第1話「神・混沌・依頼」
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第1話「神・混沌・依頼」
「はぁ…。」
マサキはそっと本を閉じる。目の前には同じようなジャンルの本が積み上げられ、視界の妨げにすらなっている。
「どうしてこうも、主人公最強なお話が多いのか…。」
世の中にあるラノベのほとんどは、主人公が何かしら抜きん出た才能を所持し、ハーレムを築くと言ったありふれた話が多い。
そしてその勢いはとどまることを知らない。きっとそれは日本の多くの民がそれを羨み、望むからであろう。その羨望を空想上の物語で進行させ、落ち着かせているわけだ。
一番ムカつくのが、常に美少女をはべらせている点だ。
モテるのはいつも主人公のみ。街を歩くと羨む視線でいっぱい、的な描写もしてある、喧嘩売ってんのか?この野郎。
そうしたイライラをまた蓄積させ、それら全てを本棚にしまった。ちなみに全部自分が購入した本である。
まだ家族は俺しか起きていない。あたりは暗く、冬の寒さがみにしみる。
居間に降りココアを入れた後、中華鍋を使用し料理を作る。
別に料理が得意ってわけでもないが、アルバイトで中華鍋しか使わないので慣れるために、だ。
小さめの丼に水餃子と混ぜた酸辣湯を作り、メンマとキュウリを胡椒の効いたタレで和える。
ココアに中華料理、和え物と混沌無形な食卓の完成だ。我ながら、絶対ココアと合わないと確信している。
さぁ、食べようか。両手を合わせ、目を瞑り、俯き加減に合掌の構えを取る。
「いただきます。」
目を開けると、そこにはおっさんがいた。
「…。」
「…。」
お互いはしばらく見つめ合う。というかこのおっさん誰だよ。勘違いしないでいただきたいが、俺のオヤジではない。オヤジはもっと若い。
「まぁまぁおっさん、ココア入れてやるから待ってなよ。外寒かったろ?」
容態からホームレスと察した。つかホームレスだとしてもいきなり食卓に現れるとか犯罪だし、ってか普通に怖い、このおっさん恐怖。
そう言ってココアを注ぎ、渡す。おっさんは素直にそれを受け取って飲んだ。
「うまい…。」
「はっ、そりゃよかった。んでどうしたんだおっさん?なんで不法侵入なんかしちまったんだ?」
挑発的な目でおっさんをみる。
「なぁに、心配には及ばんよ。儂の捕獲、否、捕縛、捕捉は不可能であるからな。」
「そうか、逃げ足には自信があるのか。」
「違うんじゃよ、そもそも、儂を感知できんのじゃよ。」
「ほぉ、そりゃ興味深い。俺だけが感知できるおっさんってか?飛んだ呪いだぜ、カカッ!」
笑って見せたものの、このおっさんは確実にやばい。何がやばいって?こいつ、さっきから呼吸をしていないのだ。透明なガラスに入れられたココア、飲む際には息を吐いたのちに、すするようにしなければ飲むことは叶わない。なのにコイツは、入れたてで70度近くはあろうココアをすすらず、流し込んだのだ。当然のごとく、ココアには小さな波ひとつたっていない。つまりは、鼻息すらしていない。
「なぁおっさん、名乗ったらどうだ?何者なんだよ?」
「儂か?そうじゃのぉ…。君らでいうとこの、神じゃよ。」
「ほー。面白い冗談じゃねぇか。…次ふざけたら首に異物が刺さると思え。こちとりゃ大事な朝食の時間をぶち壊されてんだ…いっぺん死ぬか?」
俺は出せる限りのハッタリを投げかけた。俺にはおっさんの首にナイフを突き立てることなんてできないし、したとしてもこのおっさんには敵わないだろう。俺の中に、このおっさんはやばいという信号が出ていたからこその言動だった。
「クククッ、威勢がいいのぉ。それでこそ君じゃよ。じゃがさっきも言ったように、儂は神だ。神である儂を神と呼ばず、何を神とする?」
おっさんは初めて笑みを浮かべ、そう言ってきた。おそらく本当に神なのだろう。俺は宣言したような行動は取らなかった、否、取らなかった。単純に勝てないと悟ったからだ。
「物分かりのいい奴じゃ、ますます気に入ったわい。ちと御主に頼みごとがあってのぉ。」
「頼みごと?言っとくが、俺にできることなんてエロ本買いに行くぐらいしかできねぇと思うぞ。」
「何を言うか、御主は類稀なる才能がある。誰にも真似できない才能が。」
「はっ、どっかのラノベじゃあるまいし、俺には何もできねぇよ、俺が言うんだからな。」
「最強の主人公を、恨み妬み嫌うことができる。」
俺の食事の手が止まった。意図したことではない、その言葉に純粋におどろいたのだ。なんで知っている、と。だが、そんな心配もいらないだろう、コイツはおそらく本当に神なのだから。
「なるほどな。何か行動に現れるものではなく、思想をも才能と称することができるのか。」
「当たり前じゃろう。考え方一つにとっても、御主にしかなせん考え方じゃ。それを才能と言わずして何という。クククッ」
「そりゃそうだ、いい知恵になったぜ。んで?それがどうしたってんだ?たしかに俺はそう言った奴らが嫌いだが?」
「なぁに、単純じゃよ、そいつらをグチャグチャにして欲しいんじゃ。」