アーシュ9歳8の月
今日6話目です。
涌きの7の月が終わった。
8の月は、子羊レーションを作らされつつも、やっと落ち着いた。ダンの授業も、小学校上級まで終わり、資格はないけど、学力はついたと思う。ダンは来年からは王都の学院に行く。まあ、試験があるけど、ダンの学力なら何の問題もないってノアが保証してた。さみしいけど、がんばってほしい。
月の終わりのことだ。珍しく、領主様から、子羊館の孤児全員集まるよう、連絡があった。と言っても、子羊館の食堂だ。
当日夜、領主様だけでなく、ダンもダンのお父さんもいる。ギルド長もだ。
「みんな知ってると思うが、来年から、ダンは王都の学院に行く予定だ」
「試験に受かればですが」
「謙遜する必要はない、そこでだ、みんなはどうする」
「「「え……」」」
「いや、オレたち、小学校行ってないんで」
「試験に受かりさえすればいいのだよ、知らなかったのかい?」
……知らなかった……
「それに、オレたちは来年14歳です。12歳で入学ではないですか」
とザッシュが言う。
「正確には、入学した年に、10歳から14歳になる者だ。小学校上級卒業で来るものがほとんどだがね」
「では、オレ、行く資格はあるんですか」
「あるとも。ザッシュとクリフだけではない。アーシュ、マル、君たちも資格はあるんだよ」
今9歳、来年10歳、確かに!
考えたこともなかった。
「けど、けど、オレたち親が」
「王都には地方からも学生が来る。寮に入る子も多いな。孤児だから、入学してはいけないという規定はない」
「お金がかかるって聞いた」
「そうだ。1人1年、およそ100万ギル。寮に入るなら、安い部屋で50万だったか、食費込みだな」
「それが3年間……」
「王都への行き帰りの馬車代や服もいるな」
「……」
「オレ、オレは行きたいです。アーシュたちと暮らして、冒険者をやって、ためたお金がある、休み期間に冒険者をすれば、学費はなんとかなる。オレ、もっと勉強したい!みんなが許してくれるのなら」
「ザッシュが行くなら、オレもだな」
「ザッシュくんとクリフくんは決まりか」
「私は、勉強はしたいけれど、宿の仕事を離れたくない」
「私もです」
「マリア、ソフィー」
「オレは、勉強は付き合ったけど、これ以上したいとは思わない。冒険者を始めて、面白くなってきたところで、中断したくない」
「オレもです」
「ニコ、ブラン」
「セロとウィルは?」
「……」
うつむくセロの肩を、ウィルが抱く。
「勉強はしたい、学院も行きたい、けど、冒険者になるために努力してきたことを、簡単には捨てられないんだ」
私も、マルも、ダンもセロのそばに行き、抱きしめる。
遠くに行きたいんだよね、そのためには冒険者になるのがいい、でも、ノアが来て、道がそれだけじゃないって気づいてしまったんだよね。そしてセロは、私のこともマルのことも、ぜったい見捨てられない。
「ははは!」
「領主、意地悪が過ぎますよ」
「え?」
「学院にはね、学外就学制度というものがあるんだよ」
「学外就学制度?」
「学業優秀で、王都での通学が難しい者について、各地方の領主の推薦があれば、試験により入学を許可する。ただし、8の月1ヶ月間、学院にて授業を受け、勉強の成果を見せなければならない」
「それって、普段は冒険者をしながら勉強して、8の月の1ヶ月だけ、学校に行けばよいということですか」
「その通りだ。もちろん、君たちが希望すれば、全員分領主推薦をだそう」
「ウィル、アーシュ、マル、試験を受けよう!オレ、勉強したいんだ!」
「オレはいいよ、行きたいの知ってたしな」
「マルはどっちでもいい、勉強は特に好きではないけど、みんなと一緒にいれるならそれでいい」
「アーシュは?」
「うーん、学院は考えていなかったからなあ」
「「「考えてなかったのか」」」
だって前世で、16年も行ったし。
「帝国語は興味ある」
「行こう!」
「いこうか」
「よし、では、ダンとザッシュとクリフは王都で通学」
「はい!」
「セロとウィルと、アーシュとマルは学外就学」
「マリアとソフィーは」
「学外があるのなら、受けてみたいです」
「合格すれば、領主として奨学金も考えよう。1人でもメリルに戻って貢献してほしい」
「学院を卒業すれば、ギルドの職員という就職口もある」
「試験の成績がよければ、学費の免除もありますよ」
「まずは、11の月の試験に向けて、勉強ですね」
「はい!」
学院なんて、考えてもいなかった。
手の届かなかった世界が、近付いてくる。




