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2人の皇帝の成功と豹変

西暦14年、ティベリウスは初代ローマ皇帝オクタウィアヌス・アウグストゥスの遺言を受けて第2代皇帝に着任した。


ガリアからローマに帰ったティベリウスに早速問題が降りかかる。ガリアで守備隊が待遇改善を求めてストライキを起こし始めたのだ。


この問題解決の現場監督にティベリウスは実の子である小ドルススと養子でガリア総督のゲルマニクスを当たらせた。


血が流れることがありながらもなんとか解決させたティベリウスは満期除隊の徹底を兵に約束した。


さらに国家財政の危機や属州監督の不正、属州諸都市の生活水準の低さに気づいたティベリウスは皇帝主催の戦車競技会や剣闘士による試合や一時期は50万を数えた現役兵士の削減、首都ローマのインフラは現状維持に留める代わりに属州のインフラ整備や産業投資を行う政策に着手した。


この政策は当初ローマ市民や元老院からの反発があったがガリア総督時代からの口癖である「強い国は強い民から」という言葉が彼を後押しした。


また彼は人材登用の才能にも優れており、出身や身分の関係無く有能な人材を登用しており、これにより彼の治世からローマ帝国は色々な人種によって運営される真の世界帝国へと変貌していったのである。


結果的にアフリカ属州の生活水準はティベリウス治世以前の3倍に跳ね上がり、他の属州でもかなりの改善が見られた。それによって税収も増え、皇帝主催のイベントを開催する余裕もできていった。


軍事手腕においても優れていたティベリウスはパルティアとの抗争に勝利し、シリアの支配を進めた。


しかしこのティベリウスでも侵攻できない地域があった。ゲルマニアだ。


ゲルマニア侵攻の準備を命じられたゲルマニクスはまず工作員を駆使してゲルマニア諸部族の分裂を起こそうと試みた。


ゲルマニクスは親ローマの立場を取っていたマルコマンニ族や北海沿岸のインガエウォネース族との結びつきを強化するなどしてゲルマニア侵攻の準備を行なった。


ローマ側についたマルコマンニ族はゲルマニア随一の有力部族であったがガリア諸部族が束になって攻めてもいとも簡単にそれを跳ね返すローマ軍の強さを目の当たりにしていたのだ。


西暦18年にティベリウスはゲルマニア侵攻を開始する。


最初はマルコマンニ族などの力を得て勝利していたローマ軍だが次第に負け始め、ゲルマニア侵攻は結局国境付近の部族の服従に留まり遠征軍の大部分を失って失敗に終わった。


最終的にエルベ川までの進出を諦めたティベリウスはその計画に見切りをつけ、ライン川にかつて自分が築いた防衛戦へと後退した。


その後のティベリウスはアルメニアの王位継承問題や属州発展などの内政に重きを置いていたが病による臨死体験や元老院の不甲斐なさ、23年の息子の暗殺がきっかけとなり暴君と化し、国民の信頼を再び失い始めた。


さらに政敵を親衛隊を使い粛清したティベリウスは恐怖政治を敷き、皇帝の地位を強固なものにする事に成功した。


そして37年、ティベリウスはオクタウィアヌス・アウグストゥスの血縁者であの将軍ゲルマニケスの息子であるカリグラを後継者に選んで77歳でこの世を去った。


先代ティベリウスの不人気もあり、カリグラがローマ入りした時には3ヶ月にもわたって祝賀行事が行われたという。カリグラは就任するやいなやまず全ローマ軍人に賞与を与え、国外追放されていた者を「もはや過去のこと」と言ってよびかえしたりした。軍事的にはブリタニア内陸部への遠征も行うなど帝国民の心を鷲掴みにした。


紀元38年5月、カリグラは自らプラエトラエ2個大隊約1,000人を加えた4個軍団約2万5,500人を率いてローマを出発した。途中ロンディニウムに駐留したカリグラは早くからこの都市の重要性に気づくことになる。


2週間後……


「放てぇ!!!」


隊長の大きな号令と同時に合計5基のカタパルトから一斉に砲弾が発射された。

綺麗な放物線を描きながら最後には城壁を破壊するその砲弾を見ていた1人の軍団兵は武者震いした。


右手に持った2本のピルムをしっかりと握りしめる。


「前進ーーっ!!!」


大隊が1つのブロックとしてジョギング程度の速度で走り始める。

遅い走りで歩調を合わせると次の号令が下される。


亀甲隊形テステュードー!!」


これこそがローマ軍のお家芸とも言えるものだった。

お互いに密着しまさに亀の甲羅のごとく盾を組み合わせることで前と上からの矢などの飛来物を無効化する。


これには団結力と訓練が必要で、このようなことをできるのはローマ軍くらいしかいない。


1人の軍団兵はその亀甲隊形の一員として少しずつ、少しずつ城壁に近づいて行った。


「来るぞーっ!」


亀甲隊形の先頭の兵士が叫んだ。

ローマ軍の亀甲隊形はその盾の形状から先頭の兵士だけが目を覗かせることができるようになっていた。


少ししてストン、ストンという周りの地面に矢が刺さる音の後にガン、ガンという亀甲隊形の盾に矢が刺さる音が聞こえてくる。

ガン…ガン…ガンザシュ!

