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大征服開始!

船がぶつかり合う音、兵士の怒号、悲鳴、いろいろな音が交差する中で1人のローマ軍兵士であるデギムスは身を構えた。まさに船がぶつかる時だった。


ローマ海軍の戦術は相手の船の横っ腹めがけて高速で接近し、船頭についている金属の突起を使って体当たりし、相手の船に大きな穴を開けるというもの。その後弓矢や投げ槍を使って戦う。時には敵船に乗り込み白兵戦を行うこともある。


バキバキという音とともに激しい衝撃が彼を襲った。


左手には予備の槍、右手にはこれから投げる槍を持っていた彼は司令官の号令とともに思いっきり敵船に向かって右手の槍を放った。


彼の放った槍は放物線を描いてちょうどしゃがんだ状態から立ち上がるところだった敵の兵士に命中した。


「よしっ!」


そう思うのもつかの間、次は敵の船の弓兵が一斉に立ち上がり矢を放って来た。


危ない!そう思って身をかがめた瞬間頭の上をヒュンという音を立てて矢が通り過ぎた。


「あぶねーなー」


そう言って隣にいた戦友と苦笑する。


そして矢の報復にまた槍を投げようとその戦友が立ち上がった瞬間彼の左目に敵の矢がドスッという音を立てて突き刺さった。


力なく崩れる戦友を見た衝撃がすぐさま怒りに変わる。


「この野郎!」


デギムスは立ち上がり弓兵に向かって槍を投げるとすぐに屈もうとする。突然彼の頭にカーンという衝撃が加わった。何かなと思うと鉄の兜に矢を跳ね返したまっすぐな傷ができていた……




ブリガンティウムを包囲していたオクタウィアヌスらの元に1人の※百人隊長が走って来た。そしてどうしたのかと聞く参謀やオクタウィアヌスに向かって息を切らしながら報告した。


「セクストゥス様率いる艦隊が敵艦隊を打ち破りました!」


大勝利だった。敵側は船のほとんど半分を失い、ローマ側は2隻を失うに過ぎなかった。


アッピウスはこの報告を聞くとすぐさまオクタウィアヌスに城市への攻撃を進言した。オクタウィアヌスがそれを快く受け入れるとローマ軍は攻城戦の準備にかかった。


4日後、巨大な攻城砦3つを従えて全軍が行軍を開始したローマ軍を見て敵側は腰を抜かし、城内の部族全員が降伏する。


オクタウィアヌスは降伏の使者に人を部族ごとに集め、武器を一箇所に集めることを要求する。


それが終わるとオクタウィアヌスらは捕らえた先住民の大部分を奴隷としたが、赤子とその母親だけは自由民とした。


その後セクストゥスとも合流したオクタウィアヌスの6個軍団はヒスパニア北部を蹂躙し、カストラを含めた5つの都市を占領する。


それらで得られた奴隷の大部分は属州の農園などで働く農奴となってもらうが、体つきのいい、屈強な男には剣闘士学校や三段櫂船(ガレー船)の漕ぎ手となってもらう。罪人でない限り三段櫂船の漕ぎ手は10年間役目を全うすると自由民となれるのであった。


オクタウィアヌスは占領した城市は略奪し、兵士に富を分け、そこにローマ人を移住させローマ風の都市を建設させる(つまり属州化する)。そうすることでより人口が増え、結果的に帝国の発展につながる。


オクタウィアヌスはその勢いで2年をかけてガリア、さらに2年でアルプス以北の西はラエティア(イタリアの真上)から東はモエシア=インフェリオール(現在のルーマニア南部)に当たるまでの広大な領域を属州化する。


属州化を進めたオクタウィアヌスは首都ローマの整備にも取り掛かる。街を拡大し、ローマ中心部を14に分けた行政区画とし、それぞれの行政機関の独立を進めた。


オクタウィアヌスは次に他国との交易に着目する。実はローマと他国との交易はすでに活発に行われていたが、それを利用して国家にさらなる利益をもたらすことができないかと考えた。


そのためヒスパニアやガリア各地を回って得た船の知識を活用させて商船の丈夫な商船の開発に取り掛からせた。


まず、商船は軍艦と違い機動力は必要ない。その代わり航続性がかなり大事となる。そのため帆船とし、船の高さと横の幅を広げて荷物の積載量を増やす。こうしてできた船はその技術の多くをガリアより入手したためにガリア船と名付けられた。


これをオクタウィアヌスは新たにネアポリスに建設したものやヒスパニアのフェシリタス=ルリアのものも含めたローマ全土8箇所に建設した国営の造船所で製造し、これまた国営の交易会社を建てて交易を行うことにした。


