選択者
ある賭場での話だ。初対面のある3人は一つの小さな部屋に入り、所定の椅子に座った。
『では、手元にあるカードを見てください』
そのアナウンスを聞いた3人はカードを裏返す。
カードに書かれている内容を把握した全員が顔をこわばらせた。
『それではゲームを開始します』
3人の中で唯一の女性である工藤のカードには【あなたが『選択者』に選ばれた場合、賞金5億円。選ばれなかった場合、即処刑】と書かれていた。
(どうしよう)
工藤は悩んだ。2人のどちらかが選択者であるはずだが、もう一方も自分のような内容だろう。選択者に媚を売るしかない。そう決意する。
2人いる男性の一方である園原のカードにも工藤と同じことが書かれていた。
園原は工藤と違い、選択者にもなんらかのリスクがあると考える。そして、思いついたのが『選択者とバレたら死刑』だ。そうなると、選択者は絶対に名乗り出ない。それを逆手に取ろうと考えた。
「では、話し合いをしましょう」
田中が人差し指でメガネを上げながら言った。
「俺は選択者が誰か知っている」
園原が先に叫んだ。すると、工藤が問う。
「えっ!? もしかして田中さんですか?」
「えっ、う、うん。そうだと思うぞ。どうなんだよ」
工藤と園原は田中に目をやった。田中は黙り込んだまま顔を伏せる。
「おい、おまえが選択者だとしたら俺を選択しろよ。そうでなければおまえは死ぬことになる」
「いいえ、彼は嘘をついている。私を選択してくれたら1億あげますので、私を選択してください」
お互いが言いたいことを言い終えた瞬間、ゲーム終了のアナウンスが鳴った。
『では、選択者の方は誰か選んでください』
部屋中に心臓の音と緊張感が立ち込み、工藤と園原は汗が凄い。
「私は............自分を選びます」
「は?」
「は?」
田中の言葉に愕然とする両者。
理解出来ていない2人に田中が解説する。
「命よりもお金を大切にする人は死んでもらいます」
そう言ってパチンと指を鳴らした。すると、工藤と園原が座っていた椅子の下が勢いよく開く。そのまま椅子と一緒に暗い闇の奥底へ落ちて行った。