アーシュ9歳5の月
今日7話目です。
A級パーティのあかつきは、宿が気に入ったらしく、他の宿が空いても移らなかった。ダンジョンアタックで何日もいなくても、
「帰ったとき、ここに来たいから」
と部屋を予約しておいてくれる。
ギルド長は、なぜか部屋をはあくしており、残った牧師館の2人部屋にすら、客を押し込もうとする。
個室が三つ埋まると、30万、ふたり部屋が埋まると10万の利益がひと月に出る。マリアたちと半分にしても、17万プラス20万、宿屋だけでも、ひと月に37万の利益になる。
1度利益を生む流れを作り出したら、あとは勝手に儲かっていく。来てくれた人がおいしいごはんとお風呂で元気になって、冒険者として元気に活躍してくれたら、それでいい。私は、もう、あまり考えず一生懸命過ごすことにした。
「最近、朝練気合い入ってない」
とセロには怒られる。
「まあまあ、ちびちゃんだしね」
とノアはかばってくれるが、しかたない、セロにがっかりされたくない。セロは来年の冒険者に向けて、かなり本気で取り組んでいた。
また、4の月も半ばをすぎると、小学校の上級の最終学年になったダンの、授業が復活した。牧師館の黒板が大活躍だ。
上級の範囲は終わらせたとのことで、私たちにも授業をどんどん進ませる。夕食後は、食堂が学校になっていた。
それが宿泊者にも好評で、一緒に参加するものもいれば、「ダン先生、それ違いまーす」
とからかうものもいる。
かと思うと、ノアやクーパーが、学院の授業を先取りして教えてくれたりする。魔法師にはやっぱり学院出身の者が多い。
やっと余裕のできた昼には、なぜか領主様やギルド長やダンのおとうさんがやってくる。
「疲れてんだよオレは、休ませろ」
といって勝手に休憩しているギルド長。
「新しい茶葉なんだがね」
と言って、私にお茶をいれさせて、なんだか書類仕事をしている領主。
「美しいお嬢さんは、世界の宝だね」
なんて、いつもの調子のダンのお父さん。
その横で、私はキルトづくりをしている。
マルはやっぱり、市場をかけずりまわっている。
あいた時間は、ベリーつみとジャムづくりもかかせない。
そんな5の月のこと、珍しく大人3人そろっているのを見て、ふと
「来年から荷物持ちの仕事だから、こんなふうに過ごせなくなりますね」
と、言った。
「え!アーシュちゃん、荷物持ちになるの?」
「はい、セロとウィルとマルとの約束なんです。一緒に冒険者になるって」
「なんともはや、てっきりこのまま宿屋を続けて行くものだと」
「そうだよ、アーシュちゃん、収入もちゃんとあるのに、なんで荷物持ちなんか」
「一緒にいるって、セロと約束したから」
「罪なやつだな……」
でも、ふと思う。
「冒険者になって、大人になってセロが誰かお嫁さんもらったら、帰ってきてまた宿屋をやろうかな」
「「「……」」」
(嫁って、お前以外ないだろ)
(あんなに牽制しまくってるのに、気づかれてないんですね、ダンの付け入る隙がありますかね)
(親戚によい年頃のやつがいるのだが……)
「あ、来年以降も宿はやりますよ、ただ、マリアとか、奥さんたちとか、人に任せる部分が多くなるだけですよ」
「安心したわ」
「丘の上の子羊館だそうですからね、若い冒険者の泊まってみたいところとして、有名になっていますよ。安くて居心地がいい、おかみはかわいいメリルの四姉妹ってね」
「なんですかそれは」
「ホントのことだよ」
ダンのお父さんは、口がうまい。
「でもとりあえず今は、こうしてのんびりしていましょうか」




