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机と椅子の謎(前編)

「こんにちはー」

 ある日の開店直後、やってきたのはこないだなぞなぞを解いてもらった男性だった。違うのは小学生くらいの少年を連れていたことだ。コーヒー店のノート事件を解決して以来、この屋台の人気はうなぎのぼりで、開店直後か閉店直前でないと人がいない状況になるほどだった。あの宣伝も効いているのだろう。そして、おそらくこんなに早くに男性が来ることになったのもそのせいだ。

「おう、どうした若いの」

 俺はそう質問する。

「俺とこいつにラーメンを。で、今日はこの子の相談に乗ってほしいんだ」

「相談……ということは」

 食器を洗っていたカリンが奥から出てくる。

「そうだ。今日は君の望んでいた謎を持ってきたんだ」

「ほう、それはどういうことなんですか?」

 カリンは男の子に聞く。

「……兄ちゃん、本当にこの人に任せて大丈夫なの?」

「いいから話してみろって」

 どうやら半信半疑の状態で男の子は連れてこられたらしい。

「で、いったいどうしたんですか?」

「……実は」



「なるほど。それは不思議な事件ですね」

 どうやら話をまとめるに、いつも一番早くに学校に来る男の子が登校して教室を見ると、どこかしらの椅子が机の上に乗せられているらしい。しかも数も場所もばらばらで、犯人の目的も全く分からないということのようだ。

「教室はどんな感じで机が配置されてるんですか?」

「6×6の机の配置らしい。36人クラスなんだって」

「ふむ。確かによく分かりませんね」

 さすがのカリンでも情報が少なすぎてこれでは謎は解けないようだ。

「それで、いちおうこいつも気になってどの机に椅子が乗せられてたのかきちんとメモしてきたらしいんだ」

 男性はそのメモをカリンに見せる。

「なるほど、初日は左から2列目の前から2番目の席ですね」

「2日目は左から3列目の一番前の席と左から4列目の前から2番目の席だな」

 こういった調子で図に示していくと、次のようになった。



○○●○○○

○●○○○●

○○○●●●

○○●○●●

○●○○●●

○○●●○○


「……何ですかねこれ?」

 椅子が上がっているところが黒、そうでないところが白で示してある。

「補足しとくと、最初の日は一番左と左から2列目、次の日は左から3列目と左から4列目、その次は一番右と右から2番目の前から3つ目までの机しか使われてなくて、次の2日と月曜日は一番左と左から2番目、次の日は左から3番目と左から4番目、その次は一番右と右から2番目の後ろの机しか使われてなかったらしい」

「つまり、椅子を乗せる机は決めていたってことなんですね」

「たぶんそうなるな。あと気になるのは一番左の列の机が1度も使われてないことか」

 男性は新たな注目点を示した。

「この辺が分かると、この謎も解けそうなんだけどな」

「へいお待ち」

 全員が行き詰まってしまったところに俺はラーメンを差し出す。何かに悩んでしまった時は気分転換するのが一番だ。

「とりあえず食べながら考えるか」

「……うん」

 少年は落ち込みながらラーメンを口に運び始めた。

「そんなに落ち込んでるといつも遊んでる子も不安になるぞ。あの子目が見えないんだろ? お前の声だけでしか判断できないのにそんな調子じゃ心配するぞ」

 男性はそう言って男の子を励ます。

「分かってるけど」

「この子の仲のいい友達なんですか?」

 カリンはそんなことを聞く。

「ああ、仲良しらしくてな。他に女の子も1人いて、3人でよく遊んでるのを見るよ。……そういえば、最近はお前だけ一緒じゃないみたいだけど、何かあったのか?」

「……いや、別に何もないけど」

男の子は言いにくそうに否定する。何かを隠している様子だ。

「なるほど……」

 カリンは納得した様子だ。

「だいたい事情は分かりました。でも、この問題を私が解くわけにはいきませんね」

「カリン?」

 カリンがそんなことを言うのは初めてだった。俺は思わず聞き返してしまう。

「でたらめ言うな! 本当は分かってないんだろ! 分かってないのに分かったふりしてるだけなんだろ!」

 少年は案の定怒り出す。当然と言えば当然だ。相談を丸投げされたようなものなのだから。

「あなたが辿り着けなかった、というよりも辿り着こうとしていないところまで私は理解したつもりですよ?」

 だが、カリンは自信たっぷりにこう言う。どうやらはったりではないようだ。

「……だったら言ってみろよ」

 ばつの悪そうな顔をしながら男の子は言う。

「いいんですか? これはあなたの大切な友達からのメッセージですよ?」

「……メッセージ?」

 男の子は不思議そうな顔をする。ただ、それは全く分かっていないというよりなぜこの女性がそこまで読み取ったのかという方の疑問に見えた。

「はい。私が解くよりもあなたが解いたほうがきっとその2人は喜ぶはずです。ヒントだったらあげてもいいですけどどうします?」

「……いい。自分で解く」

 男の子は立ち上がって屋台を出ていく。

「お、おいラーメンは?」

「大丈夫です。たぶんあの子も気付いたんだと思いますから」

 カリンはそう言うと、俺と男性の方に向き直った。

「それじゃ、私たちは答え合わせと行きましょうか」

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