表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

221/307

アーシュ14歳13の月見守っているから

どうしてもここで一旦話が区切れるので、今日は少し短いお話です。

「グレッグ、メリダに帰りましょうか」

「ん?」


少しうつむいて歩くアーシュたちを見送りながら、カレンはグレッグにそうつぶやいた。


「私のために帝国に来てくれただけでなく、結局大きな仕事をしてくれているあなたには感謝してるの」

「そうか」

「でもね、父にも母にも元気になった姿を見せることができたから、もう十分なの」

「うん」

「私は帝国の民。アレクセイ様に頼まれたら断るわけにはいかないの。でもアーシュは違うわ。アレクセイ様も、フローレンスも、そのことを何もわかっていない気がするの」

「そうだな」

「2人が、ひいては帝国が、今回のことで本当にわからないようであれば、アーシュを連れて帰りましょう」

「そうしようか」

「端から端まで馬車で2週間。小さな小さなあの国へ。アーシュがうつむかないあの国へ」


グレッグはカレンの肩をそっと抱き寄せた。


「その時は必ず返すと私も誓おう」


後ろから声がかかった。


「大使」

「お前もまだ大使と呼ぶのだな、それでもいいが、グレッグよ」


アールはもう見えなくなったアーシュの後ろ姿を追った。


「これでもし事業が成功すれば、帝国はアーシュを離したがらないかもしれない。あの手この手で引きとめるだろうな。自由に動かすことが、あの子のよいところを一番引き出すとも知らずに」


アールは続けた。


「こんなあの子が見たくて留学させたわけではないのだ。メリダに戻ることであの子の翼が戻るのならば、私は全力でそれを支える」


「わたしもそうしよう」

「マッケニー」

「しかしメリダに戻すというのはいただけないな。私がキリクにつれていこう」

「息子と娘を連れていきたいだけだろう」


アールが笑う。


「それもある。国にも利になるだろう。でもそれ以上に、あの若者たちが大好きなのだよ。キリクに来て、果てしない草原に目を見張り、馬を駆り、ダンジョンで張り切る姿が目に浮かぶ」


マッケニーも見えなくなった息子たちの後ろ姿を目で追い、かすかにほほえんだ。それを少し離れた所から、ローラントとディーンが眺めていた。


「ローラント」

「侯爵」

「何を思う」

「友との距離をつかみかねている、ただの小さな女の子だと」

「その通り」

「病の治療法を見つける、涌きをおさめる、冒険者を育成する仕組みに孤児の雇用を組み込む、停滞していた学校を動かす。弟のイザークの何と成長したことか」

「ふむ、アロイスも誇らしかった」

「それをあの小さな女の子がやったのかと。信じられぬ思いと、あの小さな肩にかかる重さとを。今はただ、それが心配で」

「我が国から見たら、利用できるものは何でも利用すべきとは思わないのか」

「視野が狭くなることの恐ろしさは、まさに今学んでいるところです」

「成長したのは弟だけではないということか」


ディーンもアーシュたちの帰った先をながめた。


「アレクセイ様の、あきらめていた生を取り戻してくれた子羊たち。フリッツによると、それは献身的だったそうだ。手の届くものなら何でも助ける、そういう子たちなのだよ。しかしそれで甘えてしまったのだろうな、その手を自分の物と勘違いしているように見える。私とブルクハルトは反対したのだが。違う国の、違う価値観、違う生き方を持った自由な若者たちなのにな」

「私たちがすべきことは」

「なるべく早く、帝国の力だけで病を治療する体制を作ることだ。年若い少女に甘えずにすむように」

「そうですね」


その頃、部屋に残ったアレクは、フリッツにお茶を入れてもらっていた。


「もっとあっさり引き受けてくれると思ったのだが」

「アレク様、彼女はまだ14歳の学生です。やりたいことも多いでしょう。頼り切ってはなりませぬ」

「わかっている。ただ私は、苦しかった時、額にあてられたあの優しい手を、今も苦しんでいる民にも分け与えてほしいと思っているだけだ」

「フローレンス様にももっと気を使いなさいませ。15歳は難しい年頃です」

「フローレンスか。もっと落ち着いていると思ったのだが」

「落ち着いた15歳など、何の魅力もありませんよ。常に気にかけ、優しくなさらないと」

「あー、気をつける」

「それから、セロ様の言ったことを真剣に受け止めてくださいませ。二年いなくても何とかなったのです。一週間くらい政務は棚上げできるはずです」

「セロか。あいつはいつでもアーシュの騎士だな。わかった」


体はほぼ元通りになった。ただ、眠れぬ夜、子羊たちの声が聞きたくなる。眠りにつくまで続く、優しい話を。ただの友だちでいられるのなら、また話しに来てくれるだろうか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