第9話「放送・修復・完了」
『あ、あぁー。マイクテストマイクテスト。どうもこの世界の皆さん。俺の名はマサキだ。』
俺は今、全世界生放送をしている。そんな言葉ないので今作った。
まずは今は亡き主人様とやらの命令に従事している人たちに、強制労働の終了と新しい世界の始まりを告げようとのことになった。なので今こうして放送しているのだ。方法は簡単、自分の声の振動を様々な魔法を使って惑星中の空気に振動させ、惑星にいれば誰でも聞こえるようにしているのだ。もっと簡単に言うと、空気をマイク代わりにしてる感じ。…これを簡単と表現している自分が恐ろしい。
緊張しますね、とアルセルトに言われたが、俺はあまりそんなことはなかった。高校での校内放送ならかなり緊張しただろうが、全世界に放送だ。現実味なさすぎて緊張しない。
『みんな、働く手を止めて欲しい。君たちが強制的に働く必要はなくなった。諸悪の根源というやつを俺が倒したからだ。もう怯えなくていい。震えなくていい。耐えなくていい。泣かなくていい。ここに、我々が自由を手に入れたことを宣言する。』
それからしばらく状況の説明をし、これからどうして行くのかも話した。一方的にではあるが。
以上を見てわかる通り、俺はこの後処理をすることにした。
自信なんてものはないさ、あるわけない。だって数日前まで高校行ってたんだ。国を治めてた経験なんてある方が珍しいだろう。俺に何ができるかといえば、サポートくらいなもんさ。なので、そうすることにした。
具体的には、あの金髪が来る前にそれぞれの種族を治めていた長を集め、かつて住んでいた場所に返すと行った方法だ。その後、倒壊した家の修復作業に取り掛かる。金髪が起こした地面沈没現象はあの街全体の範囲だけだったらしい、比較的近辺だったここに被害が出てないのだから、大丈夫だろう。
俺が各地を転々と回る。何かしらの魔法で、どこかの族の長をしていた奴は上空の俺に知らせてくれた。そうして族を回収し、一度カチルのいる町に集め、話し合う。
「最後に、集まってくれて本当にありがとう。あとはそれぞれ元の場所に戻って、今までしてきたように暮らしてもらうだけだ。…だが、頼みごとがある。」
族長たちはそれぞれ首を傾げる。
「無理にとは言わない。これはただの俺のわがままだ。…王都の街が、全壊したんだ。その修復作業に人員が欲しい。この中に過去、王都との間に何かしらの問題を持っていた奴もいるだろう。だから、無理にとは言わない。」
族長たちは、お互い顔を見合わせ、そして、壮大に笑ってみせた。
「小僧ォ!調子に乗るんじゃねぇぜ、そんなくだらない理由で助け手を渋るわけないじゃろがい!!小僧は小僧らしく上のもんに頼っときゃええんじゃ!ガッハッハッハッハッハ!!」
俺は一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。だが、その拍子の抜けた返答が次第におかしくなり、俺も笑ってしまった。
「カカカッ!いやいやすまねぇおっちゃんたち!昔いた国じゃぁくだらない事に意地はって、国の助け合いもろくにするようなもんじゃなかったんだ。おっちゃんたち最高だよ、チューしてやる!!」
俺が飛びかかろうとすると全員蹴ったり魔法を放って全力で抵抗してきた。この人達は一応族長なので全員高齢者だ、こんな事で寿命を縮めちゃならんだろ。的確に杖で目潰ししてこようとする奴もいるから、必死さが伺える。
「よし、じゃぁ、まずはそれぞれ元いた場所に帰ってもらおうか。そっから諸々の準備が済んだらみんなに声をかける。それまでに建築関係の仕事ができるやつをできるだけ集めて欲しい。もしみんなの街も倒壊被害にあってたら遠慮なく言ってくれ、また人員を集めて手伝うから。」
「お主は近年稀に見る好青年じゃのぉ。じゃがわしらは何もやれんと思うぞ…?」
「なんもいらねぇさ、好きでやってんだ。助け合うことが大事だって、ちっさい女の子に諭されたからな。」
カチルの顔を思い出しながら、そう呟く。
そこから、族長回収の時のようにもう一度上空に上がり、それぞれ元住んでいた場所に族長を下ろし、全国生放送で、そこに向かうように指示した。そして、そこに向かう途中に何かトラブルがあったりした時、助け合って欲しいとも伝えた。
『助け合わなきゃ、みんな死んじゃう。頼んだぜ。』
そこから数日後、諸々の準備を済ませ、家の修復作業に取り掛かった。
族長からの進言もあり、かなりの人数が集まる結果となったので、作業は予想よりも数日早く終わった。実質10日ほどだろうか?俺は主に建築材料の調達と、建築に関わってくれる全員分の食料の調達に勤しんだ。作業は驚くほど円滑に行われたので、書くことがなくて困るくらいだ。
街の住民は大いに感謝し、涙ぐむ者で溢れた。俺からもしっかりと礼を言い、集団は帰って言った。本当に何も見返りを求めないな。どうしても疑ってしまう自分に嫌気がさす。
さて、これで当面の問題は解決できた。あとは、今後のことだ。と、切り出したいが、王都の人民たちは、後のことは気にしなくていいと口にしたのだ。「全てマサキさんに任せてしまったら、私たちだけになった後、何もできなくなってしまうから」とかなんとか。正直、一国の政治をまとめ上げるのは俺としてもめんどくさかったから、その言葉には遠慮なく甘えさせてもらった。
「依頼も完了だな。」
「じゃな。」
背後から、自称神のおっさんの声がかかった。