第7話「場所・街・便利」
ひとり、またひとりと、牢屋を出て俺にハグをしてくれる。
なんだか急に虚しくなってきた。俺、美女に何やらせてんだろ…。
「なんか、やらせといてなんだけど、ごめん。」
「ふふっ」
全員泣いていたから、精神的にズタボロかと思ったが、少しだけみんなの顔は明るくなった。みんなが出た部屋に何かないか探ろうかと思ったが、やめておいた。トイレもろくにないんだ、想像もつくだろ?
それからしばらく女性を引き連れて、屋敷内を探し回ったが、地図のようなものは何も見当たらなかった。王室にない時点で金髪のアホさや適当さが伺える。
「さて困った。美女の前でカッコつけたいが、なにせここがどこなのかよくわからん。」
うーん、と女性たちも唸り思考する。
「魔法が使えれば…」
「ん?」
「魔法が使えれば、ここがどこなのかを見ることはできるのではないですか?」
頭にツノを生やした少女、17歳くらいだろうか?が、俺にそう提案してきてくれた。
「…、あ、そうか。頭いいのな、お前さん。」
あの金髪が使っていた方法を使えばいいのだ。上空に何か炎でも氷でも使って、そこに闇魔法で自分自身を映し出し、情報を得ればいい。つまりは、直接見ればいいというわけだ。
やってみると、意外にできた。縮小拡大も簡単にできるので、下手な地図よりも便利かもしれない。
「こりゃすげぇ、本当に見えるな。」
「え!?」
「え?」
「使えるんですか!?」
全員驚いたような顔をして俺を見る。
「あぁ、あいつと同じような原理で、炎を介して闇魔法で擬似フェイスタイムしてるけど、何か?」
「ふぇ、ふぇいす…?あ、いえ、まさか2種類の魔法を同時に発動し続けることができるなんて、主人様だけかと…。」
「あぁ、言ってなかったもんな。俺はあいつと同じくらい魔法が使えるんだよ。本当、全くおんなじくらいな。」
「そ、そうなのですね、すごいです、驚きました。」
女性たちが急に恍惚な表情に変わり、すごいだとかなんとか呟きながら、興味津々に魔法を見ていた。
まぁ、なんとなく場所は掴めたので、王都を出ることにした。その前に、女性たちは体を洗いたさそうだったので、おれは空気を圧縮し操り長方形の箱のような、簡易湯船を作る。その中に水魔法で水を入れ、下から熱を送り湯を作る。もちろん外から見えないよう、土魔法で三面囲んだ。
「体綺麗にしたいだろ?ゆっくり湯船にでも浸かってな。そんな土まみれにしちまったのは俺と金髪が戦ったからだし。俺はその間に十六人分の食料を探してくるさ。服、洗っといてやるから、脱いだら置いといてくれ。」
覗きたくて仕方ないが、そんなことすれば嫌われるので、理性が吹き飛びそうなのを抑えてそそくさとその場を離れ、女性たちの着ていたボロボロの服を水魔法で綺麗にし、空気を熱してドライヤーのように乾かした後、瓦礫と化した王都周辺の街へ足を向ける。
「何もかもが潰れてんな。俺が魔法を使って、あのデケェ岩塊を元に戻したところで、縮んだ分戻るだけだしなぁ。…にしても、気味が悪すぎるぜ。」
俺は多少覚悟はしていた。家がこんなにつぶれているのだから、住民はこの住宅みたくぐちゃぐちゃになってしまっているのでは?と。だがきてみれば血の匂いも、音もなかった。この広大な街のどの家にも、だ。そりゃ死人が出てないことには何よりもの安堵を覚えたが、しかしそれはなんとも気持ちの悪い話だ。街全体に住宅だけがある状態なんて、ありえないからだ。
きっとこれもあの金髪がやったのだろう。周辺に美女だけを侍らせ、自分に逆らわない女は側近に、服従しなかったり、反抗的な態度をとるようなら奴隷に。それ以外の男女子供はそれぞれ別の場所へ飛ばされ、労働に励んでいるのだろう。崩れたタンスの中にたくさんの衣服が見えるあたり、ゆっくりと家を出ることも許されなかったようだな。
商店らしき建物の残骸には肉や魚などの生物が多く、どれもかなり腐っていた。長い間放置され続けたのだろう。
「あったかいもん食わせたいよな…。よし。」
そう言い、先程この王都を見たときに見えた海の方へ、重力魔法で重さを排除、風魔法で空気抵抗を排除したのちにジャンプをすれば、あっという間に海の上に着いた。多少怖いが、今の俺には重力がないので落ちることはない。まぁジャンプすれば上がり続けるから微調整はしながら、だが。
そこで、水魔法を放ち海のワンブロックを空中に浮かせた。だいたい縦横高さ500mくらいだろうか?そしてそれを太陽なのかよくわからない恒星に重ね、透き通らせ、どんな魚がいるのか見た。まぁ見たところでわからないので、適当に食えそうな魚を20匹ほど選び、海水で立方体のミニ水槽を作りそこに20匹を放り込む。500m四方の海のブロックは荒波立てないよう戻した。
次に森に向かう。上空から見下ろしても葉っぱしかわからないので、適当な場所を選んでそこに降りた。するとビンゴ、でかい牛みたいなのが数頭草をむしっていたので、合掌して命に感謝し、両耳から細く炎を入れ脳を焼き殺した。全部を殺すのは気が引けたので、二頭のみにした。その二頭を闇魔法で自分の影の中に押し込んだ。体重が重くなるのを感じる。だが手に持つのも面倒だし、牛みたいなのをここから上空に持ち上げるのは邪魔すぎるので、仕方がない。一度街に向かって最低限の調理器具を拝借した後、先程と同様に上空へジャンプし、女性たちを残した場所へ向かった。
「なぁ〜んて便利なの?魔法。こりゃ仕方ねぇよ、誰も現代に戻らないわけだ。」