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この手の中を、守りたい  作者: カヤ
帝国へ行く子羊編

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215/307

アーシュ14歳10の月同級生

セロが一瞬嫌そうな顔をした。2人はこう言った。


「今日はダンジョンに来るって聞いてたから」

「親にはちゃんと許可をとってきたの。ダンジョン、一緒に行ってくれる?」


なんと!そんな約束になっていたとは。


「一緒には行かないって言っただろう」


なってはいなかったようだ。


「だってひどいことしたライナーだって連れて行ってたじゃない。不公平だわ」

「ライナーは友だちだ。騎士科のやつ全員の面倒を見るわけにはいかないから」

「でももう来ちゃったんだもの。2人だけでは不安だわ」

「ギルドの初心者講習に出ればいい」


セロが冷たいのでウィルにほこ先が向かった。


「ねえ、ウィル」

「うーん、まったくの初心者はちょっと。オレたち生活費稼ぎに来てるんだし」

「あら、お金に不自由はしてないって聞いたけど」

「そんなことどこから……」


ウィルも不愉快そうに眉をしかめた。


「悪いけど、今日は魔物肉も持って帰らなければならないし、自分たちで行ってくれ」

「だってアーシュだって行くんでしょ」

「は?」

「騎士候補でもない女の子がいくんだから」

「君たち、最初の対抗戦見なかったのか」

「見たわよ。セロもウィルも素敵だった」

「マルもアーシュも戦ってただろう」


彼女はチラリとこちらを見て言った。


「ちいさくてよく見えなかったわ」


なん…だと…


なんてね!久しぶりの肉食系女子が出た。この子たちがアレクの隊に入るかもしれないと思うと、ちょっとやれやれだ。いつも私たちと一緒にいたライナーでさえ、騎士の何たるかを自覚していなかったくらいだ。この調子では、騎士科で甘やかされてるんだろうなあ。


それにしてもいつも思う。もしセロやウィルに近づきたいのなら、本人に行くより、私かマルを懐柔した方が早いのに。私やマルに優しい女子には、セロもウィルも優しいのだ。ナズやフローレンスにはかなり親しく接している。そうして、すきを見て少しずつ仲良くなっていったらいいのに。いや、よくはないが。それなのに、悪口なんか言っちゃったら、それでもうアウトだ。でも、そんな気も頭もなさそうだ。


その間にエーベルが係の人を連れてきた。あれ、ニコとブランだ。と言ってもしょっちゅう顔を合わせてはいる。北に行かずに、グレッグさんの手伝いをしているのだ。もちろん、ノアさんたちもいる。結構おもしろいと笑っていた。


ニコもブランも、大柄でいかつい雰囲気だがハンサムで実は面倒見もいいから、なりたて冒険者には結構人気があるらしい。


「今日は俺たちも初心者担当だ。アーシュの友だちか?」


私は首を振る。ニコはセロたちを見た。


「あー、うん」


めんどくせえって顔をした。ブランは、


「結構かわいいじゃん。連れてってもいいぜ。解体のときにどれだけ我慢できるか見ものだな?」


とニヤリとした。あきれた。


「だって、新人担当なんてそのくらいの楽しみがないとな」


ソフィーに手紙を書こうかな。


「待て待て、冗談だ」


本気で焦っている。そんな話をしている間に、セロたちの所に人だかりができている。珍しくセロとウィルが怒りそうになってる。なんで気づかないんだろう。とりあえず、セロたちを助けに行こう。


「セロ、ウィル、もう行かないと」

「ちょっと、話してる途中なんですけど」


私はセロの隣に行き、彼女たちを振り返った。


「何を?」

「関係ないでしょ、あなたには」

「なぜ?私はセロとウィルとはパーティを組んでるのに」

「一緒に連れてって言ってたのよ」

「ふーん、いいよ。女子の冒険者は珍しいから、私が連れてって教えてあげる」

「え、いいえ、セロとウィルと行くわ」

「どうして?私はC級よ。セロとウィルはA級、バランスの悪いパーティは組まないものよ。あなたたちと私とエーベルの4人でいいかしらね、さあ、行こうか」


私はエーベルと目を合わせてダンジョンに向かおうとした。


「ちょっと、勝手に決めないで!」

「え、ダンジョンに入る勉強でしょ?私は優秀な先輩よ」


周りからも、


「あの子に教えてもらえんのか、うらやましいな」

「強いからな」


などと声があがる。セロたちと潜ることしか考えていなかったのだろう。行きたくないとも言いづらい雰囲気になり、困っているようだ。


「初心者講習希望の冒険者は君たちか」


ニコが声をかけた。


「え?いえ、この人たちと一緒に」

「行かないから」


とセロとウィル。


「行こうよ」


と私。


「さ、ダンジョンの心得から解体まで何でも教えるからね。行くの、行かないの?ムリにダンジョン行かなくてもいいんだよ」


ブランに言われ、取り付くしまもないセロとウィルを名残惜しそうに見て去っていった。私をひとにらみして。あら、親切にしたのに。私はその後ろ姿に舌を出して、振り向いたニコに見られてしまった。ニコは片方の眉を上げてニヤリとすると、何も言わず去っていった。


「ふん」


私は胸を張った。


「助かったよ」

「帝国も話を聞かない人多いよね……」


ウィルがため息をついて言った。


「わりとしょっちゅうあるよ、こういうこと」

「「え?」」

「セロとアーシュはこうだろ、マルはああだろ、ダンは絶対特定の人作らないだろ、残るのはオレなわけよ。となると、オレ女子の視線独り占め状態。しょっちゅう誘われてるんだよね、いろいろなこと」

「騎士科だけじゃなく?」

「普通科ももちろんだよ。マッケニーの名前、広がってんのかもな」

「どうりでウィルにしては対応が冷たいと思った」

「うん、飽き飽きしてる」


ウィルのことはかわいそうだけど、それは本人に何とかしてもらうとして、さっきの子たちは引きそうもない。


「アロイス、さっきの子たち、クラブには入ってる?」

「入ってるよ。まあ、少しちやほやされてるけど」

「ふーん、私、マルと一緒にクラブに顔だしてもいい?」

「え、なんで」

「女の子たちの剣の相手になってあげる」

「それで嫌がるなら騎士失格か……いいよ、ほどほどにな。あと男子も対戦したがると思うから、覚悟してこいよ」

「わかった」


ミラナのように、騎士隊でもしたたかでないとできない仕事もある。騎士として強気が悪いわけでもない。でも、それが私たちに関わってくるなら別だ。引かないなら、引かせてみせる。



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