アーシュ10才、荷物持ち始めました
今日2話目です。
さあ、4の月がやってきた。私とマルは、荷物持ち、セロとウィルは冒険者のスタートだ。
「「じゃあ、行ってくる」」
「「いってらっしゃい」」
「早いな」
「この日を待ちわびたんだろうさ」
セロとウィルはそうそうにダンジョンに入っていった。
問題は私たちだ。女性の冒険者は少ないし、まして荷物持ちから始める冒険者は少ない。誰か雇ってもらえるだろうか。何か遠巻きにされている気がする。
「お前行けよ」
「いや、だってさ」
「早くしないと、先こされるって」
すると、
「君たち、今日が最初なのかい」
「「はい!」」
「荷物持ち、お願いできるかな」
「「お願いします!」」
声をかけてくれた!20歳前後の、4人組だ。
「誰だあいつら」
「だから言ったろ、あーあー知らないやつらに取られちゃったよ」
「オレたちの天使が……」
私もマルも、訓練はしていたがダンジョンは初めてだ。初日に声をかけてくれるようなパーティは、親切なので初心者講習もしてくれる。それでも優秀なパーティのようで、説明しながらも魔物をどんどん倒して行く。私たちだって解体所上がりだ。死体に怯えたりなんかしない。魔石を取り出し、ホドホドにさばき、収納バッグにおさめていく。
「へえ、結構やるね、これなら任せられるよ」
リーダーは珍しく、魔法師の人だ。パーティはたいていは剣士がリーダーだ。剣士だけではつらいところを、魔法師がカバーしていく。ところがこの人は、最初から魔法で魔物を削り、剣士の戦いを楽にする。私とマルが冒険者になった時、この戦い方は行けるかもしれない。邪魔にならないよう、夢中になって見学した。
「さあ、お昼にしようか」
「「はい!」」
子羊ランチをダンジョンで食べるのは初めてだ。ちょっとうれしい。
「それ、子羊ランチ?」
「そうでふ」
もぐもぐしながら言うと、
「おいしいって評判だけど……」
「じゃあ、交換ひてみまふか?」
「いいの?」
「はい」
先にジャムから食べていたので、卵サンドを交換してあげた。
「お前、ずりーぞ」
「頼めば良かったじゃん、あ、うまー」
「くっそ」
「子羊館に泊まれば優先的に買えますよ」
「でも空いてなくないか?」
「今年は1日5000ギルの部屋なら空いてたと思いますよ」
「5000なら、妥当だね」
「聞いてみるかあ」
「それがいいですよ」
「ところでそれ」
「ジャムですよ、1口食べますか」
「うん!」
「だからずりーって」
などと和やかにすごす。となりでマルがまぐまぐと食べている。
「さ、オレたちは食休みだが、君たちはラット狩りをやるかい」「やる!」
マルの目が輝いた。
「来る途中結構無視してきたんだけど、小さいのはたくさんいたな、見てあげるから少し戻ろうか」
気がついてはいたが、ラットとスライムの小さいのは、よほどのことがないとこちらを襲ってこないので、たいていは無視する。それが荷物持ちの訓練と小遣い稼ぎになるのだ。狩らせてくれないパーティもあるので、ラッキーだった。
「さて、どうかな?」
いるいる。
「マル、スライムは任せて。右のラットからお願い」
「わかった」
「「よし、始め!」」
「ヤーっ」
マルが行った。周りに余分な魔物なし!では、左から、
「炎、小、5、ねらえ!」
パーン。よし、次、
「炎、小、3、いけ!」
パーン。マルの右、ラット3体、
「風、小、3、飛ばせ」
ひゅん。
「数が少なくなった!アーシュ、剣に代えて、切れ」
「わかった!」
ザクッ。ふー。
「スライム8、ラット6だね」
「さ、解体しよ」
「アーシュは剣の方が訓練になっていいんじゃないの?」
「魔法も使ってみたくてさ」
「え、ちょ、待って、君たち」
「「はい?」」
「何、今の」
「「何って……戦闘訓練?」」
「いや、だって、何、その早さ、連携、あとその魔法!」
「「??」」
「うん、ちょっとおはなししようか」
ランチの場所に連れていかれた。
「あー2年前から毎日訓練、魔法はギルド長に訓練してもらってと、あーギルド長、赤禍か、え、王都で?東門隊長にも?強かった?そりゃそうだよね……」
「「?」」
「わかった。そう、そんなこともある。のかもしれない。とにかく、その魔法教えてよ」
お昼休みが少し延びた。
「ここにいる間、毎日荷物持ちに連れていくから、魔法の訓練手伝ってな」
だそうだ。その日は早目に上がってくれた。
「帰ってきたぞ!」
拍手が響く。ああ、セロとウィルの時もこうだった。メリルは温かい。
「へえ、いい街だね」
「「はい!」」
「さあ、賃金をもらっておいで」
「まあ、スライムとラットの魔石、合わせて14ね、ひとり1700ギルよ」
「わあ!じゃあ」
「半分はパーティにね?」
「「はい、お願いします」」
後ろがざわついた。
少し薄汚れた、セロとウィルだ。
2人は黙って、魔石を受付に置く。
「まあ、まあ、ちょっと待ってね……」
「2人で、5万ギルよ!」
「「よしっ!」」
「「よくやった!」」
歓声と拍手が鳴り響く。
セロが大股で歩いてくる。高く抱えられた!
「やったよ、アーシュ!」
「うん!」
ギュッと抱きつき、顔を見上げる。嬉しそうに、誇らしげに、アイスブルーの目が輝く。
「あー、オレもいる」
「マルも、頑張ったんだけどな」
パッと離れた。
「「ウィル、マル」」
ニヤニヤしている。
「「「「やったー!」」」」
歓声と拍手が、また鳴り響いた。
「何のさわぎだ、あーお前らか。よくやった、んで、もう戻れ」
「「「「はい」」」」
「パーティに半分入れておくわね!」
マリアが、ソフィーが、ニコが、ブランが、そこで待っていた。
「さあ、帰るか」
「でもね」
「「「「串焼き、買おうか!」」」」




