ダンのターン
9の月から、試験勉強が始まった。
と言っても、範囲はすべて終わっている。それぞれの苦手な教科の復習と、作文の練習だ。
試験の内容は、国語、算数、地理、歴史、作文だ。つまり、小学校の学科そのままである。作文は、配点は低いので、四教科がきちんとできていれば大丈夫らしい。採点する教師の娯楽という意味しかないという噂もある。正直、書くことにはみんななれていなかったので、そこを重点的にやった。
ダンも夕方ダンジョンに来て、そのまま夜までいることも多くなった。
最近、ダンがよくギルドにいるなと思ったら、
「なあ、アーシュ」
と声をかけられた。
「なに?」
「ダンジョンから出てくる人な、受け付けのあと、かなりの確率で水を飲むんだ」
「うん、重労働だよね」
「……飲み物って、売れないかな」
「……飲み物……」
「父さんたちな、子羊館に行くと、必ず茶を飲んでるだろ」
「大人はお茶好きだよねー」
「けど、アーシュにいれさせてるだろ?」
「そうそう、まったくね、自分では入れないよね」
「ダンジョンから上がったら、自分で入れなくても、すぐお茶を飲めたら……」
「……うれしいはず……」
「……な?」
「でも、お茶ってお高いでしょ?」
「家のメイドに聞いてみたらさ、庶民もお茶はよく飲むんだって。質のいいものではないらしいけど。なんでも、やかんで煮出して、苦さとパンチを楽しむとかなんとかって」
庶民って(笑)。そういえば、ダンもおぼっちゃまか……
「だからさ、アーシュ、何が売れるか、一緒に考えてくれないか?」
「面白そう」
「まずは、庶民のお茶を買ってこよう」
庶民って(笑)。
庶民のお茶は、アッサムを渋くしたような味だった。これを飲むと後味がさっぱりしてよいものではある。アッサムなら、あれだ、ミルクティーだろう!ただし、お砂糖は高いから、廃蜜糖になるが、くせが強いのでどうだろうか。
廃蜜糖と、コミルを加えて、いざ!
「「おいしい!」」
お茶の風味が強いから、廃蜜糖に負けないのだ。
では、領主様のお茶に廃蜜糖は?
「「えぐみが残るね」」
大人には、甘すぎるだろうか。
「まだ9の月だからね、冷たい水の方がいいのかもしれないけど」
と、ダン。
「それだ!」
去年からがんばって開発している水を冷たくする魔法、発動!
「どう、ダン!」
「!おいしいよ、ごくごく飲める!」
「これなら、お砂糖を入れなくても」
「冷やしてみて!」
「冷えたお茶もおいしい!」
「これをやかんでたくさん作って」
「どうやって持っていく?」
「魔力水筒あるだろ?」
「あれか、結構入るね、お茶を入れたら冷える水筒あればいいのにね」
「それもだ!」
「カップはどうする?」
「ギルドの朝食用のものを借りれないかな」
「そうすると30個くらいかな、洗いながら売れば」
「「試しにやってみようか」」
ギルド長ギルド長。
「なんだ、アーシュ、おっダンじゃねえか」
はい。今日はダンからのお願いです。
「ほう?ダンジョン帰りに飲み物?ありゃあ嬉しいがな、エールとかな、酒じゃない?お茶?あー、どうだろうな」
「喉乾いている人がたくさんいるようでした。独身の人は自分では中々お茶も入れないと思うので」
「なるほどね」
「これ!試しに飲んで見てください」
「今暑いんだけどな、まあいい、お?これは……」
「……うめぇ」
でしょう?
「なに、砂糖とコミルを加えて冷やした?どうやって冷やした?生活魔法?アーシュ、お前か……まあ、失敗しても大きな損はないだろ。ギルドの茶碗もつかわせてやるから、まあ、やってみろ」
コミルと廃蜜糖入りお茶、300ギル、普通のお茶、200ギル。冷たいのと熱いので、あわせて4種類。水筒代、4万。赤字覚悟で、各20杯ずつ用意した。
さあ、売り出しだ!




