後悔の後で
今日3話目です。
「ダン、アーシュ、ギルドのほうは」
と領主さま。
「はい、あさってから許可がおりました」
「明日は調理場を貸してください」
「よかったな、で、東門隊長と副隊長が来ておるが」
「何の用でしょうか、お荷物など放っておけばよいのに」
「そう、木で鼻をくくったような言い方をしてやるな、謝罪だそうだ。ここではなんだ、別室を用意しよう」
「外で十分だと思います」
「アーシュ……」
「いや、すまない、すべてこちらが悪いのだから。外では君が風邪をひくだろう、ターニャはすぐに熱を出したぞ、よければ部屋に案内してもらえないか」
「では、こちらへ」
王都はメリルより北よりだ。晩秋と言えど、夜は冷える。領主さまは、応接室に暖房を用意してくれていた。
ソファーに、リカルドとディーエと向かい合って座る。領主さまが左に、マルが右に。ソファーの後に、セロとウィルが立つ。入口の小テーブルにマリアとソフィーがひっそり座り、ザッシュたちは壁を背にして立つ。ダンはいなかった。
「万全の布陣だな」
「ディーエ!」
そっぽを向く。ふん、ヘタレが!
「この通り、ねじ曲がってはいるが、先日の件は反省している。すまなかった」
「……」
「ディーエ」
「すまなかった」
「……謝罪を受け入れます」
言いたいことはたくさんあるけど、とうちゃんとかあちゃんなら、苦笑して「いいのよ」と言うだろうから。
でも、気まずい……
「お茶を持ってきました」
「ダン!」
「ほう、これはめずらしい、いただこう」
「「!甘い」」
「甘いものが苦手でないとよいのですが」
「温かくて甘い。疲れた体にしみ入るようだ。これは君の商会で扱っているのか?」
「いえ、これはオレとアーシュと2人で考えたものです」
「なんと!騎士の休憩にも取り入れたいものだが」
「これを、あさってから夕方に、西ギルドで販売するんです」
「東ギルドならよかったのだが」
なごんだその時、ヘタレが声を出した。
「あー、トニアとターニャは残念なことをした。本当に、すまなかった」
「……はい」
「知らなかったとはいえ、2年も1人でよく頑張ったと思う」
とリカルド。
「学院を受けたということだが、どうだろう、来年から王都なら、私たちに後見させてくれないか。もちろん、辺境伯も大事にされているとわかってはいるが。ターニャとトニアには、何もしてやれなかったが、今、君のことなら見てやれる」
驚いた。ありがとう、と言うべきなのだろう。見知らぬ他人をここまで気にかけてくれる。でも、なにかが私のことばを奪う。
その時、肩に手が触れた。マリアだ。ソフィーはマルの肩に手をかけている。マリアの口が、笑って、と動いた。
「リカルド、ディーエ、聞いたことはないか、メリルの最近の噂を」
「辺境伯、メリルは今、話題の中心です。そう言われましても」
「では、メリルの子羊館は」
「おお、それならば。丘の上の子羊館、美人4姉妹が出迎える、若い冒険者のあこがれの宿屋、です、な……もしや」
はい、にっこり。
「では、子羊レーションや子羊ランチは」
「いずれもメリルでしか手に入らぬと噂の……それもか」
「そう、彼らがメリルの誇る子羊たちだ」
領主さまは続けて言う。
「東門隊長の後見の話、辺境伯としても何よりありがたい。しかし、おそらく君らは、学費ですら頼るつもりはないのだろう?」
みんなうなずく。
「謝罪したのだから、これ以上負担に思うことはないのではないか」
「しかし、ターニャとトニアの幼なじみとして……」
そうか、そうなのか、リカルドとディーエは、私を通して、トニアとターニャを見ているだけ。私を見ていないから、うなずけないんだ。
「アーシュは1人でも立っていられる。立っていられない時は、オレたちが守ります」
「セロ……」
「オレが、だろ」
「ディーエ!」
「必要ないなら、いいさ、でも、いつでも頼れ!本当にすまなかった」
ヘタレじゃなくなった!でも、ありがとう!
「では、遅い時間にすまなかったな」
とリカルド。
「いえ、ありがとうございました」
「また、顔を見にきていいか」
なんで?
「あさってから、お茶の販売か、がんばれよ」
頭をなでられた!
「また見に来てやらんこともない」
けっこうです!あっかんべーだ。
「なっ?」
そんなにカンタンに、許してやらないんだから!
「セロ、ダン」
「ザッシュ、わかってる」
「リカルドには気をつけないと」




