第8話「料理・姉・再会」
戻ると、相変わらず服はボロボロだが、みんな綺麗に透き通った肌に戻り、見違えるように美人さをあげていた。金髪のとった行動はクズだが、でも確かに、この女性たちはなにかショーケースのようなものに飾り、愛でたいと思うほどの美人さであった。
「あ、あの、本当にありがとうございます。何から何まで、お世話になりっぱなしで。」
ツノの生えた少女を筆頭に各々謝罪の言葉を発しながら首を垂れる。
「いいってことさ。それより、腹減ってないか?」
空中に浮かんだ水槽を動かし、女性たちの前に持っていき、食べれる魚か聞いたところ、どうやら食べれるらしいのでよかった。ついでに影から牛を二頭だし、驚かせた後調理器具を広げ、準備を始める。
女性陣には下に引くマットやら料理を置くテーブルなんかはないか探してきてもらうことにし、俺は調理役になった。
「なったはいいが、別に料理が得意でもないんだよなぁ。」
「私、手伝いますよ!」
「ん…?」
「助け合っていかなきゃ、みんな死んじゃう。私のお母さんの口癖です、なので、手伝わさせてください!」
「え…?お前…、まさか、カチルちゃんの何かか?」
「か、カチルのことをご存知なのですか!?私は、カチルの姉です、姉のアルセルトと申します。」
「マジか、飛んだ偶然だな…。話したいのは山々だが、今はとりあえず料理を作ろうか。基本的にサポートに回るけど、助けてくれるか?」
「はい!助けさせていただきます!」
カカッ!と笑って、料理に取り掛かる。
彼女に今ある食材と調味料を言うと、焼くか刺身しかないです。と呆れられた。まぁ、醤油と塩しかないのだから仕方がない。この屋敷に保存してあった食材や調味料もほとんど床や瓦礫に押しつぶされ、とても使えそうになかった。その中、塩と醤油だけ奇跡的にまだ使える状態にあった。よく使うからか、他の調味料とは離れた場所にあったのだ。
そんなわけで魚の塩焼きと刺身、肉も余すとこなく焼き、なんの彩りもない料理が完成した。だが、腹が減っている彼女たちにとってそんなことはどうでもよかったらしく、みんなで腹がはち切れんばかりに食べまくった。ちょうど、昼食にあたる時間だ。質素なのはそうだが、なかなかにうまかった。自分でとってきたからなのだろうか、不思議なものだ。
「ところでアルセルトさんや。」
「普通にアルセルトでいいですよ。」
「そっか。アルセルトはカチルちゃんのお姉ちゃんなんだっけ?」
「そうです、つい数ヶ月ほど前まで一緒にいたのですが、主人様に無理やり山奥から連れ去られてしまいました。」
「そっか、災難だったな…。カチルちゃん、元気にしてたぞ。」
「本当ですか?それは良かった、本当に安心しました。」
「だけど、親父さんからはカチルちゃんにお姉ちゃんがいるなんて聞かなかったぞ?」
そうたずねると、彼女は笑みを浮かべて、あぁ、といった。
「お父さんは、他人に心配をかけることを一番嫌うのです。自分が心配性だからってのもあるでしょうけど。だからきっと、姉がさらわれているなんてマサキさんには言えなかったんだと思います。」
「…。」
「それに、言ったんです。無理やり連れて来られる際、私はなんとか生き延びるから、お父さんは家族を守って。って。必至に私を取り返そうと体を張ってくれたんですけど、主人様の魔法に返り討ちにされていて、あのままだと死んでいたと思います。」
親父さんなら確かにやりそうだ。俺のときだって、我が身のように俺の行動を止めようとしてくれた。本当はずっと苦しんでいたのか、娘が拉致されたことを。
「ヒーロー気取りもいいところだが…絶対返してやるよ、元の場所へ。」
「あはは…ありがとうございますっ。」
もう無理、食べられないなどとぼやいている美女に声をかけて、移動を開始する。先程上空から見た際、なんとなくカチルたちのいる場所に似たような街があった。そこが本当にカチルのいる場所なのかはわからないが、今は移動するしかないだろう。彼女たちに許可を取った後、カチルにしたように、風魔法で浮かし上空を移動する。
