アーシュ10歳王都滞在の終わり
今日1話目です。
最初こそ小さいもの扱いで少しバカにされたし、かわいがられもしたが、私たちの学力の高さがわかると次第に同級生扱いになっていった。また、楽しく真剣に授業を受ける態度は、だんだんとクラスに浸透し、みんな休み時間まで活発に勉強するようになった。
体育ではマルはともかく、私まで剣を使えることに驚き、クラスの男子は燃えた。数学はみんなに教えてもらい、クラブでは先輩に優しくしてもらった。帝国語クラブだが、マリアとソフィーにお茶とお菓子を頼まれ、ダンの店の宣伝がてら家庭クラブと合同でお茶会をやったりもした。当然マルの剣のクラブも加わり、何組かのカップルが誕生したとか。
もちろん、帰ってから習ったことはセロたちにも教えた。
1ヶ月たった時は、帰ることを惜しまれたが、夏休みに会える人は集まろうということにして、無事お試し登校は終わったのだった。
「これを持って行きなさい」
とおじいちゃん先生には簡単に読める帝国語の本を貸してもらった。
「また王都に来たら、必ず連絡するのじゃよ」
ギルドの依頼は、西ギルドも東ギルドも70食前後で落ち着いた。
はじめに育てた未亡人方が、しっかりとリーダーになった。
中央ギルドは、これから来年までの効果を証明してから、取り入れるか決定するそうだ。屋台なども多いので、東ギルドほどの突き上げはなかったらしい。メリルに帰りたくなっていたので、これ以上働かなくなってよくなりほっとした。今年度は、ギルドからの依頼はもうない。一月のギルド長会議しだいでは、来年はメルシェやナッシュへの派遣もあるかもしれないとのこと。
「まさかグレアムとこうして話す仲になるとは思わなかったな」
「もともと別にもめていたわけでもないじゃないですか」
少し西東の仲は改善したようだ。
私たちは、1件の依頼につき、必要経費を除き30万ずつ報酬をもらい、朝食、昼食の利益のうち、一定の割合をもらえることになる。それが一人当たり一月7万ほどになるので、メリルの分も合わせれば、とりあえず、生活には困らなくなったと言える。
セロとウィル、ニコとブランは、はじめの頃のようなトラブルもなく、西ギルド、東ギルドで黙々と働いていた。おそらく、パーティ費を除いても、1人30万以上は稼いでいたと思う。2年目のニコとブランはともかく、セロとウィルは少し打ち込みすぎのように思えた。
6の月の3週目も終わりになり、明日には王都を出る。7の月には、メリルに戻り「湧き」に備える予定だ。
「マル、長かったね」
二人部屋で語り合う。
「どれも面白かったけど、剣を十分に振れていないのが残念」
「来週から荷物持ちに戻るのに、腕がなまってるような気がする」
「帰ったら訓練」
「だねー」
トン、トン。
「はーい」
カチャ。
「あ、セロ、ウィル、どうしたの。めずらしいね」
「うん、少し話したくて」
「お茶いる?」
「いや、大丈夫」
みんなでベッドに座る。
「あのさ、オレたち、王都でダンジョンに潜ってみて、気がついたことがあるんだ」
「なあに、セロ」
「メリルじゃ、剣の修行にならないんだ」
「そうなの?」
「セロの言う通り。ダンジョンにもぐってる時も、他の人のレベルはものすごく高かった。メリルのように親切ではないけど、訓練所では頼めば、大抵の人は相手をしてくれる。その剣士たちの強いことと言ったらもう」
「オレたち、余った時間は大抵は訓練してたな」
「ズルイ、マルもしたかった」
「冒険者だから、相手をしてくれたんだろうと思うよ」
いやな予感がする。
「だからさ、夏の学院が終わったら、メリルから離れて、他のダンジョンで修行してきたいんだ」
「いいな、マルも行きたい」
「荷物持ちで修行に出る人はいないからな、がまんしろ」
「アーシュ?」
「……ったよね?」
「なに?」
「せっかく仲間になったんだから、いつも一緒にいたいって!セロ言ったよね!」
「!それは……」
「出てって」
「アーシュ……」
「勝手だよ!」
「アーシュ」
「出てって!」
ベッドに潜り込む。明日はメリルに帰るのに……




