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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
飛び出す子羊編

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アーシュ10歳9の月

今日2話目です。本編です。

王都で9の月1週間を過ごし、またメリルに戻ってきた。勉強の重圧から解放された私たちは、「湧き」の終わったメリルで、やっと落ち着いた1年を過ごせそうだ。しかしセロとウィルは、すぐ旅立つ。


ニコとブランは、行き先こそセロとウィルと同じだが、そこからは別行動で、自分たちなりに鍛えてくるという。


行き先は、メリルから南、馬車で3日のメルシェだ。場合によっては、そのまま南下してシースに行くという。2ヶ月は越えないと、約束してくれた。メルシェもシースも、メリルと同じような規模、同じようなダンジョンだし、近くだから行きやすいのだろう。やや西に向かうナッシュは、珍しいことにスライムダンジョンであるが、剣士には少し厳しい。魔法師には稼ぎ場所でもある。


「じゃあ、行ってくるよ」

「できるだけ鍛えてくる!」


「無理しないで、がんばってね」

「アーシュはマルに任せて」

「「いってらっしゃい!」」


それぞれに道を極めることにしたからには、やるしかない。私は、荷物持ちになってから、やってみたいことがあった。いずれ冒険者になるからには、ダンジョンでいかに楽しいかが大事になる。いかに強いか?そういう人もいるだろう。しかし、一日中魔物と戦って、集中力やテンションを保つには、息抜きできるかどうかだ。


だからダンジョン内で、お茶や暖かいスープを飲みたい。


お茶とガガは、ダンからもらってきた。それを入れて持っていくか、ダンジョンで入れるか。また、スープは、粉末にするか、フリーズドライにしてお湯で溶かすだけにするか。ギルド長との朝の訓練の他に、新しい開発も始まった。


アメリアさんアメリアさん!

「なあにアーシュちゃん。また難しい注文かしらあ」

一人用の、保温、冷蔵水筒みたいなのは、どう思います?

「うーん。たくさん入る収納水筒はあるんだけどお、一人用は誰もほしがらなかったわあ。だって生活魔法があるじゃない?」

2杯分くらいのお茶が入るやつだとどう思います?こう、ダンジョン内で一休み的な?朝ご飯のついでに、有料で入れてもらうとか。

「それだと、お茶の売り上げが減らないかしら?」

「お茶を朝入れるのはお茶販売の人にやってもらえばそれで。生活魔法じゃ、温めたり冷やしたりは出来ないみたいだから」

「小さいからかえって難しいかも。でも、面白いからやってみるわ」

お願いします!


乾燥した干し肉を細かくするような道具はすでにあったので、初期の頃の干し肉のスープを参考に、簡易スープの開発も始めた。


よく荷物持ちとして使ってくれている人たちを実験台、いやモニターにしながら、少しずつ改良を加えていく。改良段階でも好評だったが、


・お茶は最初から持っていくと、休憩のときうれしい

・スープもお茶も、その場で作ると嬉しくはあるが、時間が惜しいときもある

・お湯を持っていって、その場で簡単にスープを作るのがいい


ということに落ち着いた。お茶の販売は、今度ダンに相談してみることにして、スープの開発に専念する。


そうこうしているうちに、スープそのものより、「お茶も入れてくれる荷物持ちがいる」ことの方が有名になり、ある意味引っ張りだこになる始末。簡易コンロとお鍋で作れるので、メリルの他の荷物持ちにも教えることになり、「メリルでは荷物持ちは希望すればお茶も入れてくれる」とグレードアップし、やっぱりメリルは注目されるのだった。


ふたを開けてみれば、案外とさみしいと思う暇もなかった。そうしてきっかり2ヶ月、セロとウィルが戻ってきた。いつの間にか11の月に入っていた。


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