。

ボタンの掛け違えのようにして転がって行っていた自分。

このまま転がり落ちていく自分をどうにかしたい。

それを繋ぎとめるための何らかのもがきだったのかもしれない。

結局は、そのどれでも構わなかった。

最も大切なことは、その一歩を踏み出す、ただそれだけ。


本当の最初は、小さなバーカウンターだった。

繁華街の雑居ビル。

エレベーターを上がった7階。

会員制と下げられた扉の前で、悲観的な妄想を抱いていた。

会員で無いと入れないと、断られるだろう。

一見さんはお断りなのだろう。

不安だらけの中で、扉を開く。

そこに待っていたのは、不可思議な世界だった。

サブカルチャーの塊のような世界。

ワンダーランド、とでも表現すれば良いのだろうか。

今までに無い価値観が目の前で繰り広げられていた。


最初のステップがそれだけ大きいものだったのだから、次は大丈夫だろう。

不用意な自信を持って臨んだ場所。

それも繁華街の奥地ということで迷ってしまったことで早々に折られてしまったが。

目的地は地下にあるライブハウス。

ライブハウスには行き慣れていたからと、またも不用意な自信でその扉を開いた。

新しい場所というのは、常に扉の向こうにあって、その扉は、何故か少しだけ重たい。


その向こうにあったのは、見たことのない色、そして人。

圧倒されたままに過ぎていく時間。

そして大音量の音楽。

流れる楽曲の大波に、その圧倒的な空気感に飲み込まれてしまった結果、溺れてしまった。

あの頃の捻くれた自分には、その衝撃は大きなものだった。

楽しむどころの余裕なんてどこにもない。

見知った顔はひとつもない。

いや、見た顔はあったけれども、自分から話し掛ける余裕なんてどこにも無い。

とうの昔に終電は終わっている。

結局は必死に時が過ぎるのを願うしかなかった。

その日は、完敗だったとしか言いようが無かった。

けれども、何故かその翌月にもその場所に立っている自分がいた。


どうせなら、三度は行こう。

行かないという判断はいつでもできるのだから。


それは今まで全く取ったことの無い行動。

扉を開いた結果に生まれたものは、それだったのかもしれない。

何故その判断に至ったのか、今でもその動機はわからないまま。

けれども、それが今に繋がっていることだけは、間違いのない事実だろう。


三度目を終えて、ようやく認識されるようになった頃。

次をどうしようかと思うようになっていた自分が居た。

何かに挑むこと、その時に据えていたコンセプトのようなものであった。

でも、一気に挑戦しては潰れてしまう。

それが今までだった。

けれども、その時は違った。

何かに挑むことを続けてみよう、そう思うように変化していた。

その変化は知らぬ間に、気付かぬ間に、起こっていた。

劇的な変化というものは、いつもその後で気付く事でしかない。

その際中は、全くいつもと変わらないままだと、思い込んでしまっている。


三度目の次。

今度は大阪で開催するという。

大阪。

遠征なんて、自分の頭では考えられない。

今までの自分なら。

その時の自分は、何かに当てられていたのか、あるいは何かを感じ続けていたのだろうか。

当日の夜、仕事を終えてしばらくした後、新幹線のホームを歩いていた。

終電近くでも新幹線は人で賑わっていたけれども、その後に備えて眠ることにした。

大阪の街は、思ったより暖かった。

鞄ひとつで乗り込んだ大阪。

深夜の郊外を歩くことも、初めての事だった。

いかつい人、いかつい車、いかつい街。

その先にあった箱へ入っていく。

その夜は今までより、ほんの少しだけ楽しむことが出来た気がした。

知っている顔はあった、けれども話し掛けることはしなかった。

まだまだ変化の殻を破りきれてはいなかった。

朝を迎えて、大阪を後にした。


この頃になると、ようやく周囲から認識されるようになってきた。

毎月出会う顔と挨拶を交わす。

最初は怖かったもうひとつの扉の向こうにも、積極的に出るようになってきた。

その流れからだろうか、あるいは生来の貧乏性からだろうか、せっかくエントランスを払ったのだったら、最大限まで楽しまなければ損だろう。

そんな考えに至った。

その考えに至ってからは早かった。

知っている顔には声を掛けることをある意味で徹底した。

今まで苦手だった異性に声を掛けることにも、挑戦しようとする心だけは生まれた。

それからは楽しく過ごし、そして終わっていった。


夏の終わり。

そこは船の上にあった。

当日までの曇り空、前日の雨と、不安要素が多かった。

ただ、確信がひとつだけあった。

必ず、雨は止む、と。

その確信通り、雨は上がった。

集合場所の桟橋に着くと、続々と仲間が到着していた。

そのほとんどが、見知った顔。

知らない顔があっても気にならない。

乾杯すればいいのだから。

そんな気楽な気持ちと、高まる心を持って、乗船。

港を出た後には雲に隙間が出始めていた。

波に揺られながら、音を、酒を、空気を、全てを、楽しむ。

瞬く間、という言葉はこのことを表すのだろう、すぐに港が見えてきた。

その時に撮ってほしいと頼まれた写真、その姿は夕陽を背景に、背姿を撮るものだった。

それはとてもよく撮れた、最高の一枚だった。

船を降りた後、特典として打ち上げに参加する。

思っていた以上に初めての人が多かったけれども、後でそのほとんどと知り合うことになるのは、必然の流れだったのだろう。


ハロウィン。

自分には縁遠いものだと思っていた。

そのノリや、楽しそうな空気感は、苦手だった。

正確には今でも苦手ではあるけれど、少なくとも嫌悪感はなくなっている。

その頃になると、もうひとりではない。

そこへ行けば、必ず顔がある。

知っている顔と、今は知らない顔。

いずれは知り合うことになるだろう顔だから、顔を見ては顔を覚えるようになっていた。

それはこの場所にいれば、いずれ縁がある顔になるだろうから。


冬になると、その場所は急加速を始めた。

より盛大に、より華々しく。

まるで何かに急ぐようにして。

刺激的な場所、知らない場所へと連れ回され、その都度、扉を開いていった。

とても豪華な場所で迎えたクリスマスイブ。

最早自分達のいる場所が、そこになっていた。

だから、どこへ行っても怖いとは思わない。

むしろホームに変えてやろう、そんな気概すら持っていた。


よもやそこが最後だとは、夢にも思ってはいなかった。

ただただ、素敵な時間を過ごせていた。

それが正直な感想だった。

けれども、それが最後。

そうだと気付いたのは、全てが終わった後だった。


その場所は、そこで終わり。

けれども、そこが最後ではなかったらしい。

その場所は、もう少しだけ、続くことになった。

後半は続きにて。

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