ニコの光
最初の方、少し暴力をうかがわせる表現があります。
オレはニコ、12歳。もうすぐ13になる。
メリルの子羊と呼ばれてる孤児の1人で、冒険者だ。今日も、ダンジョンで魔石を稼いできた。
「なあ、やっぱりいいな」
「メリル四姉妹なんて呼ばれてるけど、ちびっこは論外だろ、やっぱマリアさんとソフィーさんだよ」
「だな」
チッ。まあ、こいつらのようなやつはいい。問題はこっちだ。
「よう、ねえちゃんたち、かわいいなあ、オレたちとおしゃべりしようぜー、こっちの方でさあ」
「やめてください。仕事中ですので」
「まあまあ、ほらよ」
肩を抱きやがった。アウトだ。
ブランとクリフと目が合う。
「お兄さんがた、ちょっーといいですかね」
クリフが声をかけ、オレたちの体で囲いこみ、そのままギルドの裏手に連れていく。仲が良さそうに見えるだろ。さて、
「姉さんがたに、声をかけんじゃねえよ」
「はあ?小僧っ子が何いってやがる、美人なんぞ声をかけられてなんぼだろ」
「やめろって言ってんだが」
「はっ、バカバカしい、行くぞ。さあ、キレイなねえちゃんとお茶だお茶だ、あ?がはっ、ぐっ、クソッ、」
「や、め、ろって言ってんですがね、お兄さんがた、続けますか」
「ぐ、苦し、う、わ、わかった、かはっ」
ドサッ。釣り上げていた体を落とす。
「メリルの子羊たちには、手を出さねえ方がいいですよ、あー、もちろん、声もかけんな」
「クソッ、覚えてろよ!」
チンピラかっつーの。
ちょっと手が汚れちまったか。
「クリフ、ザッシュはどうした」
「受付にいたから、ちょっとまいてきた」
「バレたくねえからな」
「たぶん、わかってっとは思うがな」
「やれやれ、ギルド長がいないとなると、冬だというのにすぐ虫がわく」
「あー、副ギルド長」
「害虫駆除ご苦労さまでした、二コ」
「あの程度ならいいんだけどな」
「会議が終わったら、もっと虫がわくでしょうねえ、よろしくお願いしますよ」
オレが育ったのは、南領、西よりにあるオルドだ。山に囲まれたダンジョンのある街で、荒んで気が荒いやつがたくさんいる。父親は冒険者だったが、飲んだくれてダンジョンで死んだ。母親は冒険者とどっか行っちまった。アーシュのような、親に大事にされていた孤児とは違う。すぐに飢えた。メリルのように、解体所の手伝いなんて温情はねえ。年より体だけはデカかったから、パンのためには何でもやった。魔物と戦う冒険者は意外に対人の技術はねえ。時には冒険者もカモってやった。その時、ブランと知り合って一緒にいるようになったんだ。
ある時、キマグレを起こした冒険者にメリルに連れてこられた。けど、そいつもすぐにいなくなったがな。悪さをしてる時に、副ギルド長に捕まった。
「悪そうな顔ですね、しかたない、ザッシュのとこに入れましょうか」
そこに光があったんだ。
きらきら輝く金の髪。青い目。優しい微笑み。ありきたりのことしか言えねえが、キレイだった。あさつゆのようにきらめき、ひだまりのように暖かく、午後のようなおだやかな光。
そして冒険者になったザッシュを心配し、曇る顔。お願いだから、笑っていてほしい。
「なら、お前もオレと一緒に、ザッシュを守れ」
クリフに言われた。クリフにとっての光は、ザッシュだ。ザッシュはみんなを守ろうとするが、世の中そんなにキレイじゃねえ。
「ザッシュは、空を舞い、遠くを、前を見つめる鷹だ。オレは、足元で匂いをかぎ、敵を追い払う犬でいい」
スラムのやつは、希望がねえから、一度見つけた光に執着するんだろうか。リカルドとディーエは、まんまザッシュとクリフだった。
ならばオレは、闇夜にネズミを狩るフクロウになる。夜の魔物を、光のもとにさらさないようにしよう。
なあ、アーシュ、オレはお前には感謝してるんだ。メリルの子羊の一員として認められて、今まで見てるしかなかった光に、手を伸ばす力をくれた。
さあ、オレの光に手を伸ばそう。
マリア。今はまだ、届かない。
 





