あるギルドマスターの、ひとりごと
今日7話目です。
幸せって、何なんだろなあ。
オレは、ターニャとトニアを見るとそう思ったもんだ。
ターニャはスラム育ちだが、黒髪と少し下がった大きな琥珀色の瞳が、それはきれいな女の子だった。その分、商家の親父に囲われそうになって、結局、幼なじみのトニアと結婚しちまった。
けど、トニアはなあ。
いいやつだけど、とにかく弱かった。22歳にもなって、ギルドのランクがDだぞ。人にも強くは言えなかった。
だからこそ、体の弱いターニャに寄り添えたのかもしれねえ。
トニアがいなかったら、もっと早く人生をあきらめてただろ。
そんな弱いふたりに生まれたのがアーシュだ。
姿こそターニャに生き写しだが、強さが違う。
ふらふらするふたりを支えて、いっつもがんばってた。
この街に来てからは、もうみてられないくらいだった。
ターニャはもう長くねえって、誰もがわかるくらいだった。
それでも、あちこちかけずりまわって、アーシュはなんとかしようとしてた。
もしかしたら、トニアが先にあきらめちまってたのかもな。
だから先に行っちまったのかな。
そこから先はあっという間だった。
墓の前で、
「娘は生きる理由にならなかった?」
って言ってる7歳に、なんて言えばよかったのか。
お前がいたから、ターニャはここまで生きた。だからこそトニアもがんばれた。お前が弱い2人の、命と幸せをつないだんだ。
せめてしっかりしたグループにって、思ってたのに最弱のグループに入っちまった。そして毎日笑って過ごしてる。
少なくとも、お前のまわりに、幸せはある。