アーシュ10歳3の月メルシェ
今日は1話です。
メルシェは、メリルから定期便が出ている。馬車で南に3日の距離だ。3日とはいえ、南に下ると、冬の終わりの景色はたちまち早春へと変わっていく。少し春の気配がする風を受けながら、3の月の初めにメルシェについた。
「うわー!にぎやかだ!」
「だろ?ここからあっちがシース、そっち側がナッシュに行く道だよ。王都のにぎやかさとはまた違うだろ、アーシュ」
「うん、セロ、人が行ったり来たりして、なんていうか、移動するにぎやかさ。屋台も結構あるね、マル」
「うん、串焼き、串焼き、肉巻き、串焼き」
「串焼きしか目に入ってないんじゃない……」
「大事なこと」
「後で食べようか」
さあ、メルシェのギルドに行こう。
「あの、メリルから来たんですが、ギルド長お願いします」
「約束はあるかしら?」
「はい、メリルのギルド長から連絡が来ているはずです」
「あら、少し待ってね」
マリアが対応してくれる。
メルシェのギルドは、メリルと規模は変わらない。南らしく、開放的な感じか。少し酒場が大きいかも。
「こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
「やあ、君たちがメリルの子羊か、去年から待ちかねたよ。メリルばかり評判がよくて歯がゆくてね」
「よろしくお願いします!」
「そちらの男子たちはなんだね」
「子羊の仲間たちで、護衛兼お手伝いです。1人は学生、あとは普段は冒険者をやっています」
「昨年冬に見かけた気がするが……」
「はい、冒険者として来ていました」
「ほう、それはいい。今回は?」
「時間があればダンジョンも行きますが、基本販売のお手伝いです」
「私はお茶販売できました。これが紹介状です」
「君は王都の……」
「ギルドのお茶販売と、子羊亭をやっています、ダンです」
「急なことだが……」
「お茶販売の場合、キッチンだけ借りられればよいので、特別手間はかかりません。午後のお試しに、やってみませんか?」
「……わかった。よろしく頼む」
握手する。
「キッチンは、ギルドの酒場のものを使うのでいいのかね」
「ランチには十分ですが、朝食用にはもう少し大きい規模のものが必要です。これが計画書です」
「ふーむ、案外と安上がりな……」
「これを4の月までに仕上げてもらえれば。獣脂工場とオートミールの工場については、メリルから持ってくるか、ここで作るか、メリルのギルド長と相談してみてください」
「わかった」
「では、今日仕入れで、明日から10日間、出張販売でようすを見ましょう」
「よろしく頼む。宿屋はギルドで用意したがそこでいいだろうか」
「大丈夫です。では失礼します」
「若いというか、あんなに幼くて大丈夫でしょうか、ギルド長」
「君は受け付けとして、男子の方は知っているかい?」
「ええ、冬に冒険者として来ていて、ずいぶんしっかりとした、素直な明るい子たちで」
「ほう、ベタ褒めだな」
「必ず毎回貯金して、魔石に魔力を入れていくんですよ。しかもあの年にしては相当強いはずです」
「その子たちが従っているように見えたぞ?」
「確かに」
「それにリーダーはおそらく、1番小さい子だな」
「まさか!」
「まあ、実際メリルと王都で成果を上げてる。お茶販売までついてきやがった。オレは楽しみだぜ。早く朝飯も出してほしいもんだ」
ランチ販売が、始まる。




