記憶
あまりちゃんとした小説じゃないですが、 読んでいただけると光栄です。
「今日もいるかな」
そう僕は一人ごちりながら綺麗な月が照らす道を、 大型のバイクの音だけ響かせながら走らせる。 あの場所を目指すために。
...あれはいつだっただろうか。
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その日は唐突だった。
いつものように目を覚ましてキッチンへと向かう。
そうすれば美味しい料理を作る母にコーヒーを飲む父、 忙しそうにパンを食べる妹がいるはずだったんだ。
「おはよう...あれ?」
その日は違った。
あくびをしながらそう言うだけで誰かしらが返事を返してくれていた。
だが驚きと共に顔を上げるとそこには誰もいない、 朝の光だけが暖かくさすだけだ。
「今日は日曜日だったかな? あれ? でも時計は月曜日になってるし、 故障か?」
どこか胸騒ぎがする。
僕はそのまま早歩きでそれぞれの家族の部屋をノックもせずに開けて行く。
母は、 いない。
父も、 いない。
妹も、 いない。
おかしい、 みんなでどこかに言ったとか、 いやいやそんなことあるはずが。
パジャマのまま僕は玄関へと向かい、 何も履かずにドアを開ける。
「車は、 ある。 妹の自転車も、 ある。 あれー?」
何がどうなってるんだ? いやでもまだおじさんの車に乗ってどこかに行ったとか? きっとそうじゃないだろうか。
ちょっと、 歩いてみるか。
ここでようやく靴を履きに戻る。 そして辺りを見渡しながら歩く。
いつも僕に吠える犬はリードだけが落ちている。
毎日ラジオ体操をしているおじさんもいない。 代わりにラジオだけが流れる。
来るはずの電車も、 いつも見上げればある飛行機も、 いつも蟻のように列をなす車も見当たらない。
「...どうなってるんだ」
もう何が何だかわからない、 誰もいない。
「! そうだテレビ!」
僕は急いで近くの家のドアへと向かう。
手をかけるとそのドアはなんの抵抗もなく開いてしまう。
広いリビングには観葉植物や高価そうなソファなどなど、 きっとこの家は裕福なのだろう。 だがそんなことはどうでもいい。
急いでリモコンを探しテレビをつける。 よかった、 電気はあるようだ。
『今日のお天気予報です。 今日は比較的に暖かい日になるでしょう』
すぐ映ったのはニュースだった。
いつもの変わらないニュース。 ではない。
きっと話しているであろう人物は夕暮れに浮かぶ影のように黒く塗りつぶされている。
『それでは準備運動。 そのまま大きく手を挙げ腕の体操』
『昨日あったワールドカップについてです』
『やぁこんにちは! 僕はご飯の妖精ライスくん! ちゃんと噛んで食べよう!』
全て、 すべてすべてすべて。
人という人が黒く塗りつぶされている。
比較的人形やアニメだけはちゃんとキャラをなしている。 ただ本当に人間や動物。 生物全てが黒く塗りつぶされている。
「おかしい、 おかしいって! どうなってんだよ! どうなってんだ? わからない。 何が何だかわからない」
頭を抱え僕は倒れこむ。 自分の唸り声とテレビに映る陽気なピエロの人形だけが踊り続ける。
「きっと、 きっとドッキリか何かだ。 それしかない」
僕はそう思いぼやける世界をまた歩く。
いつもガンガンとうるさいゲームセンター。
車が多く止まりどんな時でも人がごった返すショッピングモール。
騒音が酷く、 問題になっているはずの工事はすら無音だ。
毎日通う学校、 そこにすら誰もいない。
まるで僕だけになってしまったのようだ。
いや、 僕だけなのかもしれない。
静寂したこの街はこんなに気味悪く、 寂しいもんなんだな。
いつのまにか落ちた日を僕はトボトボ歩く。
次はどこに行こうか。
どこにも何もいない、 なんてつまらないんだろうか。
「あれ、 いつの間にかここに来てたんだろう」
目の前に広がるのはこの街を見渡せる僕だけの絶景ポイント。 そこはいつ見ても僕を楽しませる。
「...本当に誰もいない」
この時間帯ならば帰宅ラッシュで人や車がごった返すはずだ。
だが見える道路には何も映らない、 所々に車やバイクが止まってるだけだ。
「どうなってんだよ、 いったい」
そのまま体育座りをすると息を一つつく。
そういえばお腹も空かないし疲れも、 眠気もしないや。
もしかすると僕は、 死んでしまったのだろうか。
手首へと片方の手を当てる。
ちゃんとドクンッドクンッと波打つのがわかる。
「もうわからないや」
深く目を瞑り昨日を思い出す。
肩がぶつかるほど近くを歩く人や毎回とまらせる信号。 どれも何もなく意味をなさない。
「...そっか、 死んじゃえばいいのかもしれない」
何もないんだそうしよう。
僕は重い腰を上げると少し離れた場所にある柵へと手をかけると。 その下は気が多い茂ってはいるが、 落ちたら明らかに助からない。
「いま、 いくよ」
そのまま体重をかけると僕は身を乗り出しーーー
「やっとみつけた! こんなとこにいたんだ、 探したんだよ?」
突然の声に僕は動きを止める。
とうとう幻聴すら聞こえて来たようだ。 僕はどんだけ寂しがり屋なんだろうな。
「もしもーし? 無視されるの好きじゃないんですけど?」
え?
「てか○○が自殺とか無理無理、 自分の血見て貧血起こしてたじゃん笑」
僕はゆっくりと振り返る。
暗くなったいまはっきりとはわからない。
「もう、 そんな顔してどうしたの?」
するとドンピシャのタイミングで街灯がつく。
彼女腰に手を当て困ったような顔で僕を見ている。
「そんな泣いて、 はいこれ」
ゴソゴソとバックを漁ると俺へとハンカチを向ける。
そんな手を僕は両手で掴むと目の前へと持ってくる。
...温かい、 そして柔らかい。
「ちゃんとした手だ」
「何言ってるの?」
そこで我に気づくと俺は慌てて手を解く。
その際彼女は驚いた後にすごく怒った顔で僕にバカといった。
これだけだとどうしてもわからないかもしれないので、 これの続きをもう一つだします。