いざ、西ギルドへ
今日2話目です。
呼ばれて部屋に入る。
夕方の陽の差す窓辺に、細身の、背の高い男が立っている。
「そこにかけたまえ」
「失礼します」
「王都西ギルド長のグレアムだ」
「メリルから来ました、ダニエル=グリッターです」
「同じく、アーシュマリアです」
「さて、グレッグによると、臨時の販売所を開きたいそうだが」
「はい、今日はお話の約束を取り付けられればと思ってきました」
「現在、ギルドでも併設の食事どころで、飲み物は飲めないことはないが」
「はい、私たちがメリルでやっているのは、受付のすぐあと、その場でたったまま飲める形です。また、甘いお茶冷たいお茶も提供しますので、疲れた冒険者に最適です」
「甘いお茶など想像もつかないが」
「ですから、今日は次回の約束をお願いし、その時に見本を持ってくるつもりでした」
「なぜ今日持ってこなかった」
「……学院の試験を終わってすぐに来ましたので」
「……ああ……」
「……一週間だけやってどうするんだ」
「好評であれば、来年からは常駐で販売できればと、考えています」
「こちらにメリットがないな」
「ギルドにかかる負担は、場所の確保だけです。それも、売店の隣の一角を貸してくれれば十分です。その手間で、冒険者がすこしでも気分がよくなれば、良い働きが期待できるばずです」
「良い働きか」
「逆に西ギルドは何を求めていますか?」
「何を?」
「冒険者の人が、どう快適になるかです」
「そんなもの、自己責任だろうよ」
「よい食事と飲み物は、体を強くし、心をやわらげます。特に独身のひとにとっては、自分で用意する必要のない食事や飲み物はありがたいはずです」
「ふん、まあ、いい、大きな損はないだろう、やってみるがいい」
「あ」
「なんだ」
「メリルのギルド長と同じこと言った」
「やつと一緒にするな。ところで子羊レーションの販売ということだが」
「それはアーシュが」
「お前が?」
「はい、ついでに出張販売してこいと言われて来ました」
「メリルに行ったやつが噂してたやつか、長持ちするという」
「はい、1ヶ月ほど持ちます」
「しかし、メリルからもってきても、一週間はたってるだろう」
「だから、売る前日に焼き上げて来るつもりです」
「まて、誰がだ」
「私がですが」
「お前がか?」
「はい」
「お前がメリルの子羊か……」
「メリルで子羊館という宿屋をやっています。メリルにお越しの際は、ぜひご宿泊を」
「……取りあえず、初日30用意できるか」
「大丈夫です」
「いつからできる」
「あさってからなら」
「では、4時から6時まで、2時間の営業を許可する」
「ありがとうございます、あの、受付の方にも、営業のことは言っておいて貰えますか、門前払いは困るので」
「クックッ、アリスにやられたか」
「はあ、まあ」
「あいつは早とちりでな、まあ、やってみろ」
「ありがとうございます!」
「ノア、やったよ!」
「許可が出たか、よかったな」
「アリスさんも、ありがとうございました」
「え、まあ、いいのよ」
「あさっての夕方から一週間、お茶の出張販売に来ますので、よろしくお願いしますね」
「お茶の?許可は出たのね?」
「はい」
「ならいいのよ、荒くれ者が多いから、気をつけるのよ」
「はい!」
「私も寄らせてもらおう、楽しみだな、さて、帰ろうか」
「よく受付を懐柔したな」
「早とちりってギルド長言ってたから。案内断られたけど、言ってることは子どもの心配ばかり、いい人だよ?」
「そうか、いけ好かぬ女とばかりと思っていたが、私もまだ経験が浅いな」
「女は難しいのよ」
「クッ、なるほど!」
領主館には、東門隊長と、そしてあのいけ好かないやつが待っていた。