さらにオクタウィアヌスはさらなる国土拡大を試みた。それはエジプトをはじめとするアフリカ属州の拡大である。現在ローマはカルタゴとキレネ、アレクサンドリアの周辺しか属州化に成功していない状況で、それをさらに広げようということである。


それら3年かかったローマの改編が終わるとその次の年にイタリアで3個軍団を募集し、イタリアのプュテオリからアフリカのカルタゴへ出発した。


ポエニ戦争終結の時から属州であるカルタゴはもっともローマ化が進んでいる属州のひとつであり、今回オクタウィアヌスが属州化を図っているのはカルタゴの南部のランバエシスという都市とその勢力圏であった。


ローマはその地域をルミディアと呼び、アエジプトゥス(エジプトとナイル川流域)とマウレタニア=ティンジタニア(モロッコ・アルジェリア北部)にと並んでアフリカの最重要地として認識していた。カルタゴの周辺には石灰岩や花崗岩などの資源も豊富で、植民市も多く存在していた。


そして1ヶ月後、総勢2万人近いローマ兵を目の前にランバエシスは戦わずして降伏。勢いに乗ったオクタウィアヌスはさらに南下する。




「放てぇっ!」


隊長のその号令とともに兵士たちは一斉に※ピルムを投げる。投げ槍であるこのピルムはローマ歩兵が陸上戦を行うに際して必要不可欠なものだった。


目前まで迫った敵に降りかかるピラはあるものは敵兵に刺さり、その他の大部分は敵の盾に突き刺さり先端からぐにゃりと曲がる。


盾を捨てざるを得ない敵は盾を捨ててものすごい形相で突っ込んでくる。


隊長の笛と「ピラぁっ!」という合図で2本目を構える。


「放てぇっ!」


再び雨あられと盾無しの敵に降りかかったピラは敵に甚大な被害を与える。

……それでも敵は止まらない。


「構えっ!」


隊長が叫ぶと6列ある密集陣形の先頭の者が一斉に※短剣を抜き盾を構える。


ローマ兵の1人が唾を飲み込んだ。彼の目の前で敵が高く跳躍してその勢いで手に持っている斧を振り下ろそうとするとローマ兵は盾を上に持ち上げ、上に乗っかる形となった彼をそのまま後ろに投げる。


後ろには次の自分の順番を今か今かと待っているローマ兵が引き締め合っていた。その中に投げ込まれたのだから助かるはずがない。


ローマ兵は次に来た敵の第一撃を盾で受け止め、そのまま盾を敵の足に思いっきり突き立てる。


鈍い音がして敵がうずくまる。そこを敵の喉めがけて短剣を突き刺す。ザクっ!という感触があり、返り血を少し浴びた。


再び盾を構えて次の敵に備える。



…その戦いはローマ軍の圧勝に終わる。ヴェスケラとタブディウムを征服したオクタウィアヌスは腹心のティベリウスにエジプト南部・ナイル川流域の征服を任せて自身はランバエシスに戻り、征服地の復興に取り掛かった。


ローマ人入植者を集い、道路を整備し、募兵所を建設する。


ローマは各属州の地域には募兵所を建設し、その地域の軍隊がローマに征服される以前長けていた分野の兵種を募集することが多々あった。アフリカだとゾウ部隊や弓兵が募兵されることが多かった。


その後ルキウスという最も信頼を置いている家臣の1人にヌミディア支配を託し、ローマに戻ったオクタウィアヌスはガリア総督のウァルス将軍にゲルマニア征服を支持する。


当時ローマはゲルマニア諸部族に対して朝貢を指示するだけで直接的な支配はしていなかったが部族の1つが反乱を起こしたのでオクタウィアヌスはこれを機にエルベ川以西のゲルマニアを属州化しようと考えたのである。


そして後9年、ウァルス将軍はゲルマニアに進軍することになる。そして彼の前に立ちはだかるの沼地と森林、現地の人々はこの地域をトイトブルクの森と呼ぶらしい……





※百人隊長……文字通り約100人のローマ兵を統括する士官。部下の軍団兵を指揮しながら最前線で戦ったため非常に勇敢な人々で、死亡率も高かった。


※ピルム……ローマ軍団兵が用いた投げ槍。標的に刺さった時に槍先がぐにゃりと曲がる設計を持ち、敵が投げ返せないようになっていた。軍団兵は通常これを2本所持していた。複数形はピラ。


※短剣と盾……ローマ軍団兵が用いたのはグラディウスという短剣とスクトゥムという長方形または楕円形の盾。ローマ軍はこのスクトゥムを用いた集団戦術に長けていた。






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