何か違う音がしたと思った瞬間隣の戦友が苦しみの叫び声をあげた。見ると矢が盾を貫通し、腕に刺さっていた。ポタポタと血が垂れていく。


「大丈夫かっ!?」


「あぁ…あぁクソ野蛮人め!今に見ていろ…」


角笛の音がする。この音は…停止の合図だ。


「ぜんたーい、止まれっ!」


隊長の号令とともに亀甲隊形全体が止まった。

次の瞬間敵集落の方面から悲鳴が聞こえた。おそらく弓隊の矢の雨が降り注いだのだろう。矢の一斉射の次は歩兵隊による突撃…それが常だった。


「突撃ぃーっ!」


一斉に軍団兵が突撃し始める。この際にローマ軍は雄叫びをあげることはなかった。無言で突撃してくる精鋭の重装歩兵ほど恐怖を煽るものはない。勢いそのままに集落の中に進入して再び陣形を整えた。


最後までこちらに矢を放っていた敵の弓兵も一斉に逃走し始める。そのかわり剣や槍と盾を手にした敵の戦士が前に出てきた。


「ピラぁ!」


1本目のピルムを用意する。


「放てぇ!」


号令とともに思いっきりピルムを投げた。投げたピルムは綺麗な放物線を描いて敵兵士の盾に突き刺さった。


「よしっ!」


ピルムの刺さった盾は重すぎて使い物にならない。つまり捨てなければならないのだ。


「ピラぁ!」


2本目…


「放てぇ!」


今度は外れた。しかし味方が放った何本かは敵に命中した。


「盾の壁を形成しろっ!」


その号令が下ると軍団兵は一斉に盾を構えて剣を抜き構える。敵は無隊形で突っ込んでくる…

思わず前の軍団兵の背中の綱を強く握った。ローマ軍団兵が隊形を崩さないために防具の背中につけていた綱になるものは密集隊形の後続の軍団兵が握る。ローマ軍団兵の命綱とも言えるものだった。


敵兵が一斉に密集隊形にぶつかりその衝撃が隊形の後ろの方まで届くと同時に怒号と人体に剣の刺さる音、鈍い打撃音が一斉に起こった。


鮮血の匂いが出てくる


百人隊長ケントゥリオが笛を鳴らす。


2個前にいた軍団兵が自分の前の軍団兵と変わった。すでに兜には返り血が付いていた。


前の軍団兵が突っ込んできた敵兵を盾で突きかえすと鈍い打撃音がして敵兵が仰け反って倒れた。

するとその敵兵にとどめを刺そうと前かがみになった前の軍団兵めがけて剣をつきたてようとする敵兵が後ろから現れた。


「危ない!」


そう叫ぶと同時に思いっきりその敵兵の腹めがけて自分の盾を突き出した。

前の軍団兵の頭の上を通過した自分の盾は骨が折れる感覚とともに相手の肋骨を突いていた……


この集落の首長のような人物がプラエトリアニによって引きずり出されてきた。防具も外され傷だらけになっている。

軍団兵が鬨の声をあげる中その人物は皇帝カリグラの元へ連行されていった。降伏の条件、それは首長の命と引き換えに集落の人々の命を保証するというものだった。

微笑を浮かべた皇帝はプラエトリアニに彼を解放させ、体を洗わせ、自らのテントに招いた。この逸話は帝国中に広まり、以前にも増して皇帝の人気は上がることになった。

結局話し合いの結果反乱を防ぐために集落民はコルドゥバに集団移住させられ、集落の長と少数の元戦士はローマへ凱旋行進のため連行されることとなった。


ブリタニア侵攻から帰ったカリグラはエジプトにおける大規模な農業インルフラ工事を決行、ナイル川の氾濫をさらにコントロールした農業の実現を目指した。しかし起工して間もない38年、カリグラは病に倒れる。症状はどんどん悪化し、カリグラは臨死体験すらするようになった。やがて病床から復活した彼はすでに以前の彼ではなくなっていた。


「皇帝のためなら命を捧げても良い」と言って忠誠心を示していた配下を「約束を守ってもらおう」と言って処刑し、執政時にも臣下に対して人間不信になるなど暴君と化していった。狂気の矛先はやがて家族にも向けられるようになり、義父のマルクス・シラヌスが自殺に追い込まれてしまうなどした。


カリグラの恐怖政治に危機感を感じた市民とプラエトリアニによって皇帝は次第に支持を失い、遂に48年にプラエトリアニに暗殺される。





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