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ゲルマニア遠征失敗!?アウグゥストゥスの死

「敵襲ーっ!」


ヒュン、ヒュンという音とともに矢の雨が四方から降ってくる。真夜中、矢もよく見えない。もうこれで4回目だ…


ウァルス将軍は絶望的な状況に追い込まれていた。忠実な参謀の一人に裏切られ、行軍中のローマ軍の周辺偵察用の騎馬隊がいなくなり丸裸になった状態の3個軍団約2万人に向かってゲルマン連合軍による執拗な攻撃が続いていた。


湿地のため足を取られ、深い森の中からは容赦なく矢の雨が降り、夜襲をかけられる。


それでも、ローマ兵は一歩も引かなかった。


盾を貫通し顔面に刺さった矢を抜こうとする者、仲間が目の前で死んだのを見て恐れおののく者、気をおかしくして笑い始める者……


……立ち込める鮮血と鉄の匂い、雨あられと降る矢、ゲルマン人の雄叫び……


「もはやこれまでか……」


一本の矢がウァルス将軍の腹部に突き刺さったのはこの直後だった。




「殿下!!大変です!!」


※プラエトラエの一人が走ってオクタウィアヌスの元に来た。


「どうした、朝から。暴動か?」


プラエトラエは兜を脱いで脇に抱えたまま跪いて言う。


「いえ、ウァルス将軍が……ウァルス将軍率いるゲルマン討伐軍が……」


オクタウィアヌスは背中に冷たいものが走るのを感じた。まさか……

プラエトラエは続ける。


「ゲルマン討伐軍がトイトブルクという森で奇襲され全滅……ウァルス将軍も自決されました……」


目の前がぐらりとした。そんな…まさか…


ウァルス将軍はライン方面軍の総司令官であった。その司令官と軍隊が同時に消滅したとなるとローマ軍を殲滅して勢いづいたゲルマン人が一気にガリアになだれ込むことになる。


「ウァルスよ、我の軍団を返せ!!」


オクタウィアヌは思わずそう叫んでいた。早急に対策が必要だった。


「ティベリウス!」


気付くとすぐ隣に控えていたティベリウスに向かって叫んでいた。


「はっ!」


「お前の軍団を率いてすぐにガリアに出発しろ!ライン川まで防衛戦を後退させる!」


「承知!」


翌週ティベリウスはローマを3個軍団を率いて出来る限りの強行軍でライン川沿岸の大都市アグリッピナに向かった。


同時にライン川沿岸の属州総督に城壁の建設を命令する。


翌週、ティベリウスがガリア入りするとすでに防衛戦を突破された箇所があるという。非常にまずかった。これでガリア全体がローマへの反逆の気運が高まってしまう。


ティベリウスはまずライン川沿いに一大防壁を作り上げ、軍資金で食料を大量に買ってそれをゲルマン人の略奪を受けた集落の人々に配って復興を援助した。


「強い国づくりは豊かな民から」


それが彼の口癖だったそうだ。そしてその方針は今後のローマ帝国に大きな影響を及ぼすことになる。


ティベリウスのガリアにおける統治成功に感心したオクタウィアヌスはアグリッピナとともに未完成だったナイル川上流方面への遠征を開始する。


彼の率いる軍団はネアポリスより出発しアレクサンドリアに上陸したのちそこの募兵場にてアフリカ人弓兵を主力とした部隊を招集して南下を開始した。


途中アンティノウポリスやプトレマイイスなどの都市に立ち寄ったオクタウィアヌスはこの2都市から補給を受け、さらに軍を二手に分けて一方の軍を重臣のグナエネスに任せて紅海の海岸線の都市を攻めさせた。そして自らはアグリッピナと共にさらにナイル川を上り、最終的にパセルキスという都市にまで至り進軍を止めた。一方グナエネスの軍団はベレナイスなどの貿易都市を占拠し、帝国に新たな収入源をもたらした。


ローマに戻った彼はこれ以上の征服戦争は彼の治世は起こさないと決め、大帝国となったローマの首都を比類なき素晴らしいものにするため芸術と内政に心血を注ぐことになる。


その結果文化面ではラテン文学や平和を記念した祭壇「アラ・パキス」をはじめとするギリシャから取り入れた大理石の芸術を数々残した。


内政面では史上初となる退役軍人に対する年金制度を制定し、紀元前18年にはユリウス姦通罪・婚外交渉罪法などの法律を制定してローマ帝国民の道徳の向上にも着手する。


さらに64歳になったオクタウィアヌスは後継者問題に取り組み始め、悩みに悩んだ末に養子でゲルマニアとの戦いで大きな活躍をし、政治手腕も優れていたティベリウスを後継者とし、代わりにその養子のゲルマニクスをガリア総督とすることを決めた。



西暦14年、胃腸を患っていたガイウス・ユリウス・カエサル・オクタウィアヌス・アウグストゥスは40年間の帝位を全うし、ポンペイ近郊の町で76年の人生を閉じることになる。


「私がこの人生の喜劇で自分の役を最後までうまく演じたとは思わないか」


彼は友人にそう尋ねたあと最後にこう呟いたという。


「この芝居がお気に召したのなら、どうか拍手喝采を」




彼はその死後アウグストゥス廟に埋葬された上神格化された。「瓦礫のローマを受け継いで大理石のローマを遺した」後世のものからはこう唄われ永遠に評価されることとなる。




※プラエトラエ……オクタウィアヌスが創設した皇帝直轄のいわばボディーガード。帝国随一の精鋭部隊で、各戦線の軍団の中からの選りすぐりであった。

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