アーシュ10歳3の月メルシェにて
メルシェ販売開始です。
その日は、ギルドの近くに泊まった。ちゃんとした街でちゃんとした宿屋に泊まるのは初めてだ。4人部屋を2つ、1つにはベッドを1台入れてもらって、狭いながらも5人にしてもらう。
夕ご飯はおいしかった。肉がメインに、薄い野菜のスープ、パンが基本だ。夕ご飯の後はお風呂。ちゃんと石けんがあった。宿のおばちゃんに聞いてみた。
「メリルがあんな調子だろ?お風呂や石けんがないと、不評なんだよ。先見ができる宿はさっさと取り入れたよ。まあ、おかげで客は途切れないねえ」
「女性用に、ちょっと高いんですけど、こんないいにおいの石けんもあるんですよ」
「おや、新製品かい?客用には高くて使えないけど、自分用にはたまにはねえ」
「試作品なので、使ってみて、よかったらメリルにご注文してくださいな」
「いいのかい?うれしいねえ」
宣伝もしておいた。
「4人でランチ作るの久しぶりね」
「ダンたちは?」
「役に立つと思う?」
「販売要員ね」
「とりあえず作るのは40」
「レーションは明日は持ってきたやつを販売ね」
「じゃあ、5時半で!」
食材の種類も値段もメリルとそれほど変わらない。7時には40作り上げた。
「さ、これがないと!」
『 子羊館出張所』ののぼりだ。酒場の手前、受付の近くで邪魔にならないように販売を始める。
「子羊館のランチ、出張販売でーす。レーションもありますよ!」
意外とセロもウィルもノリノリだ。ダンはとりあえず後ろで荷物整理だ。
「おや、坊主たち、冬には冒険者で来てなかったか?」
「はい!今回も時間があればダンジョンにもぐりますが、販売も仕事なので!」
「お前らメリルの子羊だったのか。どうりでな」
「?」
「なりたてなのにこぎれいで礼儀正しくて、しかも強いのがいるってうわさになってたんだよ。まあ、それはいい、ランチとレーション、1つずつくれ」
「1000ギルです。ありがとうございます!」
「へぇー、うわさだってよ」
「ダンが言うかよ」
「おい、ランチくれ」
「はーい!」
「販売はねえちゃんたちじゃねえのか?」
「オレらで勘弁してください」
「しゃあねえな、ランチとレーション4つずつくれ」
「4000ギルです。ありがとうございます!」
あっという間に売り切れた。
「もうないのかよ……」
「明日は多めに売り出しますから、すみません」
「あれ、ランチは」
「ギルド長、売り切れました」
「ええ、俺の分がない……」
「味見分でとってありますよ、はい、受付の方の分もどうぞ」
「そうか?ありがたい。調子はどうだった?」
「思ったより早く出ました。メリルで販売に慣れてる冒険者も多いんでしょうか」
「そうかもな、メルシェはメリルより短期滞在が多いんだわ。昼飯の調達は面倒がない方がいい」
「宿が充実してるみたいですから、朝食は需要が少ないかもしれませんね」
「正直、出してみないとわからねえな」
「4月からも働ける人がいたら、お手伝いを入れたいんですけど。そうすると始めからだいぶ楽になりますよ。そのまま指揮を取れるような人はいないですかね」
「ちょうどいい人がいるんだが」
「あすからでも大丈夫ですので、5時半集合でお願いできますか」
「聞いてみる」
「さ、片付けたら、あすの仕入れとダンの手伝いとレーションの焼き上げと……街の様子見だ!」
「串焼きだ!」
「あちこち見ないとね」
「服屋さんもね」
「見たか?」
「はい、確かに小さい子がいろいろ考えてるみたいですね。気がきくし。普通私たち分なんてとっておきませんよ」
「アーシュというらしい。グレッグの秘蔵っ子だ。面白いな、俺、メリルでギルド長やろうかな」
「こちらに引っ張って来るという手もありますよ。そうすれば冒険者の子羊も全部メルシェに来ますからね。若いし女の子だし、メルシェはいろいろあって魅力的な街ですよ」
「腹黒いな」
「失礼な!よく考えてるだけです」
お昼は屋台にした。良く考えると、王都ではニコもブランも、セロもウィルもダンジョンに潜っていたし、ダンは別行動が多かったから、仕事と称してみんなで出かけるのって初めてかもしれない。楽しい!
「アーシュ、何考えてる?」
「楽しいなって、セロ!あと、王都にあった揚げ物の屋台がないなあとか、甘いもの屋さんがやっぱり少ないなあとか、広場にテーブルとベンチがけっこうあるから、飲み物が売れそうだな……あと、定期便が出るところ……」
「はいはい。そんなとこだろうと思ったよ。オレはね、人を見てた」
「人?」
「あっちの四人組、魔法師ふたりの珍しい組み合わせ。きっとナッシュから来た。スライムにあきて、疲れてる」
「なんで魔法師ってわかるの?」
「筋肉のつき方」
「ウィルもわかるんだ」
「あと、あっちはシースから、商人。これから取引かな」
「そんな感じ」
「アーシュ、人はおもしろいね。何を考えてあちこち動くのかな」
「難しいね。自分もそうなのに?」
「何かがオレを動かすんだよ。みんなもそうなのかな」
「とりあえず、あの魔法師たち」
「え、アーシュ?」
「お兄さんたち、甘いものほしくないですかー、いいものありますよ」
「いいもの?」
ガサガサ。
「はい、味見してみて?」
「クッキー?これ……もぐっ」
「あっ、お前、無用心だぞ」
「おいしい……疲れが取れる気がする。もっとある?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いくら?」
「うーん、いくらなら買う?」
「そうだな、うーん」
「1つ100ギルなら?」
「買う!」
「そのくらいかな、じゃあ、これはサービスね」
「いいの?」
「うん。ナッシュで売り出したら買ってね!」
「え、ナッシュで?いつから?」
「5の月から!」
「楽しみにしてるよ!」
「セロ、あれ、売れそう」
「……うん!これがアーシュ!」
「だな」
さあ、明日も販売だ!




