アーシュ10歳2の月子羊たちはその先へ
今日2話目です。
2の月の初めには、アメリアさんに頼んでいた水筒もできあがった。原理自体は簡単なのだそうだが、そんな小さいことに魔石を使おうなどと考えたこともなかったので、その発想の転換が難しかったのだという。ダンと相談して、西ギルドでのお試しを考えていたので、とりあえず100ほど注文してある。
メルシェへ出かけるギリギリ前に、ダンがお休みで戻ってきた。ザッシュとクリフは、ダンジョンで稼ぐということで、戻ってこなかった。ダンはメルシェとナッシュの話を聞いて、
「お茶販売は、朝食とランチとセットでしょう」
と言い、ギルド長にかけあって、メルシェとナッシュのギルド長に紹介状を書いてもらっていた。
「お前ら、働きすぎだろ……」
とぶつぶつ言われていたが。
「ねえ、おうちに帰ってきたんでしょう。少しはいてあげないと」
「知ってるだろ、アーシュ、父さんも母さんもしょっちゅう王都に来てるからさ、父さんと母さんに会いに来たわけじゃないんだ。せっかくメリルに戻ってきたんだから、休みの間くらいみんなと一緒にいたっていいだろ?」
「オレたちダンジョンだぞ?」
「夜は一緒だろ」
「そういやそうだな、楽しみだな」
セロたちも少し前に戻っていたので、みんなで話すことはできた。
「ナッシュな、すげー面白いとこだった」
「ウィル、なんで?」
「とにかく、魔法師が多い。といったってもともとが少ないからさ、多くたってたかがしれてるんだけど、だからさ、宿屋が上等なものが多かったような気がする」
「ああ、魔法師疲れやすいもんね」
「そう、剣士ほど鍛えてないからな。あとな、これ、セロと観察して思ったことなんだけど」
「そう、早くダンジョンから上がった日はさ、ウィルと一緒に、ダンやアーシュになったつもりで冒険者を見てたんだよ。そうするとな、すっごい疲れてて、喉もかわいてるみたいなんだよ」
「ほかのとこより?」
「メリルなんか比べ物にならないよ。実際、行ってみて思ったけど、スライムばかりってすごい消耗するんだ。レーション持ってった日なんかさ、ダンジョンの中でも分けてくれって言われたことある。多めに持っていってたから分けてあげたけど、喜んでたぜ。お腹空いたんじゃなくて、甘いもの食べたかったんじゃないかな」
「へぇー、びっくりだね」
「あれ、売れると思った」
「どれ?」
「アーシュの糖蜜オートミールクッキー」
「レーションのもとになったやつ?」
「日持ちしないからってレーションにはならなかったけど、お茶のお供には好評だったろ?」
「すごく甘いから、好みは人によるけどね。作るの自体は、レーションと同じくらいの手間なんだよね。日持ちが少し短いのと、あと、ギルドで販売してもいいか許可取らなきゃ」
「じゃあ、水筒入りのお茶も試験販売してみるか?でもそうすると、王都でも使えないとな、ナッシュだけで水筒使えても意味ないし」
「ダン、水筒はお試し販売では難しいよ、まず王都でやってみて。パウンドケーキも受けるだろうけど、あれはしばらく子羊亭限定にしたいしね」
「なあ、セロ、ウィル、それだけしっかり人を見れるんならさ、オレたちと一緒に、販売してみないか?」
「レーションとかのか?」
「そう、セロの推薦したヤツ」
「……」
「寄り道はイヤか」
「そうじゃない。そりゃ最短で強くなりたいけど……」
「D級、無理そうか?」
「それはもう推薦もらってあるから大丈夫」
「帝国の先、考えようぜ」
「帝国の先?」
「お前、アーシュとだけ行くつもりだったのか?」
「マルも行くよ」
「オレだってさ」
「もちろん、オレだって行くぜ」
「マル、ウィル、ダン……いいな!一緒に行きたいな!なあ、アーシュ」
「もちろん!」
「帝国行ったら、それで終わりか?違うだろ」
「帝国行った後?」
「オレもわからない。だけどさ、それまでいろいろやってもいいと思うんだ」
「その先か……」
「じゃあ、ダンもランチ作るの手伝ってね」
「マジで?」
「いろいろやってもいいんでしょ」
「う、わかりました」
「セロとウィルもね」
「「はい……」」
いざ、メルシェへ!




