アーシュ10歳3の月ナッシュ荷物持ちとして
今日2話目です。
「スライムダンジョンは初めてだからな、スライムが多い時もあるし、とにかく自分の身は自分で守れよ。あと4日したら一緒に行けるのにな」
「セロ、気を付けるよ」
「マルもムリしない」
「オレは久しぶりに魔法全開で行くか!」
「ウィル、がんばって!」
「がんばれー」
セロとウィルが、早くから出ていった。私たちは、魔法師待ちだ。来た!
「君、ガガの子、荷物持ちなの?」
え?昨日の人だ。
「はい、今日は初めてスライムダンジョンに入るので、知り合いの魔法師さんと行くことに」
「僕たちと行くよ」
え?
「ちょっと待て、その子はオレ達が」
「この子たちの勉強のためでしょ。僕らのほうが強い。役に立つ」
「そ、それは……」
「行くよ」
魔法師さん!どうしよう……え?ムリ?一緒にいけ?相手は6人パーティだ。荷物持ちは必要ないはずだ。けど……
「マル?」
「うん!」
「「行きます!」」
「よし。雑魚は見ない。最短でかけ降りる。魔石は拾えるものだけ拾え。ついて来い!」
そこからは付いていくのに必死だった。メリルのスライムとは違う、大きな、様々な色のスライムが、現れた途端に魔法で倒され、消えて行く。しかし私たちもだてに訓練をしていない。後ろについていきながら、効率よく魔石を拾うやり方を工夫した。また、次第に戦いを見る余裕も出てきた。6人のうち、魔法師は3人。剣士3人は不意打ちのための護衛か。魔法は多彩だった。究極を言えば、スライムなど強い炎があれば大抵は倒せる。しかし魔法の相性があり、その無駄のない判断と魔法の効率的な使用、そして魔法師のローテーションは、長時間の戦いを覚悟するもののやり方だ。これがダンジョンの深層を潜るものか。
午前中駆け抜けて、あっという間に10階まで来ていた。
「さて、休憩しようか」
ここからがお茶入れ荷物持ちの仕事だが……
「あの、お昼ですが」
「よくついてきたよね、お昼食べなよ」
「はい、あの、魔法師さんとの契約では、お昼に有料ですが、お茶を出すことになっていたんです。ジュストさんとは取り決めないまま来たので……」
「お茶は入れてくれたら嬉しいけど、疲れてないの?」
「疲れてますけど、戦ってないし、普通ですよ」
「じゃあさ、何入れられる?」
「うーん、庶民のお茶、甘いお茶、ガガ、スープですね」
「待って、ガガ?スープ?お休み1時間くらいだよ?」
「できますよ」
「じゃあ、スープとガガを全員分」
「はい。マル?」
お湯を持ってきているので、すぐに入れられる。だいたいスープは特製のアレだ。まずスープを出し、その後にガガを入れる。合間にお昼もかじる。
「うまい。なんだこれ」
「なんだ、普段飲んでるスープよりうまい」
「西ギルドの朝飯に似てるな」
「ガガにはお砂糖とコミルはいりますかー」
「いる!」
「いらない」
「砂糖だけ」
「はいはい」
「もう少し休みますか」
「そうだね、あのさ、君たち」
「じゃあ、あれ、隅っこのスライムやってきていいですか」
「え?」
「だめでしょうか」
「いいけど、あれスライムじゃなくて」
「マル」
「うん!こっちの大きいの1匹やる」
「じゃあ、私はこっち。大きいな、よし、炎、2、行け!」
シュン!
「炎1でもよかったかな、次、炎、強め、1、行け!」
ジュ!
「炎2のほうが魔力の消耗が少ないな、次、水、圧縮、2、行け!」
パンパン
「よし、隅っこ終わり。マルは?」
「大きいから手こずったけど、行けた」
「2人で5個だね。魔石大きいな」
「ホントだ!」
「「……ラージスライムなんだけど……」」
「あ、休憩終わりですか」
「あ、ああ、今日は15階まで行ったら、最速で戻る。頑張れよ」
「「はい!」」
本当に最速だった。途中からは色が違うだけでなく、酸を吐くものや毒のあるものなども出てきて、さすがに解説付きで教えてくれた。そんなもの、水魔法があれば平気で拾えますとも。
「そうなの……」
おいてくなんて、もったいない。15階には大きいスライムがいるのだという。危ないから近寄れなかったが、その魔石だけで今日の稼ぎは十分なのだそうだ。すごいね!
そこから帰りは一直線だった。疲れたけれど、変な人ジュストさんは、ちゃんとした冒険者だったし、強い冒険者の戦い方を見ることができて、有意義だったなあ。
「アーシュ君!無事か!ジュスト、お前何してくれてんの!大事なメリルからの預かりものに!」
「いや、普通に荷物持ちとして連れてっただけだけど、いや、普通じゃなかったけどね」
「ギルド長、どうしたんですか?ジュストさん、魔石出してきていいですか、多いから受付で出したいんです」
「ずいぶん拾ってくれたんだね、一緒に行こうか」
「えーと」
ザラザラッと。まだ出る。ザラッと。これアレだ、毒のやつと酸の奴もだ。
「この5つは、私たちのでお願いします」
「……ラージスライム5個……25000ギルです」
「え?いつも1個100くらいですよ?」
「あー、この子たち、うっかりラージスライム倒しちゃったンだよね、間違えただけだから、認めてやってくれない?」
「ええ、ジュストさんがそういうのであれば」
「毒、酸?ラージスライムたくさんに、メイジスライム……100万ギルです」
「はあ?全部拾ってきたの?」
「荷物持ちですから」
「ふっ、ははは!君、ホントに面白いね。やっぱり僕と王都においでよ。クランに入ろうぜ」
「え、いやです」
「なんでさ、クラン『 王都の翼』強いよー。冒険者の憧れだぜ?」
「もうパーティは組んでますから」
「解散しなよ」
「ジュスト!」
「ちぇ、じゃあ、明日からのアタックについて来て」
「荷物持ちは泊りがけはだめ」
「じゃあ、せめてスープ分けてくれない?」
「お湯はわかせますか?」
「コンロ持っていくよ」
「じゃあ、これ、えと、はい」
「こんなに?味が6種類?はあ、何この子たち」
「メリルの子羊たち」
ジュストさんがハッとした。
「東西ギルドの」
「お前さんたちが中央で大きな顔してる間に、冒険者たちの胃と心をつかんだ勇者たちだよ。子羊亭の創設者でもある」
「なんでメイドと荷物持ちやってんの」
「メイドはしてませんよ、ギルド長はお友だちです」
「甘味のな」
「いいな、オレも友だちになって?」
「あー、うーん、スープ、追加注文があったらメリルにどうぞ!」
「振られた!」
ジュストさんは、
「クランは君たちともギルドとも対立してるわけじゃないよ。ただ大きいから中で完結してて、外とはなかなか交流がないだけ。中央でご飯やるなら、協力するし、王都に来たら顔出しなよ。スープも気になるし」
といって次の日ダンジョンに潜っていった。嵐のような人だったな。ナッシュのお試しも、もうすぐ終わる。