メリルの子どもたち
今日4話目です。
6、7の月は、販売で怒涛のように過ぎ去ったが、午前中買出しと下ごしらえをすませてしまえば、案外午後は楽だった。解体所でまめに働いたら、セロとウィルの帰りを待って、日が沈むまで、市場で遊ぶことが多くなった。
市場には、街の子も遊びにくる。親のいる子は、午前は学校に行き、午後は手伝いや遊びだ。孤児の子たちと接点はなかったのだが、ここではじめてぶつかることになった。
「孤児はどっかに行っちゃえ!」
などとはやす子もいたが、現実には、荷物運びとして働き、ギルドで訓練もしているセロとウィルとマルのほうが、ずっと強い。私は……うん。
別に弱いやつが騒いでてもどうもない。ということで、やりました、現代日本の遊び。これぞチート。まずはだるまさんが転んだ。だるまはなかったので、その時によって、「ギルド長」「王さま」「領主さま」などを転ばせた。そして、色鬼。
さあ、釣れましたよ、子どもたちが。結局、街の子も、孤児も関係なかった。その中で一番盛り上がったのが、ドロケイだ。ケイドロか?警察もドロボウもわかりにくいので、騎士団と盗賊ということにした。騎士団?見たことないけどね?最初騎士団が人気だったが、盗賊が出し抜くのも面白く、拮抗した。
街の人も、暖かく見てくれていた。
そんな中、ある日セロが、
「学校って、どんな?」
と言い出した。
街の子のリーダーのダニエルが、教科書を見せてくれる。
書き方、計算、歴史、地理だ。ダニエルはセロとウィルと同じ10歳なので、小学校の上級になる。
学校に行ける子は、8、9歳で初級、10、11歳で上級となり、読み書き、計算、メリダ、つまり自国や世界の歴史、地理などを習う。
12歳からは、試験に合格すれば王都の学院に行ける。そこで3年間だ。
けど、孤児や、貧しい子は学校にはいかない。
識字率は、あまり高くないのだ。
セロは、地理の教科書をみて、
「これ、読みたいな……」
と言った。そうだ、セロは冒険者になって、遠くにいきたいのだ。憧れるような目をしていた。
「オレ、教えようか」
ダニエルが言った。
「いいの?」
セロの目が輝いた。
そこから、青空教室がはじまった。
ギルドの依頼票も、読めた方がいい。
みんな、字は習いたかったのだ。
それをみたやおやのおばあさんや、町の人が、古い教科書をくれた。
ダニエルは、ダンと呼ばれていて、街一番の商人の子だ。特に不自由もなく、やりがいもなく育っていて、学校の勉強だってそんなに好きではない。どうせ父さんの跡をつぐだけだ。
忙しくても、毎日楽しそうなセロたちがうらやましかった。冒険者にもなってみたかった。わらの布団にみんなで寝るって、どんなだ。窓もないんたぜ。
そんなセロたちが、頼ってくれた。
でも、教えようとしても、初級のことですら忘れてる。セロたちの質問に、うまく答えられない。だめだ、これでは。
ダンは家に帰ってから、毎日勉強し直した。特に、歴史と地理は、セロがよく質問する。学校で習ってないことも聞かれる。家で、父さんにも聞いて勉強した。本も読んで、そのことも教えた。
気がつけば、8月には、初級の2年は教えきっていた。学校の成績は一番になっていた。
そして、お陰さまで、私も初級まで終了です。マルはどうかと思ったが、ダンの教え方はうまかった。教室に行けなかった日は、行った子が他の子に教え、孤児たち全員が初級を学ぶことができたのだった。ダンとセロとウィルの友情は、生涯続いた。
私がすべて、背負わなくてもいい。
手をつなげば、どこまでもひろがる。




