ウィルという人
学院の途中ですが、ウィルの話が入ります。
オレはウィル。メリルの子羊の1人。いつもセロと組んで、今は冒険者をしている。妹のマルと、あとから来たアーシュも一緒に暮らしてる。毎日が楽しいんだ。
オレと妹は、裕福な家庭で生まれたと思う。オレもマルと同じで、小さい頃から何でも覚えていた。そして何にも興味がなかった。言われたことは、やる。しゃべれと言われればしゃべるし、着替えろと言われれば着替える。おとうさまと同じ髪と目の色、そして何でもすぐに覚える賢さは、小さい頃はたいそうもてはやされた。同時に、めったに表情を変えない気味悪さから「氷の人形」と呼ばれていたのも知っている。オレは年上だった分、それでもマルは面倒を見なくてはと思っていた。
だから、笑うことを覚えた。人に優しくすれば、大事にされる。大事にされれば、妹も大事にしてもらえる。やがておかあさまが死んだ。笑うことは覚えても、泣くことは覚えていなかったオレたちを、おとうさま以外は気味が悪いとうわさした。だけど、悲しいってなんだ?毎日は過ぎていくだけで、誰かがいなくなったところで何が違う。
おとうさまは、おかあさまがいないと寂しかろうと言って、新しいおかあさまを作ってくれた。優しいおかあさまだった。マルをかわいがってくれるから、オレも優しくした。
でも、おとうさまは仕事で本国に戻ってから、帰ってこなくなった。毎年連絡は来る。来年は戻るから、待っていてくれと。2年までは、おかあさまは耐えられた。でも、3年めに壊れたんだ。
おとうさまを愛していたから、血のつながらないオレたちも大事にしてくれた。おとうさまを愛していたから、オレたちの姿に耐えられなかった。そのうち屋敷の別棟に閉じ込められ、次第に食べ物も滞りがちになったある夜、誘拐された。身代金を要求することになっていたから、誘拐されたと言っていいのだろう。馬車で2週間。少なくとも、屋敷にいた時よりはきちんとご飯をもらえた。
「いくら憎いからってな、さらわせるなんてな」
「少なくとも、殺せとは言われなかっただけ、ましなんじゃねえか」
「今頃は悲劇のご婦人ってとこか」
「海を越えた先の人となんて、付き合うもんじゃねえよ」
そういうことか。茶番、というのだったか。
「悪く思うなよ、なるべく遠くに置いてくるように言われてるんでな」
「メリルは孤児に優しい街だ、何とか生きのびな」
そうしてメリルにやってきたんだ。高級な服を着ているオレたちが訳ありでないはずがない。けど、事情を聞かれても話さなかった。戻ったとして、何の意味がある。孤児の仲間に入れられたが、マルは相変わらずだった。オレだけががんばっても、子どもの中ではうまくいかなかった。いじめられた訳ではない。何の反応も返さない子どもをかわいがる理由もないというだけだ。
マルは1番小さいセロにだけは少し反応を見せた。セロはおおらかで、反応があろうがなかろうがあまり気にしない。いつも何かを胸に抱えてて、遠くを見ているようなやつだった。何かが足りず、なにかに焦がれるようなその姿に、オレは初めて、人というものに興味を持った。過ぎていく毎日は、もしかして何か意味があるのか?そのうちセロとマルと、3人で暮らすようになった。日々はやはり何もなく過ぎていく。
そんな時に、アーシュが来たんだ。
セロの目が変わった。アーシュの黒髪と琥珀の目は、遠くの匂いがした。なあセロ、そいつが待っていたものなのか?
マルも変わった。いつの間にか、ご飯がおいしくなり、明日が来るのが楽しみになった。次は何がある?
そうして見つけたんだ。
剣を。魔法を。力を。思いきり体を動かす先に、何がある。強く、強く、強く。
強くなった先に、何があるかわからない。それはオレたち4人の道を分かつかもしれない。それでもオレはもう、とまらない。でも、今は共に。肩を並べて、前へ。




