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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国の先に子羊が見るものは編

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アーシュ16歳8の月 腕試し

時間をもらって30分。かかったのはそれだけだ。お茶を飲む暇もなかったのか、少しあわてた様子で三人は戻ってきた。


「結論は出ましたかな」


コサル侯はにこやかに聞いた。


「ええ」


セロが返事をすると、フィンダリアの二人の顔が少しこわばった。こいつが相手なのかと。まあ、そうだよね。今までの話ぶりから、どう考えてもセロが一番問題児だもの。私は少しおかしくなった。でもこうと決めた時のセロはただの問題児なんかじゃない。さあ、ご堪能あれ。


「保護者を受け入れましょう」


フィンダリアの貴族二人は目に見えてほっとしていた。


「ただし、二人。それ以上はいらない」

「なっ」


ケナンが立ちあがった。セロは落ち着いたようすで座ったままだ。


「先ほど説明しただろう。二人などではとても手が回らぬ」

「どうしてですか」

「それはだから」


ケナンはいらいらと言葉を重ねようとする。それを制してセロはこう言った。


「保護者と、コサル侯は言われた。正直に言い替えて、監視と言ってもいいでしょう。では、何を監視なさるおつもりか」

「それは」


ケナンは言葉に詰まると、コサル侯のほうを見た。コサル侯はため息をつくと、


「何を監視してよいかわからぬから、とりあえず最低限必要な護衛と供を用意しただけのこと。それを受け取ることを拒む気持ちのほうが理解できぬ。むしろ何か不都合があるのかと痛くもない腹を探られるのはあなたたちのほうだ」


と言った。セロは落ち着いて、


「そうであれば、あなたたちの考える都合の悪いこととはなんですか。あるいは最悪の事態、とは」


と聞き返した。


「それはその、フィンダリアの言葉も慣習も知らず、帝国貴族として、その、横暴に振る舞うとか」


セロは片方の眉をあげて先を促した。


「そもそもある国の貴族が、別の国の隅々まで見て回ろうというのも胡乱であるし」


セロは両手を広げた。さあ、他には?


「フィンダリアは平和な国だが、帝国には悪感情を持つ者もいないことはない。そなたたちが怪我でもしたら、国際問題になる」


残りは?


「まあ、考え付くのはそのくらいだが……面倒くさい。中央に聞いてくれ、まったく」


コサル侯はちらりと本音を漏らした。ケナンは隣で肩をすくめた。上の考えていることはわからないって? ふむ、とセロはこう言った。


「つまり、問題は二つ。一つ、俺たちが何をするかわからない。二つ、俺たちが危険な目に遭う可能性をなくしたい」

「そ、そういうことになる、かな」

「わかりました」


セロは姿勢を正した。


「まず、私たちはフィンダリアの言葉には不自由がない。フィンダリアの友人がいたものでね」


エルクさんが誇らしげな顔をした。


「また、例えば、俺たちが何かをしようとしたとして、護衛が何人いても止められないのではないですか。身分の問題で」

「それは確かに、あなた方の良識に頼るほかはないが」

「それに、他国のことを探りたければ、目立つ貴族ではなく、目立たない専門家に探らせているはずですが」

「そ、それも確かに」

「保護者が必要と判断されるほどの年の若者に、何が探れるというのか」

「う、うむ」


コサル侯は汗をぬぐっている。冷たいお茶でも出してあげようか。


「したがって、いくら人数が多くても俺たちを止められないし、俺たちが何もしようとしなければそれこそ人数は必要がない。そして俺たちは何もしようとしていない、と主張します」

「な、なるほど」

「一つ目はこれでいい。では二つ目。大人数でおそわれる可能性はありますか」

「いや、それはまずない。もっとも町と町の間に盗賊は出るので、確実とは言えないが」

「では、私たちが遭うかもしれない危険とは、町で、あるいは夜に、少人数が相手ということになりますね」

「そうなるな」

「では、護衛は必要ない。先ほども言ったが、私たちは強い」

「し、しかし」


ケナンが鼻で笑った。10代が俺が強いって言ったら、確かに笑っちゃうかもしれないね。


「俺たちの馬車には、あと二人乗れます。だから二人までならついてきてもいい。余計な馬車になどついてこられたら機動力が落ちる。そういうことです」

「し、しかし供の者が」

「すべて自分たちでできます」

「女性が」

「女性も含めてです」


コサル侯がすがるように私たちを見た。ごめんなさい。私たち女性陣はニッコリしてごまかした。


「真に強いものは自分が強いなどとは言わぬ」

「謙遜など時間の無駄だ」


セロとケナンはにらみ合った。


「お前はよくても残りはどうする」


ケナンが他の人に話をずらそうとする。


「あ、俺も大丈夫なんで」


ウィルが軽く言うと、


「私も非常時に邪魔にならない方法は心得ています」


ダンもそう言った。ダンは剣はたしなむが強くはない。そしてそれを自覚しているからある意味誰より潔い。


「先ほどから聞いていれば、半分は女性だろう。供にしても、護衛にしても、なぜ女性のことを考えないのだ!」


うん、考える必要がないからなんだけど……。セロは私とマルのほうを確認してから、こう言った。


「では護衛が俺たちを守るに値しない力しかなかったら、引いてくれますか」

「少なくとも、人数を減らす方向で中央には確認をとることを約束しよう」


コサル侯はため息をついてそう妥協した。セロは静かに問いただした。


「そうすると何日ここに留まることになる?」

「往復を急いでも10日、決定が下りるのに何日かかるかによる」

「たかが帝国貴族のことで。なるほど平和な国らしい」


セロの皮肉に部屋は静まり返った。私は窓の外を眺めて考えた。穏やかな生活って、なんだっけ。セロは立ち上がってこう言った。


「時間が無駄になる。早く中央に使者を送るためにも、今から護衛の力を見せてもらおうか」

「……いいだろう。前庭に集合させる」


一応国境なので、国境に配備された兵士はいる。したがって兵舎もあり、前庭に訓練場もあるらしい。


「さ、一応着替えるかあ」


とその場で着替えようとしたウィルだが、別室を勧められていた。


「あ、私たちにも着替えの部屋を貸してください」


私が言うと、コサル侯は、


「まさか一緒に行くのか。ご婦人は部屋で休まれていたほうが」


と気を使ってくれた。


「連れが気が利かないとご婦人がたは苦労するな」

「ケナン」

「ふん」


コサル侯にたしなめられてケナンも出て行き、私たちは別室に案内された。


「久しぶり。腕が鳴る」

「いつもセロたちが相手じゃねえ。強いけど、ちょっと飽きるよね」


楽しそうなマルに私も同意する。さて、毎日朝の訓練はしていたけれど、フィンダリアの兵士たちはどれほどの強さだろうか。


「アーシュだって楽しそう」

「だって一応冒険者だし? A級だし?」


メリダで認定されたわけではないが、このたび私とマルも、グレッグさんにちゃんとA級認定してもらったのだ。最近ダンジョンに行っていないから、少し魔法は錆ついているかな。


「ねえ、魔法は」

「なし」

「だよね」


それを聞いてサラはちょっとあきれたように言った。


「もう、剣か魔法かってことじゃないでしょ。そもそもアーシュもマルも何で戦う気なの? たぶんウィルかセロ一人で十分でしょうに」


私はマルと顔を見合わせた。


「だって」

「ねえ」


機会があったら戦いたいもの。そういうものでしょう。


「穏やかな生活は、戦いたい人のところには来ないのよ」


正論は痛い。さ、前庭に集合だ!


10月12日2巻発売記念4日目。

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