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Amour interdit  作者: 佐伯
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Amour interdit.1

「私は神様が嫌いです」

私は神父にそう答えて睨むと、彼は怒ることなく微笑んだ。まるで、悪魔が人間と契約する時の微笑みに似ている。

静寂の中だった。教会には私と彼しかいない。ステンドガラスは外からの光を反射し私たちが踏みしめている大理石を輝かしく照らす。私には不似合いな場所だった。

彼は人に敵意を向けることも、怒鳴ることもなかった。それを私は知っていた。

「いずれ、好きになるはずです。ほら、その証拠に貴方はこのように教会に来ているじゃないですか」

彼はいつもの様に私に向けて答える。彼の瞳は私を向いているはずなのに、何処か遠くを見ていた。

「私は信じられないんです。だって見えないんだもの。それに…教会に来ているのは、貴方にー」

会うためです。そう言おうとして辞めた。この方法は幾度とも試したからだ。彼も私が噤んだことを悟ったようで何も言わなかった。


体に根ずいてしまった愛はどうやら歪のようで。

いつぐらいだったか。親に連れられてここに来た私は、まだ幼かった。

可奈ちゃん。ママの通りにやるのよ。

母はそう言って教会の入ってすぐに置かれている器の水に手をつけると

「父と子と精霊のみ名によって、アーメン」

手を頭、胸、右肩、左肩と触れ手を合わせてそう唱えた。

私も親の言うとうりに十字を切った。教会の中に入ると親に手を引かれたくさん並べられた長椅子の一つに座った。私の目にはたくさんの人たちが共に手を合わせるのが見えた。

座った椅子はひんやりと冷たく、目を開けたときに目が合ったマリア様の銅像の目はまるで嘘を積み重ねた私の重い罪を見透かしているようで恐ろしかった。

1人の神父らしき人が出てくると人々は立ち上がって賛美歌を歌い、神父が説教を始めると人々は座り彼の目を見て手を合わせた。

「佳奈ちゃんは神父様に祝福してもらってね。洗礼はまだ受けてないからね」

母は手を合わせてただ前を見つめている私にこっそり耳もとで呟いた。人々が神父の前に並びパンをもらう中、私は母と共に皆と同じことをした。皆は賛美歌を歌い、美しい声が響き渡る。

神父の前に来ると、私は親に言われた通りに手を合わせ頭を下げた。

「あなたに神の祝福がありますように」

私の頭に触れた神父の手は大きくて、ちらっと見えた彼の表情は凍ったように孤独という名の寂しさに包まれていた。


母はその後も、何度か私を教会に連れていった。親の愛情は気持ち悪いほどだった。少し帰るのが遅かったからって学校に電話したこともあったし、私の着ていく服にも母親の許可を得られないといけなかった。いつも日曜日には私を連れて教会に行った。友達と遊んだこともなかった。それが私の中では当たり前だった。そして滑稽で可笑しかった。

しかし私は親の反対を押し切って、高校に入ると同時に一人暮らしを始めると親への愛情はぱたりと無くなった。

ー神様を信じられなかったからだきっと。

私は何故か親の愛情がなくなったのかを知っているような気がした。

それでも私はまたあの場所に足を運ぶようになっていた。


「神様は、貴方にもきっと祝福をくださいます。神は貴方が幸せになるのを望んでいるのです。」

彼は、私の名前を呼ばなかった。それは、まるで私の愛を拒絶しているように思える。

いつだっただろう。純粋な気持ちで彼に想いを伝えたのは。

『人は必ず罪を犯してしまいます。』

その時の彼の言葉は今でも忘れられなくて私の痛みとなってしまっていた。

彼は沈黙した私を見て、寂しそうな表情になった。

貴方も寂しいくせに。

私は心の中で呟いた。根拠なんてどこにもなかった。私が勝手に思っただけだ。

この声も想いもきっと天の上にいる神様に届いているのだ。この歪な感情もきっと。神様を信じない私でもこの教会に来ると皆の信仰の深さに信じざるおえなくなってしまう。人々の祈りの場所。恐ろしく、気持ち悪いほどに。

罪悪感は日に日に色濃く染まってしまっていくような気がした。私はそれを誇らしくも思っていた。彼とは真逆だ。私が悪魔で貴方は天使。ミサが終わったばかりの彼の姿は信者の見本となるように真っ白だった。それを汚してしまう罪悪感が私の中にはあるはずだった。

「ねぇ、神父様。」

甘ったるい声で私は彼の腕をひいて椅子に座る。彼も手を払うことも嫌そうな顔もすることもなく私の隣に腰掛けた。

ーやっぱり貴方は優しい。それがどれだけ残酷か、貴方はきっとこれっぽっちも知らない。いっそ、この手を振り払ってくれれば諦めがつくのに。

私は、彼の手を口元に持って行きそっとキスをした。ひんやりと冷たい手は祈りをささげるだけある。美しい手だった。

「貴方の罪を神の名の下に赦します。」

彼の声が聞きこえた。これもいつものことだった。彼の片方の手にはいつも肌身離さず首に下げている十字架を握りしめていた。亡くなった母親の形見だと私がきたばかりの頃に教えてくれたそれを、血が出るんじゃないかというぐらい強く握りしめ彼は私の目をそらしていた。

彼の首元に手を持っていく。衣服の擦れる音と私と彼の息遣いだけが響く。私の手で外れた彼の衣服のボタン。彼の綺麗な鎖骨があらわになって私はそれに触れた。

彼の息が荒くなる。きっとこの行為が終わったら彼は神様に許しを請うだろうか。

『どうか、こんな汚れた私をお許しください。主よ憐れみたまえ。』

何度も祈りながらもきっとその発端は私のせいだと神様に言わないのだ。それがとてつもなく悲しい。私の存在が彼の瞳には映らないから。私の愛は腐っていく。終わった後に残るものは何だろうか。

私の胸を彼にくっつけながら私は首筋から下にそって触れていく。

彼の体が跳ねるたびに私は嬉しくなる。彼のそれは私の行為にならって大きくなっていた。しかし、私はそれには触れなかった。

行為が終わると彼は哀れみの目を私に向けて、

「貴方に幸多からんことを。」

そう一言だけ言って出ていった。

残ったのは虚しさと汚れきってしまった私の存在だけだった。

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