アーシュ8歳13の月の賭け
今日5話目です。
さて、決意の実現のために、私は賭けに出る。
「石けんを、使うの」
「石けん?確かに評判がいいけど」
「次の日曜日、手伝って?」
「「「わかった」」」
ギルド長ギルド長。
「なんだ?」
大切なお話があるのですが。
「言ってみろ」
えっと、できれば、ダンの父さんと、領主様と、解体所の工場長と、その奥様方に、聞いてほしいんです。
「……なにを企んでる?」
人聞きの悪い!損はさせませんよ。
「……悪徳商人か、お前は」
ちがいますって。
「大切な話なんだな?」
はい。
「まあ、お前らには結構無理させてるからな」
わかってたんですね。
「まあな、っていやいや、そんなことは、ゴホゴホ、とにかく、調整してみっから」
13の月一週目、7の日に決まった。
前日は、全員でピカピカに体を磨き立てた。特に私とマルは、見本になる。石けんで髪を洗い、酢でサラサラに、最後にオリーブオイルでつやを出す。つやつや子羊ヘアだ。黄色とペールグリーンのワンピースを着て、いざ領主館へ!
領主館は、はじめてだ。本物の執事に、おそらく応接室に通された。既に、みんな待っていた。
思い切り、息をはく。
「今日は、集まってくれて、ありがとうございます」
子供らしく。
まずは領主様だ。
「やあ、はじめまして。魔石はいつも助かってるよ」
「こちらこそ、教会を使わせてくれて、ありがとうございます」
ダンの父さんだ。
「セロくん、アーシュちゃん、元気かい?」
「おかげさまで」
工場長だ。
「獣脂は順調だぞ、手伝いに来い」
「はい!」
ギルド長だ。
「……」
「よろしくお願いします」
「さて、今日は提案とお願いに来ました」
「提案とは何かね?」
「はい、まずはこれを」
「石けんか!」
とギルド長。
「石けんとは、何かね」
「汚れをとるものです」
「セロ、お願い」
たらいと、石けんで手を洗う見本を見せる。
「このように、油汚れでもきれいになります」
「ほーお」
「みなさん、やってみませんか?」
「是非に」
「まあ、アワアワでつるつるになるわ」
「手だけではなく、体中につかえますし、洗濯にも使えます」
「ずっと気になってたのだけど、あなたがたその髪……」
「はい、石けんであらって、ダンのお父様のところのオリーブオイルで仕上げてあります」
「まあ、ツヤツヤね……」
「あなた、これほしいわ!」
「私もです!」
「肉の油も取れそうだな」
「もちろんです」
「で、きみ、アーシュくんだったか」
「はい」
「それを売りに来たのかね」
「ちがいます」
「ちがうって、きみ、では何をしに」
「提案、と言いました」
「提案……」
「はい、石けんの製法を公開します」
「製法……なるほど、そこでお願いか……」
「はい」
つかみは、オッケーだ。
「では、改めて聞こうか」
「この二つの石けんを比べてください」
「こちらは、少し獣脂のにおいがするな、こちらは、オリーブオイルか」
「その通りです」
「なぜふたつを?」
「石けんの原料はお察しの通り、油です」
「なるほど」
「原価に、差が出ます」
「ふむ」
「獣脂は普段づかいに、オリーブオイルは、高級志向で売れるはずです」
「奥様、オリーブオイルの石けんの匂いはどうでしょう」
「さわやかね」
「これに香りをつけることもできますよ」
「まぁ」
「いかがでしょう」
「これは、高くても買うわ。そして、お友だちに自慢するわ」
「余った獣脂と」と工場長。
「オリーブオイル」と、ダンのお父さん。
「工場を作って雇用も生まれる……」と、領主。
「王都で、流行ると思うわ」と奥さんがた。
「で、お願いとは、何かね」
「まずは特許料です」
「通常、3割だが、完全なオリジナルだ、釣り上げる気かね?」
「逆です」
「逆?」
「1割に下げます」
「アーシュちゃん、ちゃんと考えるんだ、大事なことだよ!」
「はい、考えました。1割に下げる代わり」
「条件か、なんだ?」
「教会と牧師館の、改装をお願いしたいのです」
「それだけかね……」
「来年3の月までに、住居と宿屋として整備してほしいのです」
「アーシュちゃん、おそらく、特許料は、その何倍もいくよ?その条件では、アーシュちゃんが損をする!」
「はい、将来的には、そうでしょう。でも、私たちには、この先3年間に、教会がすぐに必要なんです」
「特許料を担保に、貸付もできるが……」
「いいんです。1割でも、大人になるまでに、十分な財産になるはずです。今の希望の実現と、そして、すこしでもメリルの役に立つのならそれで。それに、友だちの父さんだし……」
「アーシュちゃん……」
「気に入った!それで手を打つ!」
「ありがとうございます!」
賭けに、勝った。
「じゃあ、アーシュちゃんとマルちゃん、おばさまたちと、別の部屋に行きましょうか」
「え?」
「髪の秘密を知りたいわー」
「え、でも」
「おやつもあるわよー」
「いく!」
「マル……」
「あ、まだお話が、あー」
「あきらめろ」
「えーー」
「あれが、子羊たちか」
「はい」
「8歳か」
「はい」
「何者だろうな」
「さあ、いい子たちです」
「楽しみだな」
「ええ」




