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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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アーシュ14歳13の月発表会

発表会の何が見事だったかというと、それはアロイスとイザークだろう。アロイスの騎士科をまとめあげて訓練をする手腕は学年を越えて発揮された。


一方、イザークの方は裏方だが、運営は発表側よりも大変だ。あまりやる気のない普通科の生徒に仕事を分担させ、公平にやらせていく。テオドールもエーベルも走り回り、協力を惜しまなかった。


私たちも、涌きの英雄ということで参加を打診されたが、辞退した。騎士科が自ら提案した発表会だ。どうしても目立ってしまう私たちは遠慮すべきだと思った。


学校での発表会、しかも見応えのある騎士科のものということで、多くの保護者が訪れた。また、非公式だが、アレクも観戦することになっている。


今回の特徴は、個人戦がなく、すべてクラス対抗か学年対抗ということだ。私たちがやった、総大将からリボンを取ったら勝ちという対抗戦は、単なる乱戦から、作戦を立てて行う高度なものに変化していた。守るもの、攻めるもの、大将に突進するもの、おとりになるものなど、クラスによって多彩な作戦が見られた。


騎士は一対一が基本と思っていた保護者も騎士隊関係者も最初は驚いていたが、次第に引き込まれて夢中になっていった。大将のリボンが取られた時は、観客からも歓声が上がった。制限時間があるので、1年生で、3年生との引き分けを狙い完全に防御に徹するクラスもあった。その粘り強さは賞賛ものだが、3年生の実力に結局はすべて倒されてしまい、それでも温かい拍手をもらっていた。


私たちは、時折休憩にくる保護者にお茶とお菓子を出しつつ、興奮して試合の感想を語るのを楽しく聞いていた。お茶とお菓子の評判も上々で、


「どこのお店のものかしら」


と聞かれるので、


「来年開店予定の新しいお店のものです」


と言っておく。嘘ではない、来年こそ開店するのだ。


観客も騎士科の生徒たちも興奮冷めやらぬまま、閉会式となった。騎士科代表としてアロイスが立ち、今日のお礼を保護者に述べた。そして最後に、


「今回、発表会を開催するにあたって、団体戦を発案し、訓練してくれたメリダの留学生に感謝を。そして準備から当日の運営まで、すべての普通科の生徒たちが参加し手伝ってくれました。目立つことのない仕事をしっかり行い支えてくれたことに感謝します」


と言い、留学生代表のセロと普通科代表のイザークと握手した時には、最大の拍手と歓声が上がった。こうして発表会は幕を閉じたのだった。


しかし、その努力がわからない者もいる。次々と保護者がやって来て賞賛する中、アロイスとイザークのもとにイザークの父親がやって来た。そして誇らしげなイザークに、


「お前がなんの仕事をしたのかまったくわからん。普通科はまったく目立たぬではないか。来て損をしたわ」


と言い捨てた。思わず言い返しそうになった私を抑え、アロイスが静かに言った。


「確かに騎士科が発案した企画ですから、普通科は目立たなかったかもしれません。しかし、訓練していただけだった私たちをよりよく見せるために、普通科の生徒たちが陰でどのような努力をしたか。特にイザークは、やる気のない生徒もまとめあげて、しっかり働いてくれました」

「ふん、侯爵家の者が下働きか」


イザークはうつむきそうになった。この行事を通して仲良くなったテオドールとエーベルが励ますように隣に立ち、私たちが後ろに立った。がんばれ、イザーク、うつむくな。イザークは顔を上げた。


「目立たず国の内政、外交を支えるのが文官の役目。目立たなかったと言われるのは最高の栄誉です」


侯爵は悔しそうな顔をし、私たちにちらりと目を向けると、


「付き合う者を選ばぬと、生意気で役立たずのままだぞ」


と言い捨てて去っていった。しかし、グレッグさんと一緒に来ていたイザークの兄のローラントは、


「お前を誇りに思う」


と言い、イザークを涙ぐませていた。なぜ家族と来なかったのかというと、「ギルド長といるのが今最高におもしろい」のだそうだ。


「どんな形であれ、お前が卒業して一緒に働けるのが楽しみだ」


という兄に、ついに涙が一滴こぼれ落ちたが、私は見ないふりをし、マルは最近夢中になっている刺繍をしたハンカチをそっと手渡した。え、いつの間にかマルの方が女子力が高くなってる……ちょっとだけショックを受けた私だが、ローラントさんは私たちに、


「涌きの折は助けてもらったな、ありがとう。今さらながらギルドとダンジョンの勉強中だ」


と声をかけて帰って行った。グレッグさんは、相手によって態度を変えることがない。めんどくせえが口癖だが、よく働き、よく面倒を見る。常に上に立つ立場だったローラントさんにとって、それはとてもうれしい事なのだろう。


そしてこっそりアレクがやってきた。あまり会いに行っていないが、だいぶしっかりした体つきに戻った。皇弟が来たとなるといろいろ面倒なので、一応お忍びらしい。


「今日の発表会は素晴らしかった。騎士隊でも取り入れてもいいな」


と言い、終始ご機嫌であった。ただし、


「アーシュ、話したいことがある。今度の週末にでもみんなで来ないか」


と言う。


「フローレンスを連れて行ってもいいですか」

「病の件なので、おおごとにしたくないのだが」


と少し渋い顔だ。


「例の件なら、短期ですむことではありません。フローレンスはいずれあなたを支える人です。最初から関わらせたほうがいいと思うの。身分から言っても、カレンさんかフローレンス、あるいは2人とも必要です」


私はそう言った。


「それに、アレクも友だちだけど、フローレンスも友だちで、友だちの婚約者に友だち抜きで会うのはなんか嫌なんです」

「なるほどな、私の一存では今は何とも言えないので、確認して連絡する。フローレンスか……」

「私より一つお姉さんですよ。美しいだけの人ではないことは、アレクも知ってるでしょう。今回の発表会だって、すごく手伝ってました」

「小さい頃から知っているから、どうも幼いような気がしてな」

「婚約者だと思って安心して放っておくには、学校は男子が多すぎると思うけどな。騎士科の生徒はかっこよかったし」

「え、アーシュ、それはどういう意味だ」

「さあ?」

「アーシュ?」


アレクはフローレンスを放っておきすぎだと思う。少しはハラハラするといいんだ。結局フローレンスとカレンさんも招き、次の休みにアレクの所に行くことになった。ケーキを焼いていこう。


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