しばらく進むと、目的の地が見えた。幾らかの人が農作業をしているのが見える。実際に来て見てわかったが、ここで間違いない。ラッキーだ。
地上に着くと、その姿を見ていた農夫たちが全員走り寄って来た。そりゃ、金髪にはむかっておいて帰って来たのだ。彼らに取っては異常なことなのだろう。
「い、生きて帰ってきたのか!?あ、主人様は…」
「殺したよ。…殺すしかできなかった。」
その言葉に、周囲は驚きを隠せなかったのだろう。周囲のざわめきが強くなる。なんて言われるのだろうか。人殺しだと蔑まれるのだろうか。だけど実際そうなのだ。何を言われても何も言い返せないしな…。俺はそっと目を閉じた。数秒後、なぜか次第に音がなくなっていく。終いには完全にシーンとなった。何もかける言葉がないってことか…?それはなんとも、罵声より痛手だなぁ…。ゆっくりと目を開ける。
そして、その光景に息を飲んだ。見渡す限り一面、民達は土下座している。
「お…お前ら…なんだ…?」
「ありがとうございます!!」
ありがとう、その言葉は止まらず、多種多様な声音で、儀式めいた口調ではなく、一人一人の感情がしっかりとわかるように、ありがとうであふれていた。
「いや…俺は殺すことでしか解決できなかったんだぞ…?あいつと同じことをしちまったんだ、問題解決を、殺しで解決しちまったんだぞ?」
「いえ、ちがいます。あなたはあの人とは違います!あの人は殺した兵に目もくれず、自分の力を誇示し、笑い、自分がよければ全ていい、そんな考えでした。でもあなたは違う。殺してしまったことを悔やみ、自らを戒めている。そして、その力を私たちに、力のないものたちに変わって使ってくださっている。」
「そんな大したもんじゃねぇって…。俺は殺したことに後悔なんてしなかったし、あいつをかわいそうとも思わなかったんだ。」
「彼ならば、殺したことを気にも止めません。」
「っ…。」
「後悔しない、可哀想とも思わない、そう言った思考もしないまま彼は殺すのです。そしてあなたは私たちを救った。これは紛れもない事実です。本当に…本当にありがとうございました…!!」
最後は、泣きながらの感謝だった。気づけば後ろにいた元奴隷たちも俺に土下座をしていた。ったく、救ったのかも知れんが、救ってもなおお前達は土下座するのか。
「カカカッ!そうか、救われたのか。まぁ礼は受け取っとくさ。」
「お兄さぁぁぁん!!」
「お…?」
突然、少女がこちらにむかって全力で走り、飛びかかってきた。
「おぉ、カチルじゃねぇか。心配かけちまったな、すまねぇ。カカカッ!」
「本当だよもう!!いきなりビューンって行っちゃうんだもん!」
「カチル!!」
「わっ…?」
アルセルトがカチルに向かって走ってくる。おいおい、まさか飛び込んで来ないよな?
…まぁ、案の定、アルセルトは全速力でカチルに飛びかかった。もちろん、俺も吹き飛ばされる。
「カチル!カチル!!会いたかったよ…!」
「え、お、お姉ちゃん…?お姉ちゃん…お姉ちゃん!!」
姉妹はお互い泣きながら抱擁しあった。そのほか元奴隷の中にも数人、この集団の中に家族がいたらしい。実に感動的な再会だな…。
「マサキさん!」
今度は俺が呼ばれた。その声の主は親父さんだった。
「おぉ、親父さん!火、消してくれてありがとな!」
「本当に無事でよかった、消した後の罪悪感、すごかったんですから!」
「カカカッ!頭抱える親父さんが想像できるぜ。アルセルト、お父さんにもハグしてやりな?」
「ぐすん…お父さん…うええええんんん!!」
洞窟であった時のようなしっかり者のイメージなんてそこにはなく、子供のように泣きじゃくる彼女が自然体に見えた。きっとみんなを不安にさせないよう、頑張っていたんだろう。彼女は間違いなく父親似だな。
その後もこの家族は大変だった。お母さんも混じって一家総泣き。落ち着かせるのに何時間かかったことやら…。
そして、街中に明るさが戻っていったのだった。