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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国の先に子羊が見るものは編

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280/307

アーシュ16歳9の月 セロの魅力

兵舎に戻るとダンがいて、町長の屋敷に食材や臨時の下働きをする人を手配してくれていた。さすがだ。


「もっとたくさんの兵を王都から送ってくれたのだが、この小さい町ではとても滞在しきれないのでな。ダースで待機してもらっているのだよ。それも頭が痛いのだが」


コサル侯はぶつぶつ言った。コサル侯の領地で起きたことだから、それは大変だろう。夕方にはセロやウィル、マルも戻ってきて、マッケニーさんが来るということに微妙な顔をしていた。マッケニーさん、ちょっと子どもが好きすぎだもんなあ。


「とりあえずは、試練は今晩だろう」


ケナンが何気なくそう言った。


「試練?」

「今晩?」


ケナンは仕方がない奴らだという顔をして首を傾げる私たちを見た。


「王族が来ている。侯爵はじめ爵位持ちの客人が滞在している。足すとどうなる?」

「晩さん会……」


ダンのつぶやきに、一斉にげんなりした顔をしたと思う。


「いや、俺商人だし」


珍しくダンが逃げようとしている。


「王族と顔がつながるかもしれんのだぞ」

「はあ。王族は若い王子だからいいけど、あのめんどくさそうなやつがなあ」


確かに。


「私もむしろ裏方で」

「私も」

「私」

「キリクの姫は是非にと。琥珀の姫もと仰せであった」


だめか。女子は全滅だ。


「ま、人んちだからな。家主に敬意を払わないと、これから自由にさせてもらえないだろうしな」

「俺も出る」


一つの国を人んちって言うのもすごいし、ウィルとセロは積極的だ。いろいろお願いしよう。ところで私は気になっていたことがある。


「ねえ、ケナン、サラとマルがキリクの姫って言われてるけど、そんなに珍しいの?」

「珍しいぞ。キリクの女性はめったに国から出ないからな。つややかな濃い金髪に緑の瞳。会おうと思えば会えない距離ではないのに、めったに出会えない憧れだな、フィンダリアでは」


珍しくケナンが饒舌に語った。そこにマルが真面目な顔でこう言った。


「じゃあ私と出会えて幸運だった」

「それは……」


ケナンの目が泳ぐ。確かに最初会った時は目を引かれて、かなり嬉しかったのは認める。太陽のように豪奢にきらめく金髪と緑の瞳、しかも一人はきりっとしており、一人はたおやかで、どちらが好みか論争が起きそうなほどの美人に、自分の幸運をかみしめたものだった。しかしその一時間後には兵をこてんぱんにのしていたではないか。一人はなぜだか、屋台でドーナツを売っているし。


夢は破れたのだ。しかし、説明しようにも、


「幸運だった」

「はい」


そう繰り返されて頷くケナンは、口下手だった。サラはくすくす笑っている。マルもサラも案外自分の価値をわかっていて、しかもまったくおごらない。ウィルも外見のことは言われ慣れているから、むしろマルやサラの見た目だけをほめる男は毛嫌いしているくらいだ。ケナンくらい正直でちょうどいいのだ。


結局はただの顔合わせの夕食会だったのだが、兵舎の副官も町の代表として無理やり連れて来られ、結構な人数での食事となった。小うるさいロイスも憧れのキリクの姫の前では口数も少なめで、若い王子を囲んでの和やかな一時となった。


では、誰が目立っていたか。なんとセロである。ダンジョンの話で王子を引きつけている。


「ではその時あなたはどうしたのだ」

「一階は魔法師のウィルとアーシュが露払いをしてくれた。しかし二階は未踏の地だ。正直どんな魔物がいるかわからない」


王子は固唾をのんだ。


「またウィルに魔法を打ち込むように頼むのが正しかったんだろう。だが俺は思ったんだ。俺は剣士だ。そして冒険者だ。まだ誰も踏み込んだことのない場所に一歩を踏み出す。こんなに楽しいことはないじゃないかってね」


男性陣は感極まったように頷いている。


「だからウィルもあえて魔法を封じ、剣を取った。俺とウィル、そしてケナンは一斉に一歩を踏み出したというわけだ」


王子はケナンのほうもキラキラとした目で見た。自分の部下だ。このような立派な冒険者と共に一歩を踏み出したことが誇らしかった。


そんな調子で、


「セロ殿とウィル殿にはぜひユスフと。そう呼んでもらいたい」

「それなら俺たちだって呼び捨てに」


というくらいお互いに親しくなったのだった。主が呼び捨てで、ロイスだけそうでないわけにもいかないので、自然とロイスも呼び捨てになった。


「明日は一緒にダンジョンに視察に」


そう約して町長の屋敷を出た。


「セロ、すごかったねえ。あんなに話すの珍しかった」

「まあな」


セロはちょっと疲れた顔でそう言った。


「ユスフはいい奴だけど、社交って疲れるよな」

「うん。でも、セロとウィルのおかげで楽だったよ」

「そうか、がんばったかいがある」


セロがニッコリと笑った。そこにダンが水を差した。


「いいんだよ、アーシュ、こいつ下心があったんだから」

「下心?」


聞き返す私にダンはニヤリとした。


「ダン」


遮ろうとするセロをかわし、ダンはさらに言った。


「だってそうだろ? もともと黙ってたってこいつのそばには男どもが寄って来る」

「気持ち悪い言い方するなよ」


確かに、どこの兵舎に行っても騎士や兵に囲まれている。


「それをあんなに魅力全開にしたら、誰だって落ちるだろ」

「落ちるってお前、その言い方」


いやそうな顔をするセロを無視し、ダンは私にこう言った。


「聞いたぜ。ユスフ、アーシュの手を離さなかったって」


確かにそうだけど、誰から聞いたの? コサル侯?


「それを聞いたセロが、ユスフがアーシュに気をとられる隙を作らないようにしたってわけ」

「チッ」

「セロ、そろそろアーシュにも自覚させないと」

「わかってる」


そんなに自覚がないだろうか。


「ユスフ様は弟のようなもので」

「アーシュ」

「なに?」


セロは足を止めて私に向き合うと、こう言った。


「14の時、俺はもうアーシュとの未来を決めていた」

「14の時」


そうだ、今日ちょうど思ったのだった。セロが13、4のころどうだったかって。


「14歳はもう子どもじゃないんだよ、アーシュ。ユスフを弟って考えることは、14の頃の男の決意を甘く見てるってことなんだ」

「セロ……」

「フィンダリアがキリクに憧れる国でよかった。それでもアーシュは目立つんだ。気を付けてくれ、いろいろと。俺が平気ではいられないから」

「うん」


いつの間にかみんなは先に帰っていた。九月の月あかりのもとで、セロはそっと私を引き寄せた。


「セロ! ユスフ様がもう少しお前の話を聞きたいと、セロ?」


夜道でもやっぱりうるさいロイスに、セロはため息をついて上を見上げた。


「アーシュ、月がきれいだな」

「きれいだね」


どうやら魅力全開にしすぎたみたい。セロはロイスに声をかけた。


「アーシュを送ったら戻るから。屋敷で待っててくれ」

「わかった」


兵舎の門から一人で戻ってきた私を見て、みんなあーあという顔で肩をすくめた。


私のせいじゃないからね。


ちょっと忙しくなってきました。更新途切れたら忙しかったらしいと思っていただければ助かります!

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― 新着の感想 ―
[一言] 思わぬ素敵な作品に出会えて感謝感激です。 280話後半、「月がきれいだな」ってセロとアーシュが二人で会話してますが、ここで、この会話ですか!! やはり意味は「I love you」なんでしょ…
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