アーシュ10歳3の月ナッシュおかしな出会い
今日1話めです。
宿屋は良いところをとってくれていたようだ。ふかふかのベッドというものを、初めて体験した。
「セロ、前回もこうだった?」
「いや、最安のとこだったからな。でも、逆に雑魚寝みたいなとこもないんだよ。最低で3000ギルで、ふたり部屋って感じ。ちゃんとしたとこしかない」
「それだけこのダンジョンが稼げるってことか……」
ある意味放っておかれた私たちは、メルシェと同じようにランチ、レーションともに40用意して販売を始めた。クッキーについては大人の手のひらの3分の1くらいの大きさのものを、1つ100ギルで用意した。ただしお茶の販売で出す。
ランチとレーションの立ち上がりはゆっくりだった。ダンジョンへの入り始めが遅いからだ。それでもやはり足りず、明日は50用意することになった。
さて、お茶の時間だ。
「あったかいお茶はいかがですかー。甘いお茶もありますよー」
「甘いの1つくれ」
「300ギルです、あ、あとこれ試食なんですけど」
といって試食用の小さくしたクッキーを渡す。
「へぇー、クッキーか、ん!」
「まあまあ、落ち着いてお茶も1口どうぞ」
「ん、ふー、うまいな!これ、売ってないのかい」
「こちらに。1つ100ギルで、一週間ほどもちますが」
「5つ!」
「え、俺たちの分も買ってくれよ」
「やだ。1人で全部食べる」
「なんだよー、じゃあ、オレたち3つな」
「ありがとうございますー」
ということで、お茶も合わせてあっという間に完売です。
「明日も作ってくれよ」
「わかりましたー」
「セロの読みが当たったね!」
「ホントに売れたね」
「お茶もついでに売れたな」
「おーい、アーシュ君、今日もガガを入れてくれないか」
「ギルド長がよんでる。今日はパウンドケーキあるんだ!行ってきます!」
「後でな!」
「うん!」
働く人も確保して、メルシェより順調にお試し販売をして一週間、あと3日はダンジョンにもぐることになった。私とマルは、いつもクッキーを買ってくれる魔法師のパーティに、お茶入れ係として連れていってもらえることになった。楽しみだ。明日からダンジョンという日、ギルド長とガガを楽しんでいると、トントンと、ドアを叩く音がする。
「じゃ、私もう行きます」
「残念だが客のようだからな」
ガチャ、
「やあユーグ」
「お前、ジュスト、ルカ、なんで来た!」
「なんで来たも何も、ダンジョンに潜りに来たんだろ」
「大規模の時は連絡入れろっていつも言ってるだろうが!」
「今回は6人の小アタックなんだよ、気分転換にね」
「チッ、しかたない。他の冒険者に迷惑をかけるなよ、さ、アーシュ、もう行きなさい」
「はい、失礼します」
「新しいメイドかい?かわいいね。ところでいいにおいがするんだが」
「錯覚だろう」
「ガガのいいにおいがする。なんでここで飲めるの?君、待って」
「行きなさい」
「君、ガガとお菓子のにおいがする」
「あー」
「僕にも入れてくれない?」
「どうしましょうか」
「しかたない、入れてやってくれるか」
「お菓子も出してね」
なんだろうこのわがままな人は。ちょっとあきれながら、携帯魔力コンロでていねいにガガを入れていく。いいにおいが立ちのぼってくる。
「すまんな、このわがままな大人たちは、王都の大きなクランに入っててな、人数を出して大きなアタックをすることが多いんだが」
「今回は気晴らし」
「そうなんですか」
「へぇー、ガガってこんなふうに入れるんだね」
「はい、どうぞ。お砂糖はどうしますか」
「オレは入れない」
「私は、砂糖もコミルも多めに」
うおう、もう一人がしゃべった!ルカさんだったか。
パウンドケーキの残りを出して、あ、ギルド長がうらめしげに見てる。また作ってあげますから、ね。
「ん、子羊亭よりうまいかも」
「ん」
ルカさんがほほえんだ。
「じゃあ、私はこれで」
「待って、君、僕のところで働かない?ユーグよりお給料ははずむよ。拠点は王都だし、華やかだよ」
「ジュスト!」
「あの、私ギルド長とはお茶友だちなだけなんです。仕事は別にありますので、お気づかいなく」
「それならますます好都合。僕とおいでよ」
「行きません。さようなら」
「え、待って!」
パタン。
「行っちゃったよ。まだ小さいから、おどかしちゃったかな。ねえユーグ、どこの子なの。なんでガガ入れられるの?」
「ダンジョンに来たんだろ。余計な事考えるな」
「しょうがないな。明日1日下見で。明後日から一週間潜ってくる」
「わかった。無茶はしないでくれ、ほかのやつに迷惑だからな」
「普通僕の心配でしょ」
リカルドさんとディーエより変な大人だった。危ない物にはちかづかないのが大切。あと3日、そしたらまたメルシェだ。