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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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95/307

アーシュ10歳3の月メルシェにて

メルシェ販売開始です。

その日は、ギルドの近くに泊まった。ちゃんとした街でちゃんとした宿屋に泊まるのは初めてだ。4人部屋を2つ、1つにはベッドを1台入れてもらって、狭いながらも5人にしてもらう。


夕ご飯はおいしかった。肉がメインに、薄い野菜のスープ、パンが基本だ。夕ご飯の後はお風呂。ちゃんと石けんがあった。宿のおばちゃんに聞いてみた。


「メリルがあんな調子だろ?お風呂や石けんがないと、不評なんだよ。先見ができる宿はさっさと取り入れたよ。まあ、おかげで客は途切れないねえ」

「女性用に、ちょっと高いんですけど、こんないいにおいの石けんもあるんですよ」

「おや、新製品かい?客用には高くて使えないけど、自分用にはたまにはねえ」

「試作品なので、使ってみて、よかったらメリルにご注文してくださいな」

「いいのかい?うれしいねえ」


宣伝もしておいた。


「4人でランチ作るの久しぶりね」

「ダンたちは?」

「役に立つと思う?」

「販売要員ね」

「とりあえず作るのは40」

「レーションは明日は持ってきたやつを販売ね」

「じゃあ、5時半で!」


食材の種類も値段もメリルとそれほど変わらない。7時には40作り上げた。

「さ、これがないと!」

『 子羊館出張所』ののぼりだ。酒場の手前、受付の近くで邪魔にならないように販売を始める。


「子羊館のランチ、出張販売でーす。レーションもありますよ!」


意外とセロもウィルもノリノリだ。ダンはとりあえず後ろで荷物整理だ。


「おや、坊主たち、冬には冒険者で来てなかったか?」

「はい!今回も時間があればダンジョンにもぐりますが、販売も仕事なので!」

「お前らメリルの子羊だったのか。どうりでな」

「?」

「なりたてなのにこぎれいで礼儀正しくて、しかも強いのがいるってうわさになってたんだよ。まあ、それはいい、ランチとレーション、1つずつくれ」

「1000ギルです。ありがとうございます!」


「へぇー、うわさだってよ」

「ダンが言うかよ」


「おい、ランチくれ」

「はーい!」

「販売はねえちゃんたちじゃねえのか?」

「オレらで勘弁してください」

「しゃあねえな、ランチとレーション4つずつくれ」

「4000ギルです。ありがとうございます!」


あっという間に売り切れた。


「もうないのかよ……」

「明日は多めに売り出しますから、すみません」


「あれ、ランチは」

「ギルド長、売り切れました」

「ええ、俺の分がない……」

「味見分でとってありますよ、はい、受付の方の分もどうぞ」

「そうか?ありがたい。調子はどうだった?」

「思ったより早く出ました。メリルで販売に慣れてる冒険者も多いんでしょうか」

「そうかもな、メルシェはメリルより短期滞在が多いんだわ。昼飯の調達は面倒がない方がいい」

「宿が充実してるみたいですから、朝食は需要が少ないかもしれませんね」

「正直、出してみないとわからねえな」

「4月からも働ける人がいたら、お手伝いを入れたいんですけど。そうすると始めからだいぶ楽になりますよ。そのまま指揮を取れるような人はいないですかね」

「ちょうどいい人がいるんだが」

「あすからでも大丈夫ですので、5時半集合でお願いできますか」

「聞いてみる」


「さ、片付けたら、あすの仕入れとダンの手伝いとレーションの焼き上げと……街の様子見だ!」

「串焼きだ!」

「あちこち見ないとね」

「服屋さんもね」


「見たか?」

「はい、確かに小さい子がいろいろ考えてるみたいですね。気がきくし。普通私たち分なんてとっておきませんよ」

「アーシュというらしい。グレッグの秘蔵っ子だ。面白いな、俺、メリルでギルド長やろうかな」

「こちらに引っ張って来るという手もありますよ。そうすれば冒険者の子羊も全部メルシェに来ますからね。若いし女の子だし、メルシェはいろいろあって魅力的な街ですよ」

「腹黒いな」

「失礼な!よく考えてるだけです」



お昼は屋台にした。良く考えると、王都ではニコもブランも、セロもウィルもダンジョンに潜っていたし、ダンは別行動が多かったから、仕事と称してみんなで出かけるのって初めてかもしれない。楽しい!


「アーシュ、何考えてる?」

「楽しいなって、セロ!あと、王都にあった揚げ物の屋台がないなあとか、甘いもの屋さんがやっぱり少ないなあとか、広場にテーブルとベンチがけっこうあるから、飲み物が売れそうだな……あと、定期便が出るところ……」

「はいはい。そんなとこだろうと思ったよ。オレはね、人を見てた」

「人?」

「あっちの四人組、魔法師ふたりの珍しい組み合わせ。きっとナッシュから来た。スライムにあきて、疲れてる」

「なんで魔法師ってわかるの?」

「筋肉のつき方」

「ウィルもわかるんだ」

「あと、あっちはシースから、商人。これから取引かな」

「そんな感じ」

「アーシュ、人はおもしろいね。何を考えてあちこち動くのかな」

「難しいね。自分もそうなのに?」

「何かがオレを動かすんだよ。みんなもそうなのかな」

「とりあえず、あの魔法師たち」

「え、アーシュ?」


「お兄さんたち、甘いものほしくないですかー、いいものありますよ」

「いいもの?」

ガサガサ。

「はい、味見してみて?」

「クッキー?これ……もぐっ」

「あっ、お前、無用心だぞ」

「おいしい……疲れが取れる気がする。もっとある?」

「はい、どうぞ」

「ありがとう。いくら?」

「うーん、いくらなら買う?」

「そうだな、うーん」

「1つ100ギルなら?」

「買う!」

「そのくらいかな、じゃあ、これはサービスね」

「いいの?」

「うん。ナッシュで売り出したら買ってね!」

「え、ナッシュで?いつから?」

「5の月から!」

「楽しみにしてるよ!」


「セロ、あれ、売れそう」

「……うん!これがアーシュ!」

「だな」


さあ、明日も販売だ!

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