アーシュ10歳3の月ナッシュ到着
今日は1話です。
ナッシュまではメルシェから馬車で3日、西に向かうと王都への途中にある。メリルからも3日、シースにもオルドにもつながる中継地点だ。周りは広大な草原が広がり、穀倉地帯となっている。また、スライムしか排出しないダンジョンなので、食肉としてコッカの育成が盛んでもある。
小麦の豊かな緑を眺めながら、私はスライムダンジョンに思いをはせた。
「でもさ、アーシュ、スライムダンジョンは荷物持ちいらないからな、入れないぞ?」
「なんで?」
「だってスライム持って帰らないだろ」
「そんな!」
「もちろん、魔石拾うのさえ面倒がって連れていくやつはいるよ、禁止されてるわけじゃないんだし」
「来年までお預けかー。見てみたかったな」
「マルはスライムは苦手だから、いい」
「でも冒険者になったら、来るよ?」
「その時はその時」
ナッシュにたどりついた。
「うわー!メルシェと同じ集積地なのに、なんか静かだ」
「荷物の受け渡しは、ココじゃなくて街の外れでやってるんだよ。ナッシュで必要のないものも多いからね」
「建物がなんだか豪華というか、街もきれい」
「魔石の産出が多いからね。豊かな街だよ」
「セロ、詳しいね」
「こないだ来たとき調べたんだよ。後で町外れも行ってみる?」
「行く!」
「さあ、とりあえずギルドよ」
「「はーい」」
マリアとニコに連れられて、ギルドに行く。
「すみません、メリルから来たんですが、ギルド長お願いします」
「約束はあるかしら」
「はい」
「少し待ってね……はい、こちらへどうぞ」
「やあ、はじめまして、ランチに来てくれたメリルの子たちだね」
「こんにちは」
「メルシェでの調子はどうだった?」
「順調でした。こちらでもよければ、今日仕入れして明日から始めますが」
「勤勉だねぇ、少しゆっくりしてからでいいよ」
「時間が限られてますから。あの、お手伝いしてくれる方は?」
「あー、探す探す」
「酒場をお借りして、売る場所は」
「あー、好きにしていいよ」
「売る数は」
「んー、メルシェと同じで」
「……」
「もういい?」
「あの、ギルド長」
「なんだい、おチビさん」
「これ、売ってみたいんですけど……」
「レーションかい?いや、クッキーか……味見してみても?」
「どうぞ!」
「っ、これはっ」
「日持ちは一週間ほどなんですけど、甘いし疲れが取れるので、こちら向きかと」
「ぜひ!売りたまえ!」
「1つ100ギルで、バラ売りで……」
「格安だな!もっと高くても買うよ!」
「あの、甘いものお好きですか?」
「ああ、王都の子羊亭も最高だったね。ガガの苦味と、パウンドケーキの合うことと言ったら……」
「あの、ガガなら私、入れられますけど」
「ホントか!」
「ねえ、ダン、個人に出す分にはかまわないよね」
「もちろん。はじめまして、私はダンです。王都でお茶販売と子羊亭をやっています。ここでもお茶販売のために来たんですが、お試しにどうでしょう」
「やりたまえ!」
「では明日から」
「かまわないよ、ねえ、おチビさん」
「アーシュです」
「アーシュ君、早速だが、ガガを入れてもらえないかな。ダン君もお話、聞かせてくれないか」
「「はい」」
「じゃあ、アーシュ、先に行ってるわね」
「なんだあのギルド長」
「興味あるもの以外、どうでもいいって感じ」
「おかげで好きにやっていいのよ、かえってありがたいわ」
「アーシュとダンはまあ、人身御供というか……」
「まさに子羊」
「違いない」
結局、お茶と甘いもの談義でけっこう時間がかかった。とはいえ、同好の士、ナッシュや王都の甘いもの情報をもらい、私はほくほくだ。時々甘いものを差し入れすることになったが、食べてくれる人がいるなら作るのは苦ではない。
「さすがにお腹いっぱいだ」
「そう?いい人だったね」
「そう思うのはアーシュくらいじゃないかな……変人の類だよ」
「変人でもいい人だよ、ねえ、パウンドケーキ焼いてあげてもいい?」
「かまわないよ、売るわけじゃなし」
「あ、ランチ販売に来たんだった。楽しくて忘れてた」
「盛り上がってたもんな……」
さあ、明日からクッキーの販売だ!
いや、ナッシュでのランチ販売が、始まる。




