アーシュ10歳5の月1週目6の日続き
今日2話目です。1話目の続きとなるので、1話めから読んでもらえるとありがたいです。※すみません、セロとウィルがまだ戻ってきていないという説明がたりず、付け足してあります。
どうしよう、アリスさんの話は通じない、ギルド長は出かけている、冒険者はまだほとんど帰ってきてない。セロとウィルもまだ戻ってこない。メリルなら誰かがきっと止めてくれるのに。いる人もみんな静観してるだけ。ランクだって上なのに、ムリだよ!
でも、訓練と称した勝負は行われることになった。
「マリア、ごめんなさい」
「ソフィーにはわからないかもしれないけど、正しいだけが勝負じゃないの。このパーティは、おそらく最初から因縁をつけるためだけにからんできたのよ」
「じゃあ、どうしたらよかったの?」
「ランク差があった時点で、こちらが引くのが賢いやり方、それがダメなら勝負でこてんぱんにされて終わり。低ランクが負けても、傷つくのはプライドだけよ」
「私、私、どうしてもがまんできなくて」
「そうね、しかたのないこともあるわ」
「さあ、4対4だ、ちょうどいいじゃねえか、始めるか」
そこからは一方的だった。
「アリスさん、魔術師は人に絶対魔法を向けてはいけないって」
声が震える。風にブランが飛ばされる。ザッシュのそばを火がかすめる。足下からつぶてが飛ぶ。剣の実力差もあったが、魔法師の存在で実力差が大きくなる。
「よく見て、アーシュちゃん、魔法は一つも当たっていないわ。威嚇と牽制に使われてるだけ。かわいそうだけど、経験値が違いすぎる」
おそらく、必要以上にいたぶられ、全員起き上がれなくなるまで続いた。
「じゃあ、勝負はついたな、さ、お嬢さんたち、ご飯でも食べに行きましょうかね」
「この子はまだ成人していないの。悪いけど、私だけおつきあいするわ」
「マリア!」
「ソフィー、黙りなさい」
「……」
「では、行きましょうか」
全員意識のない中で、ニコの手がわずかに動く。
「待って!」
「おや、小さいお嬢ちゃん、何かな、お付き合いするには少し早いようだが」
「マリアは、行かせない」
「アーシュ、やめなさい」
「行かせない」
「勝負を!」
「何を」
「その魔術師と。1対1で。私が動けなくなったら私の負け。あなたが膝をついたら私の勝ち。勝ったら、マリアは渡さない」
「ちびちゃんには、関係ないよなあ」
「マリアにも、関係はなかった。関係なくても、やりたければやれと、あなたたちが教えてくれた」
「くっ、言うなあ。けど、それを受けて、オレ達に何の得がある?」
「弱いものをいたぶるのが趣味かと思った」
「はっ、生意気だな、だがな」
「おい、チビの気がすめばいいんだろ。怪我させない程度に相手してやるよ。すぐすむ。なあ、ちいちゃい魔法師のお嬢ちゃん」
「お願いします!」
「ちょっと、あなたたち、その子は冒険者じゃないわ!」
「怪我もさせねえよ、ちょっとしつけてやるだけだ」
訓練所に、1対1で立つ。さっきの勝負で、この人はかなり魔術を使っていた。おそらく、魔力はたくさんは残っていない。怪我をさせないように、大きな風の魔術で来るだろう。それならば。
「始め!」
来た!風の攻撃だ。右に飛ぶ。
「ちっ、ちょこまかと」
今度は小さい風のボールが、動く方向に細かく飛んでくる。
ただし、剣の訓練もしている私なら、1対1でなら避けられる。
そのすきにこちらも風のボールを打つ。
反撃を予期していない相手は、少し驚く。が、膝をつくほどではない。次第にイライラしてくる相手のボールの数が増える。
「何遊んでるんだよー、早く終わりにしようぜー」
遊んではいない。必死に風のボールを当てようとしている魔術師のいら立ちは頂点に達する。さあ、出せ、大技を!動きが一瞬止まる。
今だ!ライトを10個、最大速度で乱舞させる。上を向いた瞬間、大きな風のボールを足元に打つ!風圧であおられ、思わず膝をつく。
「勝負あり!」
アリスさんの声がひびく。
「なっ」
相手の剣士たちが思わず剣に手をかける。
カチャリ。マルが私の前に立つ。
「そこまでだ」
グレアムさんだ。ザッシュに肩を貸している。
「これ、今日の魔石です。謝りはしません。間違っていないと思うから。でも、これで終わりにしてください」
「チッ、おもしろくねえ結末だが、これで手打ちにしてやる、いつまでも膝をついていないで、いくぞ!」
「アーシュ!」
手が震える、足が震える、世界が遠くに見える。
パーン。
「何やってるんだ!」
あ。セロ。頬が痛い。世界が戻ってくる。目が熱い。
「うわーん」
「バカだな、ほら」
セロの、マルの、ウィルの手が抱きしめる。
人に向けて魔法を打っちゃった。ギルド長に怒られるなあ。